出産の話の続きをするぞーー!



 大晦日の夜。ついに分娩台という舞台に立った私。


 お医者さんもスタンバイOK。あとは出産に立ち会う予定の旦那氏の登場を待つばかり。


 ところが、新たな生命誕生を拒むかのように、分娩室の扉を激しく開ける音と、看護士さんの困惑した叫びが響いたのだった。


「旦那さんが消えました!!」


 なにぃーーーーーーー!?


 そう、出産間近にして、旦那氏の姿が消えたのである。



 ☆ ☆ ☆



 時は遡り、大晦日の朝7時頃。


 私は出産に向けて入院した。


 ただし、この時点で陣痛は来ていない。どこも痛くない。


 私は呑気だった。


『破水して、入院なう』


 と友人たちにラインでメッセージを送るぐらいに。




 ついに陣痛がきたのは、15時頃。


「あ、陣痛きたかも」


「ほんと?」


「でも、便秘程度の痛みだ」


「へー」


 私に加えて旦那も呑気だった。

 そして今日は生まれないだろうという看護師さんの予想のもと、旦那氏帰宅。


 陣痛は続いていたが、拍子抜けするほど軽い痛みだった。


 しかしわずか数時間後、は突然やってきた。


(なんじゃこりゃーーーーーーーーーー!!!!?)


 これまでとは明らかに質の違う衝撃がーー本当に突然ーー下腹部で「爆発」したのである。


 出産の痛みを「鼻の穴からスイカを出すほど」と喩えるのを、よく聞いていた。

 しかしこれ、そんな理屈っぽい痛みじゃない!


(う、生まれ変わってしまうーーーー!!)


 自分の体が内側からひん剥かれ、そのまま妖怪変化になってしまいそうだった。本当に。


 だめだ、一人では乗り越えられない!


 旦那氏ーー召喚。


 そして旦那氏によるテニスボール・マッサージが開始された。


 これね、本当に効果あるの。テニスボールで背中の下部をぐいぐい押してもらうと、痛みが少しマシになる。


 そして大晦日の23時目前。


「よく頑張りましたね、分娩室へ移動してください!」


 看護師さんのゴーサインで、ついに出産本番へ。さらに旦那への指示が続いた。


「旦那さんは準備が終わるまで待っていてください。それからこのガウンを着て」


 隣の部屋に移動するだけなのに何度か挫折しかけつつ、私はなんとか分娩台に上がった。


 ところが、旦那氏を呼びにいった看護師さんが慌てて戻ってきた。


「旦那さんがいません! ガウンが脱ぎ捨ててあります!」


 は?


 なんだそりゃーーー!?

 何やってんの!?

 早くしてくれーー! 早く出したいーーー!(本音)


 お医者さんも看護師さんも私も困惑に陥った数分後、旦那氏はひょっこり現れた。


「あ、どうも」


 あとあと聞いたところ、この時彼はゲリピー選手になってトイレに駆け込んでいたらしい。


 旦那氏も「出産」。


「マッサージが終わって、気が抜けてさー」


 と彼は言っていたが、「本当に腹が痛かったのは私の方だよ。ていうかまだ本番迎えてなかったし」と、怒りがこみ上げたのは言うまでもない。

(いや、ゲリピーも大変なんだけどさ)



 その後の出産はスムーズに進んだ。医者せんせいの指示にしたがって、いきむだけ。


 2014年12月31日23時24分ーー元気な産声が上がった。


 それは、感動の瞬間。


 小さな清らかな命が一つ、キャパ狭妻とゲリピー夫のもとに産み落とされたのである。







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