第10章 それぞれの結末

 広い執務室の中で、紙がめくられていく音だけが響いていた。


 マルセルは椅子に腰を掛け、自分の執務机に置かれた二つの書類に目を通していた。


 既に一つは読み終わり、机の隅によけている。


 その書類の表紙には『危険薬物密造事件報告書』と書かれていた。


 現在、マルセルが真剣な顔で読む書類には、『ミダレ茸に含まれる毒と、その危険性に関する報告』とタイトルが付けられ、書類の隅には『魔科学研究所長アヤメ・アーネスト』と署名が入っていた。


 マルセルは、二百ページからなるその分厚い書類を読破し、天を仰いで瞑目して酷使した目をしばし休める。そして再び目を開けると、目の前に立っている男に話し掛ける。


「サイラスよ、お前は何処で、こんな隠し球を手にしたんだ?」


「何のことです?」


「惚けるのは止めろ。お前は何時何処で、こんな大物と知り合ったんだ?」


 そう言いながら、今し方読み終えたレポートの、表紙に書かれている署名を指差す。


「アヤメ・アーネストと言えば、世界中に溢れている最先端技術の殆どを握る、魔科学研究所の所長だ。しかも、あの『ミカゲ』の幹部だという噂もある。そんな、世界の首根っこを掴む様な大物と知り合う機会なぞ、お前如きには無い筈だ!」


 全くもって酷い言い草である。余程、自分では無くサイラスが、くだんの大物とお近づきになれたのが悔しかったのか、彼がサイラスに浴びせる言葉は、どこか忌々しげだった。


 サイラスにしてみれば、殆ど騒動の巻き添えを食ったと言う感覚だったので、到底お近づきになっているとは思っていなかった。しかし成る程、言われてみればそう見えなくも無い。


 勿論向こうの思惑もあったのだろうが、今回のレポート作成を、何の見返りも求めずに二つ返事で引き受け、目の前でふんぞり返っている石頭を砕く様な、パンチの効いた物を仕上げてくれたのだ。利害こそが親交の基準だと思い込んでいるこの男が、そう感じるのも無理の無い事だった。


「まあ確かに、彼等と知り合ったのは偶然ですけどね、特に親密という訳じゃ無いですよ。彼等が協力してくれたのは、利害が一致したからでしょうね」


 サイラスは自身が思った通りの事を口にしたが、勿論マルセルは額面通りには受け取らなかった。


「利害だと? 魔科学研究所は、無敵兵士を作る薬でも売り出す気か?」


「それは無いですよ。彼女は報告書の中で、効能をコントロールする事も難しいし、心身に掛かる負担が非常に大きい為に、常用すれば間違いなく廃人になると言っています。何より私も、薬を使った者と対しましたが、兎に角見境が無くなるんです。あんなのが味方にいても安心どころか、心配事が大きすぎて話になりません」


 実際に、この前の『プリズンリーバ』での乱闘もそうだが、それより以前にレイ達が絡んだ旧市街地の乱闘騒ぎも、薬を使った者同士で潰し合いをしていた。


 ミオやクロエの様に、レオンを守るという分かりやすい目的と強い意志があれば、ある程度はコントロールできる様だが、それでも守護の対象以外であるレイやアヤメを見た時は、明確な敵意を持って立ちはだかろうとしていたのだ。


「まあ良い、使えないというなら問題無い。それに、そいつの開発を引き継ぐ国が出て来たら、あの連中はあらゆる手段で、その国を潰しに行くだろう。ミカゲの警告は素直に受けるのが吉、とも言うからな」


 実際ミカゲの警告に逆らって、国を損ねた例は枚挙に暇が無い。


「兎に角、その報告書と、お前が上げたこの報告書のお陰で、目障りなパラディールを排除出来るし、シュヴィアールを締め上げることが出来る。ご苦労だった」


 マルセルは机の上に置いてある、もう一つの報告書を取り上げて一応礼を言った。


「お気に召して頂いて何よりです。・・・・・・それでは、まだ仕事が残っていますので失礼致します」


 サイラスは居住まいを正してマルセルに敬礼し、踵を返して出口へ向かい、部屋を出ようと扉のノブに手を掛ける。


「サイラス!」


 不意に背後から掛かったマルセルの声に、サイラスはノブに触れた手を止めたまま、肩越しに振り返ってその呼び掛けに応える。


「まだ何か御用でしょうか?」


「いや・・・・・・、何でも無い・・・・・・。行って良いぞ」


 だがマルセルは、よそよそしいサイラスの態度に、喉まで出掛かっていた『家へ戻らぬか』と言う言葉を飲み込む。


「・・・・・・・・・?」


 その反応に、怪訝な表情を浮かべるサイラスだが、直ぐに出口へと向き直ると、扉を開けて外へ出て行った。


 立ち去るサイラスの足音を聞きながらマルセルは呟く。


「こぼれた葡萄酒は、グラスへは戻らぬか・・・・・・」


 そして大きな溜息を吐いて立ち上がると、後ろの窓を開けてバルコニーへ出る。


 サイラスから衛士隊に入ると聞いて、マルセルは裏切られたと思った。


 このドノヴァ領の跡取りが、格下のパラディールの支配下に入るなど、考えられなかったからだ。当然、パラディールに付くのかと反対するが、サイラスはマルセルの言い分など聞き入れず、衛士隊へと入隊し家を飛び出す事になる。


