四辻に響く声

櫻井彰斗(菱沼あゆ・あゆみん)

四辻に響く声


 


 子どもが今より、もうちょっと小さい頃。


 二歳くらいでしたかね?


 その交差点に差しかかると、よくわからないことを言い出してました。


「おかーさん、あのひと、どういうひと?」


 あのひとって誰だ? と赤で止まっていた私は、辺りを見回しました。


「あのひと、どういうひと?」


 娘は交差点を指しています。


 車はたくさん行き交っていますが、娘が指差す先に誰かが立っていたり、ということはありませんでした。


 また、或る日の夜、その交差点で止まっていると。


 突然、

「とびだしちゃ、ダメだよね」

と娘が言い出しました。


「みちに、とびだしちゃ、ダメだよね」


「それ、なにかで見たの?」

 交通安全の番組でも見たのかな、と思って、そう訊いたのですが。


 娘は、

「そとで、みた」

と言います。


 外?


 娘は目の前の交差点を見つめて言います。


「おねえちゃんも死んだんだって」

「……それ、誰に訊いたの?」


「おんなのこ」


 そのおんなのことおねえちゃんは同一人物なのでしょうか?


 それとも別人……?


 また、違う日には、

「こんなじかんに、さんりんしゃ、のってていいんだ?

 おとこのこが、さんりんしゃにのってるよ」

と向かいの道を指差して言い、


 別の日には、

「あのおじさん、だれ?」

と言い。


 なにがあるんですか、この交差点……と思いました。


 確かに、この交差点。

 事故は多いようなのですが、特に誰かが死んだ場所、というわけでもないようです。


 昔から、四辻は、あの世とこの世の境と言われているので。


 霊でも溜まっていたのでしょうかね?


 でも、娘がそんなことを言っていたのは、せいぜい、二、三歳までで。


 そのあとは、その交差点を通っても、なにも語らなくなりました。


 今では、特に霊感などもないようです。


 小さい子は見えるって本当なんですね。

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