第2話 還る波
祖父から聞いた話です。
私は、長い事、海で生計を立てていました。
主に養殖業をしていたそうなのですが、海で養殖用の網を点検していると時折「かかる」のです。
その日も、私は網を点検していました。
すると背格好からして男と思しき1人が、網に「かかって」いたのです。
本来ならば、すぐ警察に届けなければならないのですが、何分取り調べというのは今も昔も面倒なものでその日一日の仕事を潰さなければならなくなります。
それがなんだかとても面倒なことに思えて、私は、哀れに思いながらも網を切りました。
そんなこともすっかり忘れ、仕事に明け暮れ、1年が過ぎた頃。
私ははまた海に出ていました。
すると、丸太のような「何か」が海の向こうから、私に向かって流れて来たのです。
波に打ち寄せられ、「何か」は私にどんどん近付いて行きます。
すぐ手の届くところまで、「何か」が近づいて来て、私はようやく気が付きました。
その「何か」は、1人の男であるということ。
背丈も、来ているものも、一年前に何気なく流したあの男と同じであるということに。
今度は船に引き上げて、警察に届けました。
今から40年以上も前の話です。
余談だが、筆者が住む地域のとある部落では、海から流れて来た死者を手厚くもてなす風習がある。
他地域では「エビス様」と呼ぶそうだが、その部落では「サカナ様」あるいは「マグロ」と呼ぶ。
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