一人で過ごす食卓はとても静かだ、夕食を片付けてソファに座り、気まぐれにテレビの電源を付ける。

 急ににぎやかになったリビングで、緊急速報と銘打たれた地元のニュース番組が流れ始める、どうやら今日の出来事はもうニュースとして取り上げられているらしい。


 不意に足に痛みを感じた、ズボンをめくって痛みを感じた部分に触る。

 傷はすでに治した、姉からのお土産には付けたものの傷を修復するものがあったから事前に装備しておいたのが功を奏した、もしあれを最初からつけていなければ、意識を手放して気絶した段階で、氷柱に貫かれた穴からの出血で死んでいたかもしれない。


 背中が寒くなる、積み上げてきた砂の城が風の一吹きで飛ばされていくように、無理して作り上げた勇気が圧倒的な死の恐怖によって塗りつぶされていくような、そんな感覚。

 大丈夫だ、生きてる、俺は二回も魔王に襲われて、それでもなお生き延びてる。

 膝を抱え込む、ソファの上で縮こまる。

 大丈夫だ、俺は二回も魔王を倒した、傷だらけではあったけど、勇者がやるようなことを俺は二回もできたんだ、だから大丈夫だ。


 必死に自分に言い聞かせながら、心のどこか別の場所で冷静に物事を考えている自分がいる、ただの逃避だと、そもそもこの魔王を倒すという行為を後片付けは勇者のやる仕事じゃないと片づけたのは俺自身だ。


 姉は、まだ帰ってきてない、この時間まで帰ってきてなければ今日はもう帰ってこないだろう、向こうの世界の魔王が苦戦するほどの強敵なのだろうか?それとも魔王を倒してそのあとの向こうの世界の秘密をたどる旅みたいなものを仲間とともに繰り広げているのだろうか。

 幸いにして明日は土曜日だ、休んでも大丈夫なら姉は魔王を倒し終わっていても仲間との冒険の方をとるだろう

 絶対に、死にはしないだろう、おそらくは負けることもない、これだけは自信を持って思えることだ、姉が――勇者が、魔王に負けるはずがない。


「魔王に、負けるはずが」


 勝ってきた、魔王に勝ってきた。

 だからこそ彼らはこの世界に来た、だからこそ彼らは勇者への復讐のためにこの世界で俺を狙ってきた。

 この世界に転移させてきた元凶はほかにいるんだろう、だけど、それが勇者に負けたものばかりを集めている理由は当然そいつも勇者に敗北したからのはずだ。

 彼らは、勇者への復讐のために来た。

 勇者は、行かなくてもいい世界に行って倒さなくてもいい魔王を倒してきた。


 じゃあ、こんな目に合ってるのは。

 俺がこんなに死にそうな目にあってるのは、全部姉が中途半端にほかの世界に干渉して、魔王に完全なとどめを刺さなかったからで。


 全部の原因は、姉なんじゃないか――


「……ばかばかし……」


 姉が、勇者が間違った行いをしているわけがない、だって勇者はたくさんの世界を救ってきた、この世界だけじゃなくてすべての世界の勇者なんだから、そんな姉に責任があるわけない、あっていいわけがないんだから。


「寝よ……」


 それでも、心の中でくすぶり続ける黒いもやもやを心の中にしまい込みながら、俺は逃げるように布団に深く潜り込んだ。



「――――――!」

 声がした。

「――――や――て」

 ナニカが落ちる音がした。

「――――どう――て―――」

 赤がはじけた。

「―――――――――大地」

 意識は、そこで暗転する――――。





 今まで経験した中で、最悪の土日だったと思う。

 ようやくまともに動くようになり始めた右腕を地面に垂らし、地べたに這いつくばるようになりながらぼんやりと考える。

 土曜日の朝から最悪クラスの夢見だった、内容なんて覚えてなかったけど、とにかく夢見も目覚めも悪かった、まるでおもりでもつけられたような……いや、体全部がおもりに変わったような気分で体を引きずりながらベットから転がり落ちた、魔王に傷つけられた部分の痛みがもう一度よみがえったような感覚だったのを覚えている。