 結局マルセルは、怒りに任せてサイラスを勘当した。


 それから五年、再び自分の元を訪れて妙な頼み事をしてきたかと思えば、帝都から茶々を入れてくる連中に、一喝入れるチャンスだと言って来た。家を飛び出して衛士隊へ入ったのも、半ば内部からの改革も目指してとの事だと打ち明けた。


 衛士隊設立以来、領地の司法は本国が受け持ち、領主が全く口出し出来無い状態が続いていた。そして、七年前に赴任して来たパラディールは、本国での出世を餌に、次々と幹部を抱き込んで衛士隊を牛耳り、数々の不正を働いてきた。


 一応マルセルも、その事を本国へ抗議したが、本国の政務官は地方領主の監督を兼ねるパラディールの報告を鵜呑みにして、彼の抗議に取り合わなかった。いや、もしかすると、グルになって黙殺していたのかも知れない。


 そしてマルセルもまた、その事に気付きながらも、政務官に連なる門閥貴族との対立を回避する為、それ以上の追求を止めてしまった。


 サイラスは、それが気に入らなかったらしい。


『門地を守る為に、民を蔑ろにする領主に、存在価値はない』


 その台詞は、彼のプライドを粉々に砕いた。


 サイラスが家を出る時に残した言葉だ。


 今でもその言葉を、鮮明に覚えている。


 当時は怒りにまかせて、勘当を叩き付けたが、サイラスはその言葉を鼻で笑って冷笑し、一言も言葉を返すこと無く家を出て行った。


 今まではその言葉と態度に怒りしか覚えなかったが、再びサイラスがここへ訪れて初めて、その時に自分へ向けた冷笑の意味に気付いた。


 バルコニー越しに広がる中庭を眺めていると、玄関を出て屋敷の門へ向かうサイラスの、堂々とした後ろ姿が目に止まる。


「奴を見限ったつもりだったが・・・・・・、儂が奴に見限られていたのか・・・・・・」


 マルセルは力無く呟きながら、屋敷を出て行くサイラスを見送った。




 *****




 診療所という所は、元来がんらい静謐せいひつで清潔な場所だ。


 だがここ数日の診療所は、静謐からは程遠く、清潔ですら無かった。


 方々ほうぼうから苦痛に満ちたうめきき声が聞こえ、そこら中が嘔吐物おうとぶつまみれていたからだ。


「こいつは酷いな・・・・・・。これならブタ箱監獄の方がマシだ」


 余りの惨状に、思わずレイは、ひとちする。


 先日起こったベルセルクと言う薬物の騒動で、ここへ大量の中毒者が運び込まれた。


 その薬物は、体力を著しく向上させ、痛みも恐怖も感じさせない狂戦士を生み出す恐るべき薬物だ。ただし、強力が故に反動も大きく、薬の効果が切れると虚脱状態になり、その後数日、全身への痛みと激しい嘔吐を伴う禁断症状を起こす。


 騒動の時に、そのベルセルクが火災で焼け、それによって起こった煙を吸った周辺の住民から、大量の中毒者が発生したのだ。中には薬が適合したのか、禁断症状を発症しなかった者もいるが、殆どが禁断症状を発症して、この診療所でのたうち回っている。


 廊下中に充満している饐えた匂いに、表情を歪めながら目的の病室を目指す。


 暫く歩くと、入り口の前に、二人の少女が立っている病室に辿り着いた。


 レイは二人に声を掛ける。


「よぅ! ミオにクロエ、体の調子はどうだ?」


「ウム、大した怪我もしなかったし、少しだけ怠かった以外は問題無いなかったぞ」


「はい。私はあの後、一日中眠っていたみたいですが、ここに居る皆さんの様な禁断症状は、全くありませんでした」


 ミオとクロエが口々に、レイの問い掛けに答えた。


 それを聞いたレイは『おや?』と思った。


 確かミダレタケの騒動で、ミオは鬱の様な虚脱症状こそ見せたが、禁断症状は見られなかった。そして、『カルム亭』で男のナニを噛み千切った女も、虚脱症状を見せただけだという。


