これが私のぱんつ道
タカテン
これが私のぱんつ道
重い……。
水を含んだアレが、かくも重いとは思わなかった。
普段はほとんど意識していなかったのに、今はその重さに耐え切れず、ずるずると落ちていく。
このピンチをどうすれば脱せられるのか、まったく分からない。
そもそも水を頭からぶっかけられるというハプニング自体、想定外だった。
どうする? どうすればいい?
必死になって考えるも、どんどんずり落ちていく。
ああ、このままではもう……。
美緒は必死に両目をつぶって耐える。
が、周りの歓声が一際大きく、嘲笑を含んだものに変わった時、何もかも終わったことを悟ったのだった。
一、
「え、今、なんて……」
突然学内放送で呼び出されたかと思うと、いきなりとんでもない事を言われた美緒は思わず耳を疑った。
「だからね、香住ちゃんにぱんつを穿いて欲しいのよ」
にも関わらず、生徒会長はしれっと言う。
「そんな、どうして私が……?」
「だって香住ちゃん、香住流ぱんつ道のご息女なんでしょ?」
ズバリ言い当てられて美織はびくっと体を震わせる。
かつて『ぱんつ』とは男性のみならず、女性も穿くものであった。
が、およそ百年前、大宇宙連邦第一皇女・シャラン・ラ・シャラン・ラ・ヘイヘ・ヘ・ヘイ・シャランラによって、ぱんつとは本来持っている能力を制限するリミッターであることが人類に伝えられ、女性はぱんつから解放された(ちなみに男性はアレがズボンのファスナーにひっかかり死亡する者が後を絶たないため、今なおぱんつを着用するのが常となっている)。
かくして女性は穿いてないのが当たり前の時代へと突入するのであるが、その中にあってかつての女性ぱんつ時代の秘術を綿々と継承していく者たちがいた。
彼らは長く不遇な時代を過ごすが、近年ぱんつ道として注目を集め、人気を博している。
そして香住流もまたその一派であり、
「で、でも、私、もう破門されていて」
「あー、噂には聞いてるよ。なんでもぱんつが脱げちゃったんだって? でもね、香住ちゃんにはなんとしてでもぱんつを穿いてもらわなきゃいけないの。だって」
生徒会長曰く、来るぱんつ道全国大会『春一番、パンチラだよ全員集合!』において優勝しないと学校は廃校になってしまうとか、なんとか。
こうして美織は再びぱんつを穿くことになるのだった!
二、
「やっぱり皆さん、素敵なぱんつを穿いていますねぇ」
ぱんつ道全国大会『春一番、パンチラだよ全員集合!』の強風吹き荒れる中、各校代表者たちが次々と可憐なパンチラを決める様子に、美緒のパートナーを務める片山あかりも興奮を抑えられない様子だった。
「さっきの高校は素敵なレースを使った白色セクシーぱんつでした。ううっ、素敵ですぅ」
確かに可愛かった。
「それからその前の高校のTバックも凄かったですよねー」
強風にスカートを煽られ「わーお!」とノリも良く、観客から歓声を浴びていた。
「それに前年優勝高校が穿いていた黒のシースルーなんてもう大胆すぎますよぅ」
あんな格好で迫られたら男の子なんてイチコロだろうな。
「ううっ、本当に私たち、あのぱんつで優勝出来るのでしょうか?」
各校のパフォーマンスにあかりが思わず弱音を吐く。
「大丈夫ですよ、ぱんつ阿呆の片山さんご自慢の一品なんですから」
そんな詩緒利の不安を取り除いてあげようと、美緒はにっこりと微笑む。
生徒会長に命令され、『春一番、パンチラだよ全員集合!』に出場することになったものの、今の時代、女性モノのぱんつなんてそう簡単に手に入るものではない。
そこへ『ぱんつ阿呆』と称されるほどのマニアであるあかりと出会えたのは幸運以外の何者でもなかった。
「それに私たちの一番のライバルは……」
その時、美緒の言葉を遮らんとばかりに歓声が上がった。
「さぁ、次は前年不運のハプニングでリタイアとなった灰林山高校の登場だーっ!」
アナウンサーの声に、さらに会場のボルテージは高まる。
が、優勝候補筆頭・灰林山高校代表の
三、
「おおっと、ひとりはオーソドックスな制服姿に対して、香住流・香住真緒はなんとお祭り姿っ! しかも赤フンだーっ!」
パンチラだっていうのにスカートなし! しかもふんどし姿! 会場の誰もが呆気に取られる中、
「……さすがはお姉ちゃん」
美緒だけはその意図を瞬時に汲み取った。
「さすがって香住殿、あれじゃあお姉さん、反則負けなんじゃないんですかぁ?」
だってチラチラしませんし、と続けるあかりに美緒はよく見て下さいと指差す。
「あ、そんな……前垂れがっ!?」
「なんとー! 長い前垂れが風にはためく度にふんどしがきゅっと食い込んだ股間がちらちらと見えるーっ! これはまさか香住真緒、前垂れをスカートに見立てての演出かーっ!?」
まさに大胆不敵! 奇想天外! 締め込み姿を万人に晒し、堂々と花道を進む姿に乱れなし!
