第6話 『隠しすぎはバレる元』
「あっ、先生! お待ちしてました!」
「おう、そっちがさっき言ってた子か」
「はい、リリィちゃんです」
「リリィね。あたしはテイレシアス。気軽に『テレス先生』とかでいいぞ」
「よ、よろしくお願いします」
俺は体育座りのまま、ぺこりとお辞儀する。
見たところ、年齢的には向こうの俺より少し高いくらいか。後ろで束ねられた亜麻色の髪が印象的だ。心の中では、テレスちゃんと呼ぼう。
礼儀的に挨拶くらいは、と立ち上がるが、いかんせん勃ってるので、自然とへっぴり腰のまま体の前で手を組む形になる……。
てか、二人とも浮いてるベッドに関してはスルー? もしかして、これも魔術の一種なのかな。
重いものを浮かせて運べる。すごい便利そう。
「ほーん、……見た目は聞いてたとおりか。とりあえず入るぞ」
「あっ、すみません。どうぞ」
スリッパを脱ぎ、テレスちゃんが部屋にはいると、ベッドもその後ろをドアすれすれで通り抜けてきた。
今更だけど、これもしや俺のベッドか。薄々そんな気はしていたが、やはり俺はここでこれから生活していくことになるようだ。
「まずは、っと……」
そのまま元々あったベッドの脇まで進み、大きなかばんを下ろしたテレスちゃんに、シオンが警戒の目を向けながら問う。
「サミュのベッドになにするつもりです?」
「まぁ見てなって。きっと喜ぶから」
そう言って、テレスちゃんは、かばんから取り出した円柱状の木材を、ベッドの四隅に取り付け始めた。
あっ、わかった。これは俺も見たことがあるぞ! 確かに、子供は喜びそうだ。
「よぉし、完了。それでは……」
ロリ三人の視線を浴びながら、四本目の立て付けを確認し終えると、一歩下がって空中のベッドを指さし。
「あとよろしくー」
その指を、先ほど木を設置したベッドへ動かした。
すると――
「「「おぉー!」」」
きれいにハモった、ロリs’歓声。
それまで部屋の隅でふわふわ浮いていたベッドが、滑るように動きだし、テレスちゃんの指示に従ったのだ。
ベッド(サミュ)の上にたどり着くと、ベッド(俺)はゆっくりと高さを落とし、柱と四隅をドッキングさせる。きゃー、そんな……奥までっ!
「あっ、もしかしてこれって……」
「なるほど……こういうことだったですか」
ほぼ完成したそれを見て、サミュちゃんとシオンも気づいたようだ。目が輝いている。
「な? きっと喜ぶって言ったろ?」
テレスちゃんは仕上げと言わんばかりに、かばんから取り出した折り畳み式の梯子はしごをかけながら、ふふんと不敵な笑みを浮かべる。
「よっし、完成だ! どうだシオン?」
「――っ! べ、べつに、ただの二段ベッドじゃねぇかです! こんなので喜ぶのは子供だけですっ!」
「ったく、素直じゃないなぁ。てか、お前子供だろーっと」
「いたいいたい! やめろです!」
後ろから頭をぐりぐりされ、足をバタつかせるシオンを微笑ましく見ていると。
――ゾクぅっ!
「っ!?」
唐突に背筋が凍ったような寒気におそわれ、とっさに後ろを振り返る。と。
「うわぁぁぁっ!? 幽霊だぁぁぁっ!?」
文字通り目と鼻の先に、顔面蒼白で首だけのおっさんがいた。
思わず、ズザザザザァ! と後ずさる俺。なにこれ怖っ! 誰か助けて犯されるぅぅ!!
「どっ、どうしたのリリィちゃん……って、ゼーレスト先生?」
「えっ、これも先生なの!?」
音もせず幼女の背後に近づく教師って、アウトだろ! てかそもそも人間じゃないし! ……ないよね?