 そこまで思い当たって、ふと、ミダレタケの効果を思い出す。


『八の割合で媚薬効果、二の割合で狂戦士化』


「クロエも『二』の方、ミオと同じだったか・・・・・・。もしかしたら、禁断症状が出ない奴は、皆『二』の方かも知れないな」


 一度実証する必要はあるが、こういう仮説が成り立つ。


『ミダレタケの成分で媚薬効果が出ない者は、禁断症状を起こさない』


 実際ミオも、繰り出した言葉こそ媚薬効果を疑いたくなったが、それ以外は狂戦士その物だった。


「何ですか? その『二』って言うのは?」


「気にするな。ただ、くれぐれも言って置くが、その辺に生えてるキノコは、やたらと口に入れるなよ」


「入れませんよ。食べられるかどうかも分からない物なんて」


「なら、心配は要らないな」


 彼女の常識的な答えに、レイは満足げに頷くと、チラリとミオへ視線を移す。しかし彼女は、ソッポを向いて聞こえない振りをしていた。


 ミオの態度にレイは、ソッと溜息を吐くが、直ぐに気を取り直すと、病室のドアを指して尋ねる。


「それより彼はどうしてる?」


 その問い掛けに、クロエは表情を曇らせて答える。


「それなのですが・・・・・・、リオンが私達を見ると怖がって・・・・・・」


「それで中へ入れて貰えず、城門を護る衛兵の如く入り口で突っ立てる訳か」


「・・・・・・・・・はい」


「身動きできない状態であんなの見せられりゃ、無理も無いか・・・・・・・・・」


 まるで幽鬼にでもなった様な彼女達が、襲い来る男達を焼き払い、薙ぎ倒して蹂躙する姿は、数々の修羅場をくぐったレイですら戦慄を覚える程だ。そう言った事に、余り免疫の無い者なら、トラウマを抱えても不思議は無い。


「まあ取り敢えず、中へ入ろうか」


「えっ? でも・・・・・・」


「気にするな。その内、慣れてくれるさ」


 そう言うとレイは、ドアを開けて部屋へ入る。


 部屋の中では、リオンがベッドの上で身を起こして座っていた。


 彼はレイの姿を確認すると、喜色を込めた声で彼の名を呼ぶが、直ぐに情けない悲鳴を上げる。


「レイ! ・・・・・・ヒ、ヒィッ!」


 警戒する猫の様に耳を伏せたリオンは、恐ろしい物でも見るかの様に、クロエとミオを、指差して尋ねる。


「ど、どうしてそんな化け物を、部屋へ入れるんだ?」


「化け物とはご挨拶だな」


 彼女達に対するビビり方があんまりなので、呆れながら言葉を返す。


「だって! ・・・・・・あの時のコイツら、まるでレイス死霊みたいだったぞ」


(レイスの本物なんて見た事も無いだろうに・・・・・・)


 リオンの言い分に、レイは心の中でツッコむ。


 レイスは、不死を求めた魔術師の成れの果てだ。


 魂を食らうと言われているが、実際は精神攻撃の類いを周囲に放ち、並の精神力の者が近付けば、たちまち精神崩壊を起こして廃人同様になる。余程の猛者でない限り、レイスを直視して無事では済まないのだ。


 勿論、あの程度でトラウマを負うような者が本物など目にしたら、即精神崩壊を起こして、墓の下か檻の付いた病室へ直行である。


 リオンの怯えように、レイは軽く溜息を吐くと、彼女達の後ろへ回って二人の背を押して、彼の前へ突き出す。


 そして言い聞かせる。


「リオン! よく聞けよ! 確かに彼女達は、人を狂わせる薬の煙に巻かれて、狂いこそしたが、お前のピンチを聞いて燃え上がる炎など物ともせずに飛び込んだ、ヒロイン中のヒロインだぞ。特に、後先考えずに飛び出すミオと違って、思慮深いクロエまでなんて余程の事だと思わないか?」