「す、凄すぎますぅー」
あかりだけでない、その場の誰もが思ったことであろう。
今年は灰林山高校の優勝だ、と。
ただひとり、美緒だけを除いて――。
四、
「うう、緊張するのですー」
出番を直前に控え、舞台の袖口であかりは緊張していた。
「大丈夫だよ、片山さんなら」
「でも、私たち、普通のぱんつですよぅ?」
「あ、そうだ!」
危ない、危ない、と美緒は手にしたトートバックからなにやら取り出す。
そして。
「片山さん、スカートを脱いでこれを穿いて」
もうすぐ出番だと言うのに一体なんだろうとあかりは不思議そうな顔をして美緒から手渡されたものをまじまじと見るも次の瞬間、驚きのあまり目を見開いた。
五、
「さぁ、長かったコンテストも次で最後。トリを務めるのは御手洗女子高校だーっ!」
アナウンサーの声に美緒たちが舞台へ駆け出していくと、再び会場にどよめきが起きた。
「なんと、灰林山高校同様、ひとりはオーソドックスな制服姿に対して、もうひとりは下にスカートを履いていないが……こ、これはまさかあの伝説のっ!?」
あかりがえへんと腰に手を当てて胸を張った。
「ぶ、ぶ、ぶ、ブルマだーーっ! なんと、あの伝説の体操着・ブルマを履いているぞ! いや、しかし、これではどれだけ風が強く吹こうともパンチラには……ああっ!?」
あかりの姿を凝視していたアナウンサーがあることに気がついて声を張り上げる。
「ブルマからぱんつがちらりとはみ出ているっ! これは、はみぱん……はみぱんだーっ!」
おおーっと会場がさらにどよめいた。
「まさかこんな手があるとはっ! 先ほどの香住真緒同様、今年の大会はパンチラの常識を悉く覆してくれるぞーっ!」
あかりが堂々とはみぱんを見せ付けるように花道を歩き、戻ってきたところで美緒とハイタッチを交わす。
「香住殿、あとは任せたのですっ!」
美緒はうんと笑顔で頷くと、息をすぅーと吸い込んだ。そしておもむろに傍らに置いたバケツを手に取ると、
「え、何をするつもりですか、香住殿!?」
あかりが驚くのもよそにバケツの中の水を思い切り頭から被る。
「あっ、あー!」
驚くあかり。それでも美緒は笑顔のまま「行ってくるね」と花道を歩き出した。
六、
「なんと香住流・香住美緒、水を頭から被って花道を歩きます! 水が滴り、服がうっすらと透ける様は実にぐっとくるものがありますが、しかし」
そう、水を吸ったスカートは重く、いくら春の強風でもそう簡単にはめくりあがらない。これではパンチラは到底拝めそうになかった。
そして何より誰もが昨年の悲劇を思い出した。
昨年、灰林山高校代表で出た美緒に突然降りかかったハプニング。突然観客席から水を浴びせられ、水を含んだ毛糸のぱんつがあろうことかずり落ちてしまった。
さすがに今年は毛糸のぱんつではないだろう。が、同じシチュエーションで挑んだ今回、演出としては面白いがこれではリベンジ失敗か?
誰もが訝しむ中、美緒は花道の先端、三百六十度観客から見渡される場所に立つと
「な、スカートの中に手を!? ま、まさか!?」
するりと白いぱんつを降ろした。
「だ、だ、脱衣だーっ! なんと香住美緒、今年は自らの手でみんなの前でぱんつを脱いだーっ!」
ぱんつを脱いで何をすると言うのか、誰もが息を飲んで美緒のパフォーマンスを見守る。
すると美織は左足をぱんつから抜くと、右足のふともも、スカートで見えるか見えないかの部分にぱんつを残して恥ずかしそうにポーズを決めた。
風が吹く度に水をたっぷり含んだ脱ぎかけの白いぱんつとふともも、さらにその先がチラチラと見え隠れするその光景にアナウンサーも思わず叫ぶ。
「ああ、なんということでしょう! ついに我々は穿いてないとパンチラを同時に楽しむという新たな次元に達したーっ! 今、我々は歴史的瞬間に立ち会っているのですっ!」
この瞬間、会場の興奮はまさに頂点へと達し、美緒は自らの香住流ぱんつ道を見つけたのだった。
エンディング
歴史に残る優勝を決め、御手洗女子に戻るふたりを乗せた船が大海原を行く。
「優勝しちゃいましたね」
「しちゃったねぇ」
「帰ったらなにしましょうか?」
「美味しいもの食べて、お風呂入って、それから」
ふたりは顔を見合わせて同じ言葉を紡ぐ。
「「ぱんつ、穿こっか」」
これが私のぱんつ道 完
これが私のぱんつ道 タカテン @takaten
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