エピローグ
ある日の学園にて――
槇村聖明依は、学園の制服姿で登校していた。
年相応の姿なのだろうが、やはり気恥ずかしい。
夏休みがちょうど終わった頃に転入することになったので、目立ってしまった。
あの後、聖明依たちは檄・剣警隊を退任した。
将校が引き止めてくれたが、他の隊員までもが引き止めたのは意外だった。
でも警察組織に組み込まれて動くより、たとえ法の権限がなくても自由に動ける方が聖明依にとってはやりやすい。それに桃源神宮が復興すれば、新たに凰都にも裏側からのサポートもつくようになる。
将校は言っていた。
「例の集団強姦を仕向けた奴については、分かり次第情報を入れよう。こちらは桃源神宮から新たな人材が来る。心配いらない」
もちろん、8月中は月桂として席を置き、街のために働いていた。
そんなことを思い返しながら、歩いていると学校に到着した。
校門をくぐると、男子たちがまたやってくる。
「槇村さん、これでぜひ野球部のマネージャーに!」
「そんなの偽物だ。こいつでサッカー部に入ってくれ!」
「陸上に!」
「演劇部こそ、君の美貌に相応しい!」
それらをひょいひょいとすり抜けた。
そしてぽつりと呟いた。
「……そう。全部ハズレか。あとは先生のだけね」
教室に入ると、口角を上げて挨拶した。
「おはよう」
「おはよう、槇村さん」
クラスのみんなが話しかけてきた。
短い時間しか立っていないのに、あっとう間に馴染んでしまった。
ここでも男子の猛烈なアタックが、少々ウザい。
着席すると、隣りの女子が話しかけてきた。
「おはようございます、聖明依さん」
「おはよう、真実」
「毎朝モテモテですね」
「あら。あなただって、相当のものでしょ。中等部でかなりモテてたらしいじゃない。で、"いい"人は見つけた?」
「こちらは空振りですよ。そちらは」
「あとは、先生がナンパに成功するかどうか」
呼び鈴が鳴った。
「そういえば、あの人は年相応のものを選んだよね」
教室に入ってきたのは、アマシアだった。
長い耳に、これぞ女教師とキメたスーツ。男子のファンもかなり多いらしい。
生徒全員の起立と礼のあと、アマシアがホームルームを始めた。
「今日の午後から、屋上は閉鎖されます。カップルは中庭でいちゃつくように」
「先生、ぼっちはどうするんですか」
「ぼっち同士も、中庭で慰めあってなさい」
「えぇぇぇ」
笑い声で溢れた。
午後、移動教室となった。
移動中、聖明依がアマシアに呼び止められた。
「ちょっといい、手伝ってほしいだけど」
「今から授業が」
「先生にはあたしから言っておくから」
「はい。分かりました」
一緒についてきてたクラスメートと分かれると、真実もついてきた。
「先生、屋上ですか?」
「そうよ、聖明依ちゃん。ちょっと早く網に掛かっちゃったのよね、残念」
「どうして残念がるの」
「もう少し、学園生活送りたかったんじゃないの?」
「男子にはもうウンザリしてたから、ちょうどいいわ」
「そう、楽しそうだったけど」
真実も、ウンウンと頷いてた。
聖明依は、ささっと前に出ると階段を登って屋上を開けた。
そこには、体育教師がひとり立っていた。
「キューリッサ先生、呼び出してくださって光栄ですよ。おや、君たちは? そうか君たちも私に会いに」
「先生、不思議な宝物について分かったって聞いたんですけど」
「不思議な宝物は、ここにありますよ」
突然ズボンを下ろすと、蛇のように動くイチモツが現れた。
体育教師は高笑いした。
「ほらほら、珍しいでしょ」
「……」
それを見た聖明依は顔をしかめ、左腕を突き出した。
チリリリリリリーン。
ある一つの条件を除いては絶対になることがない、桃源鈴が鳴り響く。
その条件とは。
「䰠か……、しかも雑魚。でも、学園の生徒たちを毒牙に掛けさせる訳にはいかない」
「き、きさまら、陰陽騎兵か⁉」
「私は陰陽師です!」
真実が首を振った。
「真実ちゃんは黙ってて」
アマシアがやれやれと肩をすくめた。
体育教師の身体が膨れ上がる。
来ていたジャージが破け、まるまると太った巨大な男に変わった。
そして指がニュルニュルと伸びていた。
「やっぱり、お前の願望は性欲か」
「ぬおおお! これで俺も童貞卒業してやるぅぅぅ!!」
「こい、撫士虎!」
どこからともなく飛んできた宝剣を掴み、鞘を抜き放った。
そして、短いスカートなのにもかかわらず、5メートルは飛翔した。
「ぬほ!」
䰠は聖明依の青い縞々パンツに釘付けになる。
と同時に瞬時に紅桜を纏い、䰠を一刀に斬り伏せた。
紅桜が即解除され、討滅の塵と共に消えた。
「討滅完了。あの様子だと、配下は増やしてないみたいね」
「ご苦労さま、聖明依ちゃん。瞬間纏い、凄いわね。今度教えて」
「瞬き程度しか持たないよ」
「カッコイイじゃないの」
「アマシアは、天空には慣れた?」
「やっぱ、恥ずかしいわよ。どうして私のだけ……」
天空の話をすると、また真実が困った顔を見せていった。
「すみません……」
「真実ちゃん、あなたの主を襲った犯人が気になるの?」
「いるのかどうかも分からない犯人について考えても仕方ありません、気にしてないといえば嘘になりますが。私に出来る一番大事なことは、主を忘れないようにすることだと思うんです」
「どうして?」
「悪い自分も良い自分も、ひっくるめて私なんだって。そんな気がするんです」
「そっか。それにしても、この学園にも鬼煌帝の宝具は無かったわね……。あ、聖明依ちゃん」
「何よ、アマシア」
「真美ちゃんが学園の記憶消し終わったら、デートしよ?」
「また? おととい行ったじゃない」
「あれはただの買い物でしょ。映画とか食事とか、ね、ね」
「じゃあ、真実も同伴で」
「えぇぇぇぇぇぇ」
真実は声に出して笑った。
アマシアも笑顔になった。
聖明依も、作り笑いで笑った。
陰陽騎兵槇村聖明依の心は、まだ憎しみと愛の心を取り戻せていない。
それでもこうして愛してくれる人たちがいて、守るべきものがいる限り、いつかきっと心の中に愛が育まれるに違いない。
復讐という憎しみの炎は、あのとき全て燃え尽きたのだから。
復讐✭メタリック 瑠輝愛 @rikia_1974
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