荷の噺~泡沫~


~ははっ、これは面白い話だね~


~S、何を読んでいるの?~


~うん、今読んでいるのは『アイ』という男の話だよ。言動がコミカルで、面白いんだ~


~面白い人ね。Sもよく冗談が好きよね。

虫を食べる蚯蚓に、空飛ぶ船に、本だけじゃ見えない話を沢山聞かせてくれるじゃない~


~そうだね、ボクは冗談が大好きだったね~


~ねぇ、またお話を聞かせてよ。

 面白い話以外の話~


~おや、意地悪なお題を出してきたね~


~だって、Sの話はどんなに悲しくて残酷でも全て面白いもの。話の内容まで面白ければ、私は笑い死んでしまうわ~


~やれやれ、そんな簡単に人は死なないよ。それじゃあそうだね、今日はこんな話をしようか~


ー物語『青い部屋』ー


 昔々ある所に、心に傷を負った少年が小さな家に住んでいました。

 少年は家の外が嫌いで、一度も部屋の外に出た事がありません。

 それでも少年は何も気にはしませんでした。何故ならいつも楽しみにしている景色があったからです。

 それは夜から朝にかけ、闇が隠れ始める頃、窓から太陽の弱い光が部屋が青く染まる。その瞬間が素敵で美しくて、少年は部屋を出ようとはしませんでした。


~ちょっと待って、S、お日様は確か白やオレンジに輝く筈でしょう?

 太陽は青く輝くの?~


~正確には、太陽は青く輝かない。日が少しずつ晴れていく時、景色は黒から青に、青から白に染まっていくんだ。

 この少年は、その一瞬の時間が楽しみで部屋から外に出なくても一日を過ごす事が出来るんだよ~


~それは、少し寂しいわね。

 私は目が見えないから、もし見えるなら色んなものを沢山見たいわ~


~色々見たくないモノを見すぎて自ら目を瞑る人も、この世にはいるんだよ。

 N、世界は沢山の目があるんだから、沢山の見方があるんだ~


~そんなに目があったら、世界はいつまでたっても退屈する事は無いでしょうね。

 ああ、早く目が見えるようになりたいなあ~


~そうだね、早く君の見たいものが見えるような世界になれると、いいね~


続く


 

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