参の噺~知識人~

 『夢追人~参~』

ーゴブリンズアジト・メルの部屋ー


~私の名前は、Nと言います~


部屋に響いた声はそのまま空へ消えて、沈黙が部屋を支配する。

 ススはそのままの姿勢で固まり、アイは気絶したまま動かない。

 私はどうすればいいのか分からず、目をキョロキョロと動かす事しか出来ない。


~あ、えっと、その、何かおかしいでしょうか?~

スス「・・・・・・」


ススはじーっとメルの顔を見つめた後、軽く溜め息をついた。どうやら、完全には信じられなかったみたいだ。


スス「うーん、これは重症ね。

 どうすれば良いのかしら、リーダー分かるかしら?」


ススはリーダーに目を向ける、しかしリーダーは気絶しているので動かない。

 だがススはそんな事気にも止めずリーダーの首根っこを掴み、自分の顔の近くに引き寄せる。


スス「リーダー?何してるのリーダー?

 私が聞いたらハイと答えなさいリーダー。ほら早く起きてリーダー?

 リーダー?」


ススはリーダーの体をガクガクと揺らしたり首をぶんぶんと振り回したりするが、気絶してるので動かない。


スス「・・・ダメね、まあリーダーに聞いた所でツッコミしか入れないだろうから当然だけど。

 となると、知識人に聞くのが一番ね」

~知識人?~

スス「ゴブリンズにはね、頭のおかしい知識人がいるのよ。

 ついてきて」

~あ、待って~


部屋から出ようとする私、でも足元を見るのは生まれて初めてで、足をどう動かせば良いのか分からなくて、床のスリッパにつまづいて私は思わず転んでしまった。


~あ!~


驚いた時にはもう遅い。

 すぐ目の前に地面が迫ってきて、視界が真っ暗になって、顔面を痛みが支配する。


~痛い、いたい!イタイ!~


私は思わず顔を抑え、体をゴロゴロと回転させる。こんなに痛い思いをしたのはいつ以来か、私は覚えてない。

 そうしてしばらく痛みを訴えている内に、自分の視界が見えなくなった事に気付く。


~あ、あれ?周りが真っ暗に?

 ここは何処?~

~どうしたんだい、N?

 いきなり声を荒げてさ~


混乱する私に、Sが声をかけてくる。

 私は咄嗟に思った事を言ってしまう。


~S!ススは何処にいるの?~

~スス?何の話だい?~

~今、私はススと話をしていたのよ!

 リーダーって人がゴブリンズがなんたらって言ってたわ~


私は必死に今目の前で起きた事を説明する。だがSは軽く笑っただけで私の説明を受け流してしまう。


~N、君は夢を見ていたんだね~

~ゆ、夢?

 でも私、地面にぶつかって痛い思いを~

~それは痛いさ、寝ている時に転がってきてボクの本に頭をぶつけたんだから~


え?と頭を傾げる私の右手に、Sは固い物を持たせる。


~はい、この本が君を夢から覚ましてくれた英雄だよ。

 良かったじゃないか、夢から覚める事が出来て~

~あれは、夢だったの?~

~夢だったんだよ、君はゴブリンズの誰かでも無ければ、ススにも会ってない。

 勿論、知識人なんか何処にもいないさ。

 だから、ほら、今日はもう休んだ方が良いよ~

~うん、そうするわ~


私はどうやら夢を見ていたようだ。

 だけど体がまただるくなってきた。私はまた夢を見るのだろうか?

 今度は楽しい夢が見たいな、ススさんは少し凶暴だったから、Sみたいに優しい人に会える夢が見たい。


瞼が重くなり、睡魔に襲われ意識を失いそうになる中、私の心には一つ疑問が生まれていた。


『夢だったんだよ、君はゴブリンズの誰かでも無ければ、ススにも会ってない。

 勿論、知識人なんか何処にもいないさ』


~あれ?私、いつSに知識人の事を話したっけ?~



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