 その日相手にした相手は、蛇のような下半身に女性の体を持つ異形の魔王だった。

 やはり勇者に負けたのであろう、体はずたずたに引き裂かれており、不快感を催すように動く髪の毛はもともとは蛇だったのだろうか?すべて途中で切られており、太い切断面がより一層、その魔王の異形さを引き立てている。

 どうやって勝ったかは覚えていない、ただ、戦っている最中に蛇にかまれて毒を入れられた、いまだかつて想像すらしたことのないような痛みとともに、体の回復と拮抗するように指の先端から腐り始めた。


 今日もまだ、その毒が少し残っているようだった、土曜の朝と同じく最悪の夢見で目覚めると、手足がピリピリと震えていた、まあ、寝る前までは涙が出るほど痛くて近所から苦情が、もしかすれば救急車が来るんじゃないかと思うほどに絶叫していたんだけど。

 さっきまで戦っていた相手は、巨大な蟲だった。

 構造的についていそうな羽がないところを見るに、そこを切られて敗北したのだろう、笛が効かない以上ただのデメリットにしかならないんだけど。

 仕方なく聖剣で切るために近づくと、ソレは大量の小型の蟲を召喚してきた、対策方法なんてなかったから蟲を払いのけながら全力で切りかかった、今思えばもう少し戦略を練るべきだったかもしれない、結果的に倒せたからいいが、抵抗されて右腕まるまる一本を食いちぎられた。


 ぼーっと空を眺めながら眼を閉じる、頬を冷たいものが伝った。

 勝手に流れ始めた涙が止まらない、服が涙にぬれてじんわりと色を変えていく。

 痛い。

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 もう完全に治ってるはずの右腕がだんだん腐り堕ちていくような錯覚を覚える、傷一つないからだが引き裂かれて血がしたたり落ちるような感覚に襲われる。

 痛かった、辛かった、それ以上に怖かった。

 なんでこんな目に?頭が働かない。

 いつまで続く?頭が働かない。

 誰のせいで、こんな。


「……ぁ」


 気が付けば、目の前で男性がこちらを見ていた。

 できるだけ人のいない場所を選んだつもりだったけど、どうやら少しは人が来るようだ。

 まだ感覚のふわふわする右腕を握りしめて立ち上がる、体中の痛みはあくまで精神的なものだ、先ほどまで蟲に食われ穴が開いてた右足も、動かせば今すぐ座り込んで吐きたくなるような激痛こそすれど、動かせないわけじゃない。


 そそくさとその場を離れようとした俺の肩を、男性がゆっくりとした手つきで掴んできた、錯覚的な痛みに声を上げそうになりながら立ち止まって振り返ると、男性が口を開く。


「恨んでいるな?」

 ぴしゃりと、体が止まった。

「自分をこんな目に合わせた元凶を、恨んでいるな?」

 視界に黒い靄がかかる。

「抑え込んではいるが、殺してやりたいとさえ思っているな?」

 感情に拒絶したいほど嫌な、それでいてすら感じる何かが混じる。

「――?」

 視界に、思考に、感情に。

 混ざるものすべてを塗りつぶすような黒色が――。





 バチバチと音を放つ魔方陣を見つめながら強く剣を握りしめる。

 今日はすごく目覚めの良い朝だった、昨日までみていた悪夢はみなかったし感じていた痛みは少しも残っていない、濁っていないはっきりとした思考が自分が今からどう動けばいいかを判断する。

 時間が来た、魔方陣がより一層輝いたのを見ると同時に右足を踏み込む。

 右斜め上からの切り下し、召喚されるタイミングピッタリに合わせた渾身の斬撃は、しかし召喚された者に当たることはなかった。

 一瞬の判断で回避したことに下唇をかみながらも次の一手は止めない、骨の魔王に不意打ちでの斬撃が通じなかった、なら当然こいつにもそんなものは通じないだろう。

 左斜めに振り下ろした勢いのまま、踏み込んだ右足を軸に回転する、斬撃に巻き込んだ障害物を、まるでそこには何もなかったかのような勢いで真っ二つに両断しながら剣を振りぬく。