 後先考えずと言われて、ミオはムッとしていたが、また黒歴史を掘り返されて公開処刑されたら堪らないので、グッと我慢して口を噤む。


 一方リオンは、それを聞いてショックを受ける。今になって、自分がクロエ達にぶつけた言葉が、どれ程酷かったかを思い知ったからだ。


「狂っ・・・た? あの薬のせいで?」


「そうだ! 薬のせいでああなったんだ! お前だって、あの煙に巻かれたら、同じ様になっていた筈だぞ」


「そう・・・・・・だった・・・んだ・・・・・・」


 知らされた真実に、リオンは消え入りそうに呟くと、まだ怪我の癒えぬ身でベッドから降りて、クロエ達に向かって土下座する。


「ゴメン・・・・・・。クロエ、ミオ。・・・・・・酷いこと言って・・・・・・」


「リオン! もうその事は良いから、ベッドへ戻って!」


 クロエが慌てて彼へ駆け寄って、謝罪を受け入れると同時に、彼を床から剥がしてベッドへ戻そうとする。勿論レイとミオもそれを手伝い、彼をベッドへと戻した。


 そして場が落ち着くと、レイはリオンとクロエに確認する様に尋ねる。


「二人は、これからどうするつもりだ?」


 するとクロエが先に答える。


「私はアカデミーへ戻りたいです。この世には、私がまだ知らない事、知りたい事が沢山ありますので」


 そう答えるクロエに、羨ましそうな視線を送っていたリオンは、恨めしそうな視線をレイへ向けて答える。


如何どうするも何も、俺はあのゴミ溜めみたいな場所へ戻るしか無いだろ」

 リオンはスラム出身。地位も無ければ金も無い。


 翻って帝国アカデミーへ入るには、多額の学費とそれを担保する家柄が必要だ。

 一応、奨学金制度はあるが、学費が払えない貧乏貴族の子弟が対象で、特定の貴族からの紹介状が必要だ。


 未だに根強い亜人蔑視が横行する帝国で、亜人の為に紹介状を書く様な、奇特な貴族などいないだろう。


 意欲と能力はあっても、境遇がそれを許さないと言うのは、皮肉と言う他無い。


 だがアヤメは、そうまでして帝国アカデミーに入る価値は無いと言う。


 特別講師として何度か招聘された事のあるアヤメは、帝国アカデミーのことを『講師の質が平均以下で、講義の内容も時代遅れの物ばかり。これでは、エアハルトで底辺と言われている学校にも遠く及ばない』と、酷評していた。


 更には学生も、見栄や箔を付けるのが目的で入った者が多く、学習意欲のある者は三割にも満たなかったと言う。


 その様な面子や虚栄の横行する世界では、リオンやクロエが得られる物は極めて少ない。それどころか、研究熱心が仇となって周囲から疎まれ、やがては隔離や排除されるだろうと、アヤメは予言する。


 出る杭は打たれる。或いは愚者の群れが賢者を駆逐する。少なくとも今の帝国はその図式が成立し、次々と逸材を取りこぼしているのだ。


 このままでは、ファビウス帝国に未来は無い。


 だがレイもアヤメも、帝国の未来に興味は無い。


 ただ、そこから取りこぼされる逸材の行く末が心配だった。


 一度レイは襟元を正すと、改まった調子で話し掛ける。


「リオン、クロエ、『グラニート学院』に聞き覚えは無いか?」


 その質問にクロエが答える。


「はい。魔導学だけで無く、この大地に起こることわりを読み解く、『科学』なる新しい学問を学べる場所だと聞いています。ただ、レベルは非常に高く、帝国アカデミーの卒業生が、その研究生部門に挑戦しましたが、入学を叶えた者は帝国軍事技術工廠の創設者、クロヴィス伯爵だけだと聞き及んでおります。そのほかの初等部門と高等部門については、未だに帝国からの入学者は居ないと聞いています」


 彼女の答えはほぼ正解だが、帝国からの入学者は未だ居ないというのは誤りだった。


 確かに初等部門も高等部門も、帝国の入学者は居ないが、実際はベルメールを初めとした帝国の各都市から、何人かの平民出身者が入学を果たして居る。


 ただ、その事実を帝国政府が把握していないだけだった。


 勿論、入学への敷居は高いが、入試の内容は簡単な適性検査と面接試験だけであり、高度な専門知識は要求されないので、平民でも気軽に試験を受ける事が出来る。ただ、面接試験が非常に厳しく、二、三の質問だけで帰る様に言われた者も居るくらいで、口さがない脱落者は『入学は面接官の気分次第』と、揶揄していた。


