第3話 蛇隠し
これは、私が小学校の頃、一度目の引っ越しをして暫くしてからの話です。
私は、当時、通学路の途中にある山で遊ぶのが好きでした。
山の上には神社があり、下には淀んだ堤と私の家に近付くに従って墓地が広がっています。
私は山の獣道を上に向かって当て所もなく歩いていました。
すると、真夏だというのに艶やかな実を覗かせたいがぐりが、あちこちに落ちている場所を見つけたのです。
見てくれが良くても去年の栗ということもありますから、私は慎重にいがから栗を取り出して、虫が食った跡がないか確認しました。
それは、実際虫食い穴もない、木から落ちたばかりの上等な栗に見えました。
私は面白くなって栗を拾い始めました。
どれくらい時間が経ったでしょう。
いつのまにかランドセルを枕にして眠ってしまったのか、空はすっかり茜色に染まっていました。
私は拾った栗を全てランドセルに詰めると、山を下ろうと歩き出しました。
ですが、いくら歩いても見えてくるはずの堤も墓地も見えてきません。
辺りは夕日に照らされて、地面がやたら赤かったのを覚えています。
私は泣きそうになりながら歩き続けました。
俯いていると、ガサガサッと言う音が聞こえてきました。
目の前の藪が、風もないのに蠢いています。
私がそれに近付くと、藪の中から一匹の蛇が私に飛び掛かってきました。
すぐ目の前まで来ていたと思います。
ですが、蛇は私に触れることなく、私は弾かれたように走り出していました。
気が付くと、私は見慣れた堤の目の前に居て、空はまだ昼間の明るさでした。
家に帰り、時計を見ても下校した時間から1時間も経っていませんでした。
ランドセルに入れたはずの栗はどこにもなく、あれが夢だったのか現実だったのか分からないままです。
筆者の母方の家には、「蛇の死に目に会った者は不幸になる」という言い伝えがある。
かつて白蛇を祀っていたことに由来するという。
あの蛇が筆者を助けたのかは分からない。
うちのかいだん 帰無良 若造 @guli
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