うちのかいだん
帰無良 若造
第1話 仏間の声
これは、まだ幼稚園に入った頃の話です。
私が自宅の二階で遊んでいると、下の階から自分の名前を呼ぶ声がしました。
男の人の声で、私はてっきり祖父が呼んでいるものと思い階下へ降りて行ったのですが、リビングにもダイニングにも人影はありません。
私の当時の自宅(母方の実家で、この話の数年後に火事で焼失)は、家の一階の真ん中にある仏間を中心に、一階は全ての部屋がロの字型に廊下で繋がるようになっていました。
ロの字の右側にリビングとダイニング、左側は曽祖父と曾祖母の部屋になっていて、二階へ続く階段はリビングとダイニングに面した場所にあります。
それは、二階への呼びかけがリビングもしくはダイニングから発せられたものか、もしくは仏間からのものでないと聞こえないことを示していました。
リビングにもダイニングにも誰も居ないとなると、必然的に声がしたのは仏間ということになります。
廊下にも誰もおらず、幼い私はなんの疑問も抱かずに仏間の襖に手をかけました。
その時、また名前を呼ばれたのです。
私は、大きな声で「はーい!今開けるから!」と返事をしました。
私を呼ぶ声の主が、曽祖父だと思ったからです。
曽祖父を待たせてはいけない。と、私は勢いをつけて襖を開け放ちました。
ですが、中には誰も居ませんでした。
昼間なのに薄暗い和室に、鈍く光る鍍金で飾られた仏壇が鎮座していました。
私はおかしいと思い、中に歩を進めました。
しかし、襖を全て開け、12畳程の仏間をぐるりと見渡してもやっぱり誰も居ないのです。
私が短い首を捻りながら二階へ戻ろうと仏間に背を向けると、
「おい」
低い男の声が、私の耳元で響きました。
この場合、仏間ですから先祖が呼びかけたのではないか、と思われるかもしれません。
ですが、この時、我が家の仏間に安置されている故人は誰一人居なかったのです。
私を呼んだ声が誰だったのか、とうとう分からないまま家は燃えてしまいました。
その後も、筆者が一人で遊んでいると度々、「声」が私を呼ぶことがあった。
それはある時は男の声で、ある時は女の声で、ある時は数人の子供の声だったと記憶している。
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