「私も、アカデミーを卒業したら、研究生部門に挑戦しようかと思っています」


 クロエが強い意志を込めて、将来の希望を口にすると、我が意を得たり口元を緩めたレイは、彼女に提案する。


「将来とは言わず、今から初等部門に編入しないか? 勿論今は断って、改めて研究生部門に挑戦して貰っても良いが・・・・・・」


 それを聞いて、クロエはハトが豆鉄砲食らった様な表情になる。


 彼女が言葉を失っていると、レイはリオンにも言葉を投げつける。


「因みにお前は、断るという選択肢は無い。今日から編入までの間、アヤメが基礎知識を詰め込むから覚悟しろ。それと彼女は、クロエの様に優しくないからな!」


 するとリオンは、いやそうな声を上げる。


「ええ~~っ!」


 しかしその声とは裏腹に、表情はどこか嬉しそうに見えた。


 今まで手を伸ばしても届かなかった事が、今この場で実現しそうだったからだ。


 自失から復帰したクロエが、一つ疑問を口にする。


「でも、試験に通らないと駄目なんですよね。適性試験と面接試験の二つ」


「その心配は要らない。既に面接はクリアしているので、適性は必要無い」


 それを聞いて、二人とも首を捻る。


「面接を・・・・・・受けた覚えが無いのですが・・・・・・?」


 クロエが代表して尋ねるが、レイは気付かないのか、そのまま話を続ける。


「アヤメさんが、お前ら二人の事をいたく気に入ってな。絶対にお持ち帰りすると言って聞かないんだ。だから後が面倒なんで、この話を是非とも受けて欲しい」


「いえ! ですから、面接を受けた覚えがないのですが?」


 質問が聞こえていないと思ったクロエは、少し声を大きくして繰り返す。


 しかしレイは、その質問の答えをしたり顔で返す。


「グラニート学院の面接責任者は、魔科学研究所長だよ」


「「あっ!」」


 その言葉の意味に気付き、二人は同時に声を上げる。


 少々迂遠な言い回しだが、既に面接責任者から太鼓判を貰っていると言う事だ。


「兎に角、だ。リオンの怪我が癒えるまでに、どうするか考えてくれ」


 急な事なので、返答に猶予を与えたレイだったが、その心遣いは無駄に終わる。


 何故なら、間を置かずクロエが答えを返してきたからだ。


「その話、お受けします!」


 少し呆気に取られたレイだったが、直ぐ我に返り、確認する様に問い掛ける。


「良いのか? 身内に相談しなくて」


「はい。元々アカデミーの錬金術学科も、親の反対を押し切って選びました。私の家は、代々軍人の家系でしたので、親は魔法学科か兵学科へ入るのを期待していましたから」


「そうか。だが、どちらにしても、親御さんには挨拶させて貰う事になるぞ」


 子供を預かる以上、筋を通すのは当然だが、それだけで無く、後々に娘を拉致したと、言い掛かりを付けさせない為にも挨拶は必要だ。


 だが、クロエは表情を曇らせる。


「一度帰ったら、もう家を出して貰えないかも・・・・・・」


 そう呟くと、レイは彼女を励ます様に言う。


「挨拶にはアヤメが行くから、心配は無いだろう。それに、あらゆる手段を使ってでも、家から連れ出してくれるはずだ」


「あらゆる手段って・・・・・・」


「なに、ちょっとした交渉をするだけで、快く家を出してくれる筈さ」


 一体全体両親に対して、どんな交渉をするのだろう。クロエは少し不安に思ったが、そう請け合った以上は、必ず果たしてくれると信じる事にした。


「そうですか・・・・・・。ちょっと不安は残りますが、よろしくお願いします」


「まあ、大船に乗ったつもりで居てくれ。それじゃ二人とも。この後も寄る所があるから、帰らせて貰うよ。・・・・・・ミオ! 行くぞ」


 レイはクロエとリオンに暇を告げると、ミオに声を掛けて部屋を出て行った。




 *****




 薄暗い酒場の隅で、二人の男がテーブルを挟んで座っていた。


 壁に掛けられた燭台では、短くなった蝋燭の炎が頼り無さげに揺らめいている。


 ここは『闇夜の鮫亭』、帝国屈指の歓楽街『プリズンリーバ』の片隅にある、小さな酒場だ。


 つい先日、この酒場の近所で火災があり、それが原因でドノヴァ始まって以来の、大乱闘事件が引き起こされたばかりだ。


 そしてその影響で、この酒場も客足が途絶えていた。


 現在店内に居る客は、彼等二人と、一人でカウンターに陣取り、一心不乱に貝のバター焼きを貪っている者の、三人だけだけだった。


「ゼノン大陸へ渡れば良いのか? カイン」


「まあそう言う事だ。兎に角お前さんに、直接判断を仰ぎたいそうだ」


「そうだな。俺も『賢者の石』と呼ばれている物が、どんな代物かは気になる所だ。今までの記録と経験から、ロクでも無い物だとは思うがな」


「それよりレイ。マーロウとは、どこで会えるんだ?」


 するとレイは、カウンターを指して言う。


「あのカウンターの左端から二番目が、奴の指定席さ。ほぼ毎日会えるぞ」


「なるほどな。・・・・・・それより、何でまた、急に異動させるんだ?」


 気になっていた事を、カインはレイに尋ねる。


 調査員の交代は五年に一回だ。


 だがマーロウは、この街に来てまだ三年に満たない。


 勿論、後釜としてやって来たカインも、前任地の期限を切り上げてやって来た。


「ん? お前さんはこの異動に、不服でもあるのか?」


「いや、俺は問題ないさ。寧ろ大嵐が去ったお陰で、毎日が退屈だったからな」


 そう言いながら、カウンター席に座っている少女に目をやる。


 その少女ミオは、男達の会話など全く気にした素振りも見せずに貝を貪り、大皿の上に貝塚を築いていた。


 レイとミオが、ベルメールで出会った時の現地調査員がカインだった。


 彼はレイと共に、ミオに振り回された日々を思い出して感慨に浸る。


「あの時は、確かに毎日が大変だった・・・・・・が、お陰で退屈もしなかった」


 その呟きで当時を思い出したレイは、苦笑いしながらカインに忠告する。


「その話は、ミオの前でするなよ。彼女の中では黒歴史らしいから」


「しないよ。俺も吊されたくは無いからな。ハハハハ」


 それに釣られてレイも笑いを漏らすが、直ぐに真顔になって彼の疑問に答える。


「実はそれもあって、お前さんとマーロウを入れ替える事にした。お前さんがミオのせいで顔が売れてしまったのと同様に、マーロウもこのあいだの乱闘事件で、顔が売れすぎてしまったんだ」


