質の噺~物語~



~ああ、なんと言う事だろう。

 僕は君に恋をしてしまった。

 もう君無しの人生は考えられない~


~S、さっきから何回同じ台詞を繰り返してるのよ。私は今頭の中で羊を数えるのに必死なのに~


~Nが眠いのは知っているよ、だから言わないといけないんだ。

 ああ、なんて素晴らしきかな素晴らしきかな!僕は君に恋してしまった~


~羊が751匹、羊が752匹、羊が753匹~


~許してくれ、一目見た時から僕は君を愛さずにはいられない。僕は恋多き君に恋をしてしまったんだ~


~羊が859匹、羊が860匹、羊が861匹~


~君は僕の天使だ、神だ、もっと凄い言葉で言いたいが思い付かないが、それだけ君は素晴らしき存在なんだ!

 神よりも天使よりも君を愛さずにはいられない~


~羊が2531匹、羊が2532匹、羊が、えーと~


~2533匹~


~そう、羊が2533匹・・S、いい加減教えてくれるかしら?いきなりうら若き女性の寝室に入り込んで何十回も同じ台詞を繰り返す訳を~


~はは、気を悪くさせたのなら謝るよ。ただどうしてもこれをしないと行けないんだ。

 というか、練習場所がここしか無いんだよ~


~練習?S、誰かにプロポーズするの?

 好き好きだーい好きって~


~そうじゃないよ。僕ね、今度本を作ろうと思ったんだ、色んな本を読むだけじゃ物足りない、自分で話を作るんだって意気込んでみて~


~意気込んでみて?~


~最初はすいすいと書けたんだけどね、アイデアが途中で沸かなくなっちゃって。

 主人公が女性に恋を伝えるシーンなんだけど、一人で考えるのが難しくて~


~難しくて?~


~ああ、それで僕は気付いたんだ。

 君に恋を伝えてみてよくよく反応してくれた言葉を文章にしてみようと思って意気込んで入って書いてみたは良いんだけど、やっぱりアイデアが沸かなくて~


~ははあ、それでさっきから同じ台詞しかでなかったのね。

 S、実は私も今小説を作ってるのよ~


~へぇ、どんな小説?~


~私の頭の中を何千何万の羊が飛び回る小説よ。私が眠るまで終わらないわ。

 それにいっとくけど、私がSの事を本当に好きで、今みたいな台詞を幾らならべられても振り向く事は無いわよ~


~そう、なの?~


~Sは女心が分かってないもの、私は貴方が好きです好きです大好きでーす、だけの告白じゃ誰もついて来ないわよ~


~へえ、そうなのか。Nは物知りだなあ~


~ひょっとしてS、私を女として見てない?

 もしそうなら凄い腹立ちはするけど、

 まあそれならそれで安心というか、残念というか虚しいというか悲しいというか何というかわかりたくないけど、

 1つ分かった事があるわ~


~なにが分かったの~


~S、貴方が書いた小説を持ってきて!

 私も一緒に話を作りたい!~


~ええ、そうなの!?

 それは凄く嬉しいけど、良いの?~


~お・ん・な・に二言は無いわ。

 どうせ

 早く小説を持ってきて~


~ありがとう、N。

 ーーーワザとここで練習した甲斐があったよ~


~ふっふっふ。私が小説好きで好きで仕方ないのを知ってそんな事やるなんて、Sも悪よのう~


~くっくっく、いえいえ、N程ではありませんよぅ~



ーーーfin

 

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