第7話

 気付けば誠一は窓辺に寄りかかっていた。

 眠い目を擦り、口の端に垂れたよだれぬぐって辺りを見回す。

 静まり返った蔵の二階は忍び込んだときのまま何も変わっていなかった。

 額装された型紙をあらためると、案の定、彫られた紋様は女が着ていた小紋の紅葉と同じものに見えた。誠一は神妙な心持ちで額を桐箱に収め直し、紐で括って元通りはりの上に置いた。

 名を呼ばれた気がして、もう一度窓辺に寄ってみた。

 日暮れ間近な秋の空には、名のある型彫師が精魂込めて彫り込んだような鱗雲が、赤から紫へと色を変えながらどこまでもどこまでも広がっていた。

 あ、と気が付いた。ハチに返したはずの牙がまだ手の中に残っている。

 女が言っていた通り、祠の裏に塚が築いてあるのなら、そこに埋めることにしよう。

 何のこだわりもなくそう思えたときだった。今度こそ本当に名を呼ばれた。

 父の声だ。

 慌てて窓を閉めた。真っ暗になった蔵の中、誠一は階段を手探り足探りで下へと降りて行った。  了

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見上げれば満天の星 夕辺歩 @ayumu_yube

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