「それで俺と入れ替え、と言う訳か・・・・・・」


「そう言う事だ。ベルメールと違って、色々大変だが頼んだぞ」


「ああ、了解した。・・・・・・それじゃ、一旦ねぐらを探さにゃならんので、失礼する。どうせマーロウがここに現れるのは、夕方過ぎてからだろうし」


 そう言ってカインは立ち上がると、手を振りながら出口へ向かい、そして酒場から出て行った。


 例はそれを最後まで見送ると、カウンターで貝を貪っているミオの隣に座り、マスターへ声を掛ける。


「すまないな、マスター。彼女の相手を見させて」


 詫びるレイに、マスターはミオへ視線を移すと、優しげに目を細めて答える。


「いえいえ。まるで孫娘を相手しているようで、楽しかったですよ」


「思い出した孫娘は、大きい方かい? それとも彼女くらいの子かい?」


 後に続いたレイの言葉で、細めていたマスターの目に鋭さが入る。


 だがレイは、それに構わず先を続ける。


「フレデリク・ロベール・コルトー伯爵。いや、コルトー提督と言った方が、世間的には通るな。数多くの海賊を退治し、最後は大海賊と言われる、キャプテン・カーンと差し違えて波間に消えた、悲劇の英雄ヒーロー


「・・・・・・・・・」


「波間へ消えたあんたが、何故生きているかは、助けた者から事情を聞いている」


「なるほど。あの鯨みたいな船は、ミカゲの手の者でしたか」


「ほぅ。俺達の正体は、お見通しだった訳だ。流石、『プリズンリーバ』のフィクサーと言われてるだけはあるな」


「買い被りですな」


 惚けた表情でフレデリクは答えるが、レイはそれをスルーして続ける。


「シモーヌ・ノエラ・コルトー。コルトー伯爵家現当主、ラザール・フレデリク・コルトーの長女。そしてコルトー提督、あんたの孫娘だな」


 その問い掛けに、フレデリクのポーカーフェイスが微妙に崩れる。


 しかしレイは、それを肯定と受け取り、更に話を続ける。


「そして彼女は、ノエル・シャルマンを名乗り、この街で娼婦をしていた。その理由については不明だが、差し詰めあんたの息子に逆らって、勘当でもされたのかもな。まあそれは一旦置いて、兎に角アカデミー出身で数字に強い彼女は、集金係の冒険者崩れの不正に気付いて殺された」


 だが、祖父ならショックを受ける内容なのに、フレデリクの表情は動かない。


「驚かない所を見ると、やはり既に知っていたみたいだな」


 ようやくフレデリクの表情が動く。


「レギオンにさえ関わらなければ、あんな事にはならなかった・・・・・・」


 悲しそうな瞳を見せ、独り言の様に呟いた。


「まあな。あんたが俺の仲間に情報をリークしたのも、ミカゲを関わらせて連中を潰すつもりだったからだろ?」


「そうです。そしてその目論見は、上手く行きました。私の誤算は、あの冒険者共ろくでなし共をあんな所で始末してしまった事ですね」


 そのフレデリクの告白は、レイの推理を裏付ける。


「と言う事は、クロエ達を逃がした仮面の男は、あんただったんだな?」


「ええ確かにそうです」


「で、逃げる孫娘を執拗に追う連中を、あの橋の所で始末したのか?」


 畳み掛ける様に問い詰めると、フレデリクは穏やかな声で返す。


「はい、仰るとおりです。今思えば軽率だったと思いますが、連中は事もあろうに、私のもう一人の孫娘まで手に掛けようとしました。特にクロエは、私に良く懐いてくれましたから。そんな孫娘を、あの連中は監禁した挙げ句、手に掛けようとした。そこに芽生える殺意を、あなたは否定できますか?」


「まあ無理だな。俺も人の事は言えないし」


 間髪入れずに、レイはマスターの問い掛けに答える。


 彼もまた、家族と呼べる人を失った経験がある。しかもその人を手に掛けた盗賊を、彼は全て血祭りに上げている。


「兎に角、逃がすまでは良かったのですが・・・・・・、人の見掛けは大切ですね」


「もしかして、二人を追い回した傭兵は、あんたの手の者だったのか」


「そうです。ですが、あの子達には彼等が敵に見えたのでしょう。ドノヴァ中逃げ回られた挙げ句、最後はカルム亭で他の傭兵とトラブルを起こしまして・・・・・・」


「なるほど。俺の部屋の扉を壊して、しょっ引かれた連中がそうだったのか」


「それで・・・・・・、あなたは私を衛士隊に突き出すつもりですか?」


「さっきも言ったと思うが、俺も人の事は言えないからな。それに衛士隊にそこまでの義理は無い、と言うより、ここであんたを突き出せば、あんたの実家まで今回の件に横槍を入れて来て、返って全てを台無しにされかねない」


