第㔶㌵話 ポケモンで楽園(エデン)は作れない
あれからどれくらいの月日が流れたのだろう。
爺に呼び出された回数は1000を超えたあたりから数えることを止めた。
最初の内は申し訳なさそうにしていた爺も次第に調子に乗り始め、目標タイムを設けるようになった。
当然、目標タイムを守れなかったら場合には罰がある。
その罰も最初は優しかったが、次第にエスカレートし、家族や友人の命を賭けさせられる事も多くなった。
当然、TASの力だって万能ではない。気が付いたら俺は家族と友人を全て失っていた。
その次に奴が目を付けたのは死を超える苦痛だ。
俺の体を弄んで、死よりも苦しい激痛を与える事に快感を覚え始めたのだ。
とか思ってるとまたいつもの場所に召喚される。
……勘弁してくれ。前の呼び出しから1時間も経って無いじゃないか。
「今回はポケットモンスターピカチュウの図鑑完成をしてもらおうか。目標タイムは1時間55分でいいかの?」
いいかの? と言ってるが、実質俺に拒否権は無い。
奴の右手にある物を見てみろ。俺の心臓だ。……いや、今回は心臓だからまだ奴の機嫌は良い方なのかもしれない。
「反論が無いって事は了承とみなしてもよいな。では、夢と冒険と! ポケットモンスターの世界へ! レッツゴー!」
***
一見にすると無謀な挑戦かもしれない。
だが、俺はこの挑戦をずっと待っていた。サブフレームリセットでは到達できない、遥かな高みに到達できる、任意コード実行が出来るソフトを。
俺は下準備を済ませつつ、タマムシシティのマンションに向かう。目的地は当然、ゲームフリークのパソコンだ。
***
無事にゲームフリークのパソコン前に到着した俺は深呼吸をする。
ここからは時間の勝負だ。1回のミスも許されない。奴に感づかれる前に最低限のコマンド入力をする必要がある。
俺は覚悟を決め、光の速さでコマンド入力をし始める。
ガワだけでいいんだ。中身は邪魔が入らなくなってゆっくりと作成すればいい。だからそれまではバレないでくれ――っ!
***
数分後。そこには真っ白で、誰にも邪魔されない大地が広がっていた。
どうやらガワの作成は成功したらしい。
「ついに……逃げれたのか?」
半信半疑の為、ポツリと呟く。
回答は当然沈黙。誰も答えてなどはくれない。だってこの世界には俺1人しかいないのだから。
地獄から解放されたという事実から、自然と笑いが込み上げてくる。
とりあえず、この世界の内側を作成する為に色々と考えなければいけないが、まずは数百日ぶりの惰眠をむさぼる事にしよう、そうしよう。
俺は何もない広大な大地に大の字になって寝っ転がり、そのままゆっくりと目を瞑った。
そうだな。この世界は誰も傷つかない優しい世界にしよう。
-Fin-
TASさんを召喚して異世界無双 真下 @mashita
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