 眼前のそいつはそれを後方に跳びながら回避した、部屋の中で後ろに跳んだそいつは壁に背中を付けながら驚愕したような顔でこちらを見つめていた。

 剣を構え直す、相手の一挙一動を観察しながら間合いを測る。

 息を吐いて集中する、相手は間違いなく今まで戦ってきた魔王より強い、気を抜けば一瞬でやられるだろう、なぜなら相手は――


「……なにやってるのよ、大地」

「なにって、みればわかるだろ」


 心の中でどす黒いナニカが増幅する、溺れそうになるくらいのソレを吐き出すようにして、言う。


「お前が憎い、だから殺すんだ……!!」



 剣同士の打ち合う音が響く、だがそれははたから見れば一方的な光景だった。

 大地は剣を勇者を殺すために振っているのに対して海勇の方はそれを凌ぐために剣を使っている。

 だが決して二人の実力は大地の方が上と言うわけではない、付けている装備品で体を強化しているとして、それにしては不可解な力が加わっているとしても、大地はあくまで本来力を持たないはずのただの人間だ。

 それなのに、海勇が追いつめられている理由は明らかだ。


「目を覚まして!大地!」


 傷つけたくない、ましてや殺すなんて絶対に。

 横薙ぎの一閃を剣で受けながら、海勇は叫んだ。

 その瞬間、大地が腕をブランと垂らした。




 体から何かが抜けて行ったような気分だ、はっきりとしない意識の中で俺は俺自身の声を聴いた。


「クッハハハハハ!目を覚ますも何も、彼は洗脳をされたわけでも正気を失ってるわけでもないぞ?」


 自分の意志とは関係なく口が開き、言葉が発せられる。


「あんたは……!」


 姉の声だ、怒った声を聴くのは久しぶりかもしれない。


「ほう?私を覚えていたか!ならば私が何をしたのか、説明する必要もないよなぁ?」

「ええ、覚えてるわよ……別の生き物に寄生し、寄生先の生き物の悪意を増幅させて乗っ取るクソ野郎!……でも、あの時確かに!」

「仕留めたはず、かぁ?ククク、ハハハハ!ああ、確かに私の最強の寄生先はあの時殺さた、そして私は魔力の壁に閉じ込められた」


 ぼんやりとした意識で会話を聞く、まるで感情を抜き取られたような感覚だ。


「しかし!私も勇者……貴様と同じく異世界を渡り歩く力を持っているんだよ!」

「なっ……!」

「その力でこの世界に来た、そして勇者の弱点を探したところ、何やら弟がいるようだったのでな……貴様を絶望させるために弟に他世界の貴様に恨みを持つものをけしかけてみた、どうやら全員返り討ちにされたようだがな」

