墓参り編6(完結)
結末から言うと、事件はあっさりと幕を閉じた。
システムを操作していた実行犯が二人組という少人数であったことと、戦闘用のシステムはおろか、武器の類を一切持っていなかった事が僥倖であった。外からの衝撃を0にするストップウォッチのシステムを使用した矢島と瞳子は、ものの数十秒で制圧を終了させたのだ。
そうして事前の話通りシステムを破壊・停止させたあと、新上が呼んでいた現特時の応援が神社に駆けつけて改めて身柄を拘束した。矢島と瞳子は、その応援に来た特時の男に破壊したシステムの解析も丸投げし、後日具体的なシステムの性能と構造を報告してもらう手はずとなった。
***
「それにしても、応援に来てくれたの綾坂君だったとは、噂をすればナントやらというものか」
事件の報告を済ませ一段落した早朝の新上邸で、矢島は驚きつつ笑っていた。
「俺も仕事で丁度こっちに来てたんですよ。だけどタイムアウト事件解決に貢献した矢島さんに噂されているとは、俺……なんかしましたっけ?」
「いや、大したことじゃないさ。ちょ~っと、大事な仕事を引き受けて貰おうって、こっちの楓さんと一緒に相談してたんだよ」
「えっ……」
矢島の言葉を聞いて、明らかに面倒な事はゴメンだと顔に出す綾坂。
すごい人の頼みだから、できれば期待に応えたい……その程度の苦笑いを浮かべている。だがそれでもまさか、数ヵ月後に拉致されて監獄にいるだなんて、想像もしていない表情だった。
「へぇ、君が綾坂くんか。ふむふむ、刑事さんの言ってたとおりいい目をしてんなぁ」
「そうだろう。こいつなら適任だと思うんだよ。腐らず最後まで諦めないタイプだと俺は見ている。まぁ、何があってもこなしてもらわないといけなんだがな」
ふっふっふ、と矢島と瞳子は二人で企みごとをするかのように笑う。
事情を知らない綾坂は、二人の言動に戸惑うばかりだった。
ともあれ、こうして矢島と綾坂は邂逅した。
タイムアウト事件に深く関わっていたと推測される正体不明の組織の捜査、監獄と呼ばれる場所の追跡を、この時に綾坂は引き受けることとなる。
今回も事件の最深にいると思われる墓標のシステムを実行犯に渡した”依頼主”は誰かという謎が残った。これをタイムアウト事件の組織と繋げて考えるのは余りにも早計だが、どちらもタイマーを奪う事に特化したシステムによる事件だ。
矢島はそれも頭に入れておくよう綾坂に忠告する。
矢島の嫌な予感は大体当たると、瞳子は苦い顔をしたが今更どうしようもない。全て丸く収まることを願うしかなかった。
***
矢島は再び三人の墓の前に立っていた。
弔村の怪異はあっさりと幕引きを迎えたため、そこには霧も幽霊もなく、当然旧特時の三人も消えていなくなっていた。
彼は改めて花を添え、黙祷する。
「ありがとう奈緒子、紫上、日花里。最後にもう一度言葉を交わせて良かったよ。おかげで迷いなく前へ進める」
〈墓参り編・完〉
タイムアウト『外伝』 夏葉夜 @arsfoln
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