 予想外の答えに、フレデリクは怪訝そうな表情を浮かべて尋ねる。


「では何故、この話を私に?」


「本来の目的は、クロエがあなたの孫娘かどうか確認したかっただけさ」


「何故ですか?」


「あんたに許可を貰いたいからだ。クロエをグラニート学院へ入れる為のな」


 しかしそれを聞いたフレデリクは、少し渋面を浮かべる。


「そうですか・・・・・・。今の私なら賛成ですが、息子がどう言うか・・・・・・」


 言い渋る彼にレイは、彼女の決意を伝え賛成の意義を説く。


「いや、あんたの賛成だけで充分さ。恐らく彼女は、親に反対されても押し切る。だからあんたの賛成は、彼女の心の支えになるはずさ」


「そう言う事なら、喜んで賛成しましょう。きっとあの子の未来は、今よりもっと大きく広がるはずです。どうかあの子の事を、よろしくお願いします」


「ああ、責任を持って預かろう。・・・・・・それじゃ、ご馳走さん。勘定はここへ置いとくからな」


 満足いく回答を貰ったレイが、頷きながらそう言って席を立つ。


 するとミオも、口周りに付いているバターをハンカチで拭いながら席を立ち、店を出て行くレイの後に続くと、肩越しに次の予定を尋ねる。


「今度はどこへ行くんだ?」


「先ずはゼノン大陸行きの船の手配、そして旅支度だな」




 *****




 外洋船が係留されている桟橋は、大勢の人でごった返していた。


 周囲を見渡すと、あちらこちらで旅立つ者とそれを見送る人が、それぞれ別れを惜しんでいた。


 勿論、ここに立つレイも例外では無い。


「随分と急だな。もう少しこの街に居ると思ったんだが・・・・・・」


 サイラスが名残惜しそうに言うと、レイは肩を竦めて応じる。


「まあ俺も、宮仕えみたいなもんだからな。命令が出たらそいつに従わないと」


 実際は命令では無く要請なのだが、それを言い出すと説明が長くなるので、彼等も慣れ親しんでいる、宮仕えと言う言葉を持ち出して納得させる。


「確かに。レイ達の組織は、巨大な商会みたいなものだからな」


 ミカゲ商会、ミカゲ傭兵団、秘密結社ミカゲ、ミカゲ財閥など、国によって呼称は様々だが、一応、どの国からも独立し、政府の機能を持った中枢組織が存在するので、独立国と呼ぶのが相応しいかも知れない。


「兎に角、ゼノン方面が騒がしいので、様子を見てこいと言う事だ」


「戦争でも起きそうなのか?」


 心配そうな表情でサイラスが尋ねる。


 シーレーンが関わる以上、戦争は海外の出来事であっても他人事では無い。


「火種の様な物は沢山転がっているが、緊迫した状況で国家同士が睨み合っている、というのは無いみたいだから安心しろ」


 そしてレイは、思い出した様に話を続ける。


「ああ、それと、闇夜の鮫亭でミオが叩きのめした男達なぁ、レギオンの連絡係だった」


「何だと! どう言う事だ? それは!」


 それを聞いてサイラスは驚く、しかしレイはそれに構わずに話を進める。


「レギオンの本拠地は、ゼノン大陸にあるらしい。つまりここのレギオンは、奴らの出先機関と言う事だ。そしてパラディールの奴は、ミオが連中を叩きのめしたのに乗じて、賞金稼ぎが連絡係を倒した事にして無関係を装い、賞金を掛けた国へ引き取らせ厄介払いしたと言う訳だ」