「私へ復讐するためだけに、大地を巻き込んだのか!」


 姉の声がより一層険しくなる、場の雰囲気が変わっていくのを感じながら、体はしゃべるのをやめない。


「ああそうさ!そして今、私はこいつの体を、貴様にとっての最大の人質を手に入れたんだ、勇者!」


 徐々に意識が戻ってきた、同時に膨れ上がる憎悪が、殺意が視界を赤く塗り替えていく。


「私を殺すにはこの体ごと切るしかない!さあ、自らの手で弟を殺し、貴様の絶望する姿をを見せてくれ!」


 体の自由が完全に戻る、少し放心したような表情を浮かべている勇者に対して切りかかる、とっさに反応して防御した勇者に対して追撃と言うように剣を振り下ろす。

 何度も、何度も何度も何度も何度も。

 振り下ろすたび黒いナニカが心の中で噴き出る、抑えられない憎悪が言葉とともに口から漏れ出す。


「憎い、憎い!お前が……勇者が憎い!」


 再び振り下ろした剣を勇者が受け流した、床を叩き斬りながら回避した勇者に横薙ぎの斬撃を繰り出す。


「特別な力を持った、世界を救える力を持った勇者が憎い!守る力があるのに、守ってくれなかった勇者が憎い!」


 つばぜり合いになりながら叫ぶ、今まで感じてきた劣等感を、憎悪を、怒りを、本音のままにぶちまける。



 ぴたりと勇者の動きが止まった、自分でも何を言ったのか認識できないままに体をぶつけて勇者を吹き飛ばす。

 はじかれた剣とともに背中から地面に叩き付けられた勇者はなぜか次の行動を起こさず、放心したような表情でこちらを見つめていた。

 好機だ、ここまで何一つ隙を見せなかった勇者の大きな隙。

 剣を天高く掲げる、両手でがっしりと握りしめたそれに今持てる力と、憎しみのすべてを込める。

 やっと、やっとこれで勇者を。

 長かった、今までずっとずっと苦悩してきた、間近で見せつけられる差に、何かを成し遂げた時必ず脳裏を過ぎるその存在に、姉を遠く引き離した勇者と言う存在に。

 さよなら勇者。掲げた剣に殺意を込めて、全力で振りおろし――


 カキンッ


 ――間を割って何かが入ってきた、剣が金属音とともに止められる。

 ばかな、とは思わなかった、目の前に広げられたそれが、渾身の力で振り下ろした剣の一撃を受け止めたそれが何か、俺にはよくわかったから。

 それは持ち主にとって邪悪なものを退け弾く絶対の盾、別の世界で伝説の盾とうたわれたそれの持ち主は、たった一人。


「ばーかーだーいーちー!」


 茉菜夏の声が耳に響く、視界が急にはっきりとし出す、心の中からどろどろと溢れ出していたどす黒いナニカが急速に引いていく。

 手から剣が滑り落ちた、腕の力が抜ける、引いていく憎悪の代わりに新しい感情が湧き出てくる。


「茉菜夏……!」


 名前を叫ぶ、別の方に引っ張られる意識を強引にねじ伏せながら一歩ずつ彼女のそばに近寄る。


「茉菜夏……!俺は!」


 怒りも憎しみも思考の外へと追い出す、ただ一言言いたかったこと、今なら言える気がした。


「お前が、好きだ!俺みたいな、力の弱いやつにこんなこと言えっこないって思ってたけど、俺は、勇者を倒せるくらいに強くなったんだ、俺は……勇者の様に強くなれたんだ!だから、俺と……!」


