似の噺~夢見人~
中編小説『いろはに』
『夢見人~似~』
私の名前はN。皆は私をそう呼んでいる。
私は生まれつき目が見えない。
だから自分の周りに何があるか分からないし、自分がどんな姿をしているかも分からない。
私に色々教えてくれるのはS。
本が好きで、いつも読んでくれた話を楽しそうに話してくれる。
先日話してくれたメルヘン・メロディ・ゴートの話はとても面白かった。
夢から様々な人の世界を覗く事が出来るなんて、どれ程素敵な事なのだろう。
私はその話を思いだしながら、眼を閉じ意識を手放していく。
そうしてまた、何時ものように眠りについた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「おい、起きろ。
全く、何時まで寝ているつもりだ?」
知らない人の声が聞こえてくる。
誰だろう、と疑問に思い私は瞼を開ける。
見えない筈の瞳に、鮮やかな色の腕の男の姿が見えた。
男から声が聞こえてくる。
「おきろ、メルヘン・メロディ・ゴート!
もう朝御飯はとっくに終わったぞ!」
~え?メルヘン・メロディ・ゴート?~
私は自分の体を見る。
生まれて初めて見た自分の姿は、少年の姿をしていた。
胸を触ると、いつもあった筈のふくよかな二つの丸い何かが何処にもない。
~あれ?無い?どうして?~
「なんだメル、また誰かの夢を見ていたのか?
大丈夫だ、ここが現実なんだぞ」
男は半分呆れたような声で話しかける。
だが私はメルヘン・メロディ・ゴートでもメルでもない。そもそも貴方か誰なのかも知らない。
混乱する私をよそに、男は話を続ける。
「いいか、ゴブリンズたるもの常に冷静沈着にしてあらゆる事に動じない心を持たないといけないんだ。
お前もゴブリンズの一員なんだから、それくらい・・・」
(リイィィィダアアアアアア!!)
「ひぃっ!」
何処かから女性の声が聞こえてきたと同時に、男は凄く情けない声を出して凄く慌てた様子を見せる。
さっきの言葉はなんだったんだろう。
そして狼狽する男に褐色肌の女性が近付いてくる。
「リーダー!棚に隠したケーキ食べたの貴方でしょう!」
「ま、待てスス!
あれは、あれはそう!虫に食べられる前に俺が食べようと言う優しさがおこした事故であって悪気は無いからつまり許してくださいお願いします!」
「食べ物の恨みは・・・食べ物の恨みは恐ろしいんじゃあああああ!!」
「ぎゃああああああ!!」
褐色肌の女性が男をボッコボコに殴り、男がめを回して気絶した後、健やかな笑顔をこちらに向ける。怖い。
「あらメル、おきたのね。
今度は誰の夢を見たか聞かせてくれる?」
~あ、あの、その人気絶してるよ?~
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。
リーダーはこの程度じゃ死なないから」
死なないから大丈夫という問題では無いのだが、彼女にとってはそうなのだろう。
私は『リーダー』さんから目を逸らし、女性に声をかけてみる。
~あの、スス、さん?
一つ宜しいでしょうか?~
「どうしたの?」
~実は私は、貴方の知っているメルヘン・メロディ・ゴートでは無いのです~
「え?どういう事?」
~私は・・・私の名前は、Nと言います~
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