「まさか・・・・・・、そうした目的って・・・・・・」


「ああ、そのまさかだ。パラディールとシュヴィアールが、連中の不在に乗じて、ここのレギオンを掌握する為だよ」


 サイラスは悔しそうな表情を浮かべて呻く。


「上の連中が、賞金首を倒した者を探せと五月蠅うるさかった訳だ・・・・・・。クソ! とんだ茶番に付き合わされた!」


「まあそう言うな。結局は連中に引導を渡せたんだ。結果オーライって事で」


 そう言ってサイラスを慰めていると、後ろから声が掛かる。


「レイさん! それにミオ!」


「レイ! ミオ!」


 声がする方向に振り向くと、クロエとリオンが立っていた。


「クロエ、それにリオン!」


 クロエは相変わらず元気そうだったが、リオンは腕と足にまだ包帯が巻かれていて、傷が癒えている様に見えなかった。


「リオン、もう怪我の具合は良いのか?」


「大袈裟に巻かれているだけさ。もう治っ、アウッ!」


 怪我の回復をアピール仕様としたが、アヤメに横から腕を突かれて悲鳴を上げる。


「リオン、まだ治っていないのに嘘は駄目。レイ、どうしても見送りたいと、駄々をこねるから連れて来ただけ。見送りが終わったら、病院へ戻って即ベッドに放り込む」


 アヤメの言葉に頷くと、レイは彼女に話し掛ける。


「アヤメ。この二人の事を、よろしく頼んだよ」


「任せて。この二人は育て甲斐のある金の卵だから、間違いなく大切に育てる」


 背後で船員が、大声を上げて乗船開始を告げる。


「そろそろ乗船か・・・・・・。じゃあアヤメ、行ってくる」


 ふとアヤメが、寂しそうな表情を浮かべるので、反射的に頭を撫でながら慰める。


「直ぐ戻るさ」


 だが彼女は、その失礼とも言える仕草を、そのまま受け入れて小さく頷く。


 そしてレイは、ソッと彼女から離れ、見送りに来た者達へ視線を巡らせた。


「みんな! それじゃな!」


「みんな! 行ってくる!」


 レイが皆へ向かって手を振って別れを告げると、ミオもまた同様に別れを告げ、そのまま二人とも背を向けて乗り場へと向かった。


 乗船の為に掛けられた渡し板の前まで行くと、真っ黒に日焼けした船乗りが乗船を急かす。


「もうじき出港だ! グズグズせずサッサと乗り込んでくれ!」


 その言葉に煽られる様にレイとミオは、たわんで揺れる渡し板の上を器用に走り抜けて、船の甲板へ飛び降りる。


 だが彼等と違い、後ろに続いていた女性は、ヨタヨタと渡し板の上を歩き、何とかその終点まで歩き切ったが、その直後に足がもつれて甲板に転がり込む。


 倒れている女性に、レイは歩み寄ると、その女性に手を差し出す。


 女性は視界に入ったその手を取ると、顔を上げてその手の主を見上げる。そしてその女性は、その手の主を見て固まった。


 それから一拍置いた彼女は、レイに人差し指を突きつけて声を上げる。


「れ、れ、レイドリック・ベクター!」


 しかしレイの名を、フルネームで呼んだ彼女とは対照的に、彼は彼女の名前が出て来ない。


「えっと・・・・・・。ギベール商会の店員の・・・・・・・・・」


「フィオナ・ハイランドです!!」


 覚えていない事が気に入らなかったのか、フィオナは不服そうに声を荒げる。


「店はどうしたんだ?」


「えぇっ! それを聞く? あなた達のせいで、お店が無茶苦茶になったのに!」


「えっ、ああ、そいつは悪かったな。まああの肉だるまに関わって、連座させられなかっただけ、マシだと思ってく・・・・・・いや、待てよ・・・・・・。確か、あの店に関わってるなら、事情聴取と証人要請で、足止めを食うはずじゃ?」


「それはもう! あなた達が肉塊オヤジとトラブった時点で、そこはかとなくヤバさを感じたので、サッサと店を辞めましたから」


 つまり彼女は、店が無茶苦茶になったから辞めたのでは無く、その前に危険を感じ取って自分から辞めたのだ。自らの意思で起こした行動にまで責任は持てないと思ったが、それに突っ込むよりも、彼女の危険に対する嗅覚と引き際に感心した。


 ジャンジャンジャン・・・・・・・・・


 船尾の方から、銅鑼どらの音が響き渡る。


 まもなく出航だ。


 船員達が船の渡し板をはずそうと手を掛けた瞬間、それを静止する声が響く。

「待て待て! 待ったらんか~い!!」


 頭にバンダナを巻き、背に大きなリュックを背負った男が、見送りの人々を掻き分けて渡し板へ近付く。人混みを脱け渡し板の側まで来ると、背の大荷物など感じさせない様なダッシュをして渡し板に飛び乗り、これまたそれを感じさせない身のこなしで、渡し板を駆け抜けて甲板へ飛び降りた。


 そして男は、背後の船員へ振り向いて声を掛ける。


「ありがとさん、ほな出港してや」


 呆気に取られていた船員達は、その言葉で我に返ると、慌てて出港準備を進めた。


 渡し板を外して碇を上げ、舫い綱を解いて帆を張る。


 すると、この時間帯に吹く陸風を帆が捉え、船がするすると動き出した。


 レイは船尾まで行き、遠ざかる港を静かに眺め、暫しの別れを告げた。


 陸からの風が彼の頬を撫でる。


 まるでこの大陸が、彼の旅立ちを名残惜しむかの様に・・・・・・。


 この港を舞台にした騒動は、一先ずここで終わる。


 しかしこの先も、彼等を巻き込んだ騒動は、次々と起こるだろう。


 それが彼等の運命なのだから。

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頭領は今日も溜息を吐いている ー港町狂騒曲ー 寅ノ尾 雷造 @KO-IZU

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