「いやほんとお前、なにしてんだよ……」
首から下も生えた半透明のおっさんに、ジト目でテレスちゃんが問う。
「ふっふっふ、ドッキリ大成功☆」
「死ね」
「ひっでぇ! いやまぁ、もう死んでるけど!」
やっぱり幽霊だったようだ。今んとここの世界なんでもありだな。
「というかひどいのは嬢ちゃんの方だぜ。あんな重いベッドを運ばせといて、用事が済んだら放置なんて……おじさんそういうプレイはあんまし好きじゃないゾ?」
「あ〜、あれゼーレストが運んでたですか。納得です」
シオンが一人で得心がいったと頷き。
「おまっ、子供の前でプレイとか言うな!」
はぁ~……と頭を抱えながら、テレスちゃんが俺に向き直る。
「とりあえず、今日は軽くここのことを教えとくから、明日改めてアタシのところに来てくれ。詳しい話はそこで」
「あっ、はい」
となると俺は今日、このままこの部屋で寝ることになるのか。
それを許すってことは、この人も俺の中身や股間の『コレ』のことは知らないようだ。
「まずここは、リトルガル魔導学園初等部の女子寮。男子寮も含めて、生徒は全部で300人くらいだ。まぁこっちは、
うむ、激しく同感です。
「そしてこいつが、ゼーレスト。見ての通り、幽霊だ」
「はじめましてお嬢ちゃん。ゼーレスト先生とでも呼んでくれ」
「リリィです、よろしくお願いします」
俺がまたへっぴり腰でお辞儀をすると、ゼーレストがまじまじと視線を向けてきた。やっぱりこのおじさん、危険なにおいがするよっ!
「よし、じゃあ今日はこんなところで、あたしたちは戻るよ。二人は早く二段ベッドに上りたくてうずうずしてるしな」
「「――っ!」」
「あ、そういえばサミュ。頼んでた疾力草はあるか?」
「あっ、はい。これです」
サミュちゃんが机の上にあったかごを差し出す。
「よし、期待通りだ。おつかれ」
「いえいえ、お役に立ててなによりです」
「もーう! ほんっとにサミュは、誰かさんと違って、素直でかわいいなぁ!」
サミュちゃんの頭をガシガシとなでながら、シオンにチラッと目を向ける。シオンはというと、ツンとそっぽを向いていた。
なんだこの幸せほのぼの空間……。
すると、体育座りでひとり傍観を決め込む俺の横に、すぅっと、ゼーレストが現れ、話しかけてきた。
「なぁ、お嬢ちゃんよ」
「? なんですか?」
「いや……今はボウズっつったほうが良いか」
「!?」
バレていたのか! マズい、このままではここを追い出されてしまう!
「はははっ、そんなことはしねぇよ。見た目は女なんだから、男子寮にも行けんしな」
心を見透かしたかのように言われ、俺は逆に問いかける。
「なんで分かったんですか?」
「幽霊ってのはな、人の魂がよく見えるようになるんだ。だから、お前の魂も見えたんだがな……見た目はお嬢ちゃんなのに、魂がボウズだったから、びっくりしたぜ」
「なるほど……」
だからさっき、あんなにじろじろ見てたのか。
「ついでにボウズ、『アレ』も生えてるだろ?」
「ッッ!!」
「隙あらば体育座りで、立ってるときもへっぴり腰に手が前。女の子たちは気づかんかもしれんが、男の俺からしてみたらバレバレだ」
「まじっすか……」
まさか隠そうとしていたのが、裏目にでるとは……不覚ッ!
でもそこまで見抜いたってことは、コレがなにかも知っているかもしれない!
そう思い、小声で聞こうとした、そのとき。
「おいゼーレスト。そろそろ行くぞ」
「おう! ――ボウズ、今なにか言い掛けなかったか?」
「いいや、だいじょうぶです」
普通の声で言えることではないので、俺は首を横に振る。タイミングが悪かったな。
「そうか、ならいい。まぁ、くれぐれも不埒なことはするんじゃねぇぞ」
ゼーレストがぼそっとそう言い残して、二人は部屋をあとにした。
下腹部のコイツ、どうにかしなきゃなぁ……。
ついに叶ったロリ転生! ……って、お股にナニか生えてるんですけどっ!? 河ノ竜 @Ryu_Kawano
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