第6話 夏休み前

 あと三日ほどで念願の夏休みだ。とは言え、宿題は小学校とは比べ物にならないほどたくさん出るらしいし、部活もある。あの超ややこしい変拍子の曲もなんとか吹けるようにならないといけない。なんやかんやで結構忙しい夏休みにはなりそうだ。


 その前に恐怖なのが通知表だ。数学なんか考えるだけで気が遠くなる。期末テストの結果だって散々だったんだ。きっと山科なんかはまたありえない点数とってるんだろうな。


「そういうことなので、期末テストの成績がイマイチだった人は夏休みに遊び惚けていないできちんと復習しておくように。ここでちゃんと挽回しておかないと、二学期になってから全然ついて行けなくなっちゃう人が居るからな。特に数学と英語は積み重ねの教科だから、つまづきポイントがあるとそこから先が全滅してしまうので、しっかり復習しておいてください」


 ナガピー、それ、あたしに言ってるよねと思った矢先、後ろの席から富樫のボヤキが聞こえてくる。


「それ、絶対俺に言ってるよね、ナガピー」

「誰とは言いません。自覚がある人は頑張りましょう!」


 ナガピーはすまし顔で笑ってるけど、富樫は頭抱えちゃったよ。


「やっぱ俺かよ」

「少なくとも俺じゃない」


 あんたには聞いてないよ、森園!


「ああ、そうだ、森園君は今回も五教科総合で学年二位だったぞ。頑張ったな」


 凄いな森園。そんな人が同じクラスにいるなんて信じらんない。


「え、ちょっと待ってください、今回『も』って何ですか。前回『も』だったんですか?」

「あれ、言わなかったか? 二連チャンだぞ」

「いや、そうじゃなくて。俺よりできるやつがいるんですか?」


 そっちかよー。どんだけ自意識過剰なんだこいつ。


「ああそうだな、中間も期末も一位と二位は変わらなかったからな」

「ちょっ……誰なんですか、一位!」


 焦った森園がナガピーに詰め寄ると、ナガピーは教室の後ろの方に視線を移して「言ってもいいか?」と誰かに声をかけた。

 全員が一斉に後ろを振り返る。ナガピーと視線を合わせた山科が、ぼそっと言った。


「まあ、別にいいですけど」


***


「中間の国語五十八点って言わなかった?」

「よく覚えてるね」

「だって衝撃的だったもん。山科が国語五十八点で、トータル四百二十点の森園より上って、他の教科はどんだけ取ってたの?」


 あたしは次の休み時間に山科に詰め寄っていた。真由と富樫も一緒だ。


「んーと、確か英語と社会が九十八点、理科が九十九点、数学が百点」

「マジか! 山科って天才だったんだな~。俺、山科の友達で良かった!」

「僕の友達であるメリットは考えにくいんだけど」

「一緒に居たら賢くなれそうな気がするじゃん」

「うん、するするー!」


 真由まで一緒になって。


「僕の脳は漢字が覚えられない作りだから、国語は永久的にあの点数だよ」

「期末どうだったんだ?」

「国語ちょっと上がって六十四点」

「他は?」

「中間と同じ」

「すげえ」

「でも、あんまり人に言わないでくれる? いい言われ方した試しがないんだよね」


 まあ、そうだろうね。嫉妬の対象にする人もいるだろうし。森園とか森園とか森園とか!


「どうしたらそんな風になれるんだよ。俺なんかマジ悲惨。数学なんか三十二点」

「えーあたしでも三十七点だったのに?」

「美咲も富樫もちょっと頑張らないとヤバいね」

「そういう真由は?」

「フッフッフ、私は五十点」


 腰に手を当てて胸を反らすと、真由のフワポニョな全身のお肉がポヨヨンと揺れる。


「すげー!」「賢ーい!」

「山科の半分だけど」

「ところで……」


 三人で笑っていると、山科が急に思い出したように話題を変えた。この話、あんまりしたくないのかな。


「吹部って夏休みも練習あるの?」

「うん、あるよ」

「男子バレー部もございます!」

「富樫には聞いてないから」


 真由のツッコミが厳しい。山科のとこはどうなんだろう。


「電工は?」

「自由参加。もともとが自由参加の部だし、来たい人が勝手に来て、好きなだけ研究して行っていいようなところだから」

「じゃあ来るの?」

「暇だったら来るかも。学校ならツールがいっぱいあるから、家よりはいろいろできるし」

「じゃあ、あたしたちの音、聴いててね。あたしユーフォニウムだから。美咲はフルート。ユーフォニウムって知ってる?」

「うん」


 え? あんなの知ってるんだ、山科! と思ったら真由も同じ反応。


「えー、あたし吹部に入るまでこんな楽器知らなかったよー。山科いろいろ知ってるんだね」

「ちょっと俺には聞いてくれないの?」

「富樫、どうせ知らないでしょ?」

「その通りでございます」

「しかも体育館じゃん? 山科と私たちは隣同士の教室だからよく聞こえるんだよ。ね、美咲?」

「そーそー」

「俺。お呼びでない?」

「うん、お呼びでない」

「ひでぇ」


 真由のツッコミが厳しい。真由としては少しでも富樫と絡みたいんだろうけど。富樫はモテる割にそういうの鈍そうだから、気づかないだろうなー。仕方ない、一肌脱いでやるか。


「夏休みだってお昼休みは同じ時間でしょ? 富樫も山科も一緒にお昼食べようよ」

「よっしゃ、じゃ俺、理科室行くわ。電工の部屋、涼しそうだし。ついでに五組のカーネーションに水もやって来ないと。いっそ夏休みの間、理科室に置いとくって手もあるな」

「それいいね」

「真由、あたしたちも理科室行こっ。山科はそのまま理科室に居てね」

「あ、うん」


 山科が毎日来ると決まってもいないのに、富樫によって電子工学部の部室である理科室への集合が決定してしまった。夏休みも楽しみになってきたぞ!

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