 とぎれとぎれに、かき回される思考の中で必死にかき集めた言葉で伝える。

 目の前の彼女が盾を下した、目の前で深く深呼吸をした彼女が少しの笑みを浮かべる。


「うん、私も……私も好きだよ、大地」


 手が頬に触れる、暖かい感触とともに彼女が小さく息を吐いた。


 世界が揺れた、少し前に同じような体験をした気がする、今までのどんな痛みよりも脳に直接響くような痛み。

 不意に体が抱きしめられた、優しいにおいに包まれながらぼーっと正面を見つめる。


「でもね、大地……私が好きになったのは、大地が強かったからとか勇者の弟だからとかじゃないんだよ」


 耳元で声が聞こえた、諭すような、語りかけるような、少し涙声の混ざった優しい声が。


「確かに弱い部分も少しある、でも、確かに強い芯を持っている大地のことが好きなんだ」


 ああ。

 溶けていく、心にたまった黒いナニカが消えていく。


「だからさ、無理に勇者にならなくてもいいんだよ、大地は、大地のままでいればいい」


 そうか。

 そうだったのか。

 誰かに自分を受け入れてもらえることは、こんなにうれしいことだったのか。


「ガッ、グゥ……!悪意が、この宿主の憎悪が消えていく!」

「……あなたが、大地をこんな目に合わせた原因?」


 再び体が動かなくなった、さっきよりもはっきりとした意識の中でそのことを認識する。

 そうだ、この元凶に俺が体を乗っ取られている事実はまだ解決していない。


「ああそうさ!本当は、もっと兄弟で殺し合う様子を眺めていたかったが……まあいい、どちらにせよこの体は傷つけられないだろうからな、私自らの手で……」

「海勇さん、剣、構えて!大地、ちょっとびっくりすると思うけど我慢してね!」


 魔王の言葉を無視しながら茉菜夏が盾を構えて突進してくる、それに対して俺の体は右手を前に伸ばすだけだった、事実それだけで突進の勢いを止めるには十分だろう。

 彼女が勢いを止めず、盾が右手と衝突してその勢いを殺され――


「はぁぁあ!」


 衝突しない、彼女の盾は右手を貫通させながら一切勢いを止めず眼前まで。

 怖い!目をつむることすら許されない状態で盾と頭が接触する位置にまで近づき、そしてそのまま貫通していく、盾を構えて突進してきた茉菜夏と衝突すると同時に体の自由が戻る。


「うまくいった!海勇さんっ!」


 その盾は俺にぶつからなかった。

 その盾は、俺の中にいた元凶だけを弾き飛ばしてその姿をあらわにさせる。

 現れたのは手のひらくらいの大きさは有りそうな虫だった、はじき出されると同時に逃げ出そうとしたその虫よりも早く駆け抜ける一瞬の光。


「弟に攻撃した罪……!」


 きらめく聖剣、純白の鎧、あの日から夢に見ていた勇者像


「高くつくぞ!」


 一閃、振りぬかれたその剣が音を裂き、元凶であった虫は音すら発さずに消滅した。



 一瞬の静寂、すべてが終わったこの部屋の中で、剣を手放した姉がゆっくりとこちらの方を振り向いた。

 言わないといけない、ここまでの事態になったのは俺の責任だ、姉に怪我をさせてしまった、俺が何も言わなかったから、会話を心のどこかで避けていたから。

 だから、ちゃんと謝ろう。


「姉ちゃん、ごめ――」

「ごめんね、大地……弟がつらい目にあってるのに、気が付いてあげられなかった……姉として失格だよね」


 言葉を制するように、姉が頭を下げる。

 違う、そうじゃない、伝えなきゃ今迄通りだ、ちゃんと、伝えなきゃ。


「姉ちゃん、俺は、姉ちゃんが姉として失格だなんて思ってないよ」


 いつからだろう、姉の行動を勇者として見るようになったのは、姉は勇者だから悩みなんてないと思い始めたのは。


「そりゃあ、姉ちゃん家事のこと手伝わないし、弁当作るのとかも俺がやってるけどさ」


 違ったんだ、姉も些細なことで悩んだり、こんな自分でいいのかなんて苦悩する、ちっぽけな人間の一人なんだ。


「姉ちゃんは、勇者で、英雄で、そしてそれ以前に正義感の強い俺の自慢の姉ちゃんだから!」


 今回の事件で、そんな当たり前なことを再確認できた俺は、きっと一歩成長できたんだと思う。





 電車に揺られながら外の風景を眺める、いつもと同じ日常、違うことがあったとすれば、朝学校を遅刻したことと。


「―――♪」


 隣で鼻歌を歌う茉菜夏と、手をつないでいることくらい。


 ありえないような非日常に巻き込まれて、勇者みたいに魔王と戦った時間は終わり、俺たちはまた普段の日常へと戻っていく。

 この先の日常で、非日常とはまた違った沢山の困難があるんだと思う。

 そんな困難に立ち向かうための特別な、勇者のような力を持っているわけではないけれど、自分が自分として頑張れば、きっと乗り越えていけるはず。


 姉は勇者になった、俺は勇者になれなかった。

 でも、姉は姉のままで、俺は俺のままなんだ、そこに、恥じるべきものなんて一切ない。


「なあ、茉菜夏」

「――♪なに?大地」


 僕らは、今を歩いていく。

 勇者も英雄も魔王も関係ない、自分が認める自分と一緒に。


「好きだ、茉菜夏」

「――ふふん、私も!」

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勇者を姉に持ちまして 響華 @kyoka_norun

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