第2話 知り合い?
当然と言えば当然だけど、最初のホームルームは自己紹介で終わった。
担任は
生徒たちは、出身校、名前、特技を一人ずつ発表した。うちのクラスは北小の子が富樫の他にも五~六人いたと思う。
「えー、皆さん、このワタクシが北小の救世主と書いてメシアと読む、富樫樹でございます、拍手~」
「…………」
「えっと、ワタクシを一人にしないでくださいっ!」
「いぇ~い」「ひゅーひゅー」
歓声が上がる。ただし棒読みだ。
何やってんだ富樫。こういうキャラなんだ。でもみんな結構付き合いがいい。
って言うか、富樫デカい! この前まで小学生だったんでしょ? 百八十センチ以上あるよね? どう考えても最後の方ランドセル無理だったよね?
「えー、聞かれてませんが、家は花屋やってます。あ、窓際のカーネーションはウチから持ってきました。俺だと思って可愛がってやってください。因みに花屋は継ぎません、石油王になります」
「もーいいから、石油王」
誰かがすかさずツッコミを入れて、みんな大爆笑だ。
「そーゆーわけで皆さん、俺のことは『石油王富樫様』とお呼びください。あ、もちろんイツキでも富樫でも竹輪でもこんにゃくでも全然オッケーです!」
「どっから竹輪出てきたんだよ!」
「こんにゃくも!」
みんなゲラゲラ笑ってる。こいつの思考回路おかしすぎ!
「いいんだよ、俺は竹輪とこんにゃくが好きなんだよ。えー、自分無駄にデカいんで、有意義にデカい方がいいかなってことでバレー部入ろっかなーとか思ってます。『桜岡中の司令塔、セッター富樫』とお呼びください!」
「なんでそんなデカい癖にセッターなんだよ」
「てか、石油王はどうなったんだよ」
「竹輪は?」
「こんにゃくは?」
富樫、初っ端から飛ばしまくってる。ツカミは上々だ。きっと富樫はどこにいても人気者なんだろうな。
それにしても今から部活決めてるなんて凄い早いな~って思ったけど、案外みんな決めてるみたい。真由も先生の演説に洗脳されたのか、
そんな事を考えていると、例の一番後ろの隅っこの男子の番になった。彼は名簿が最後だから隅っこに座ってたんだ。教壇に立った彼はやはり男子の中では華奢な方だろう、だが、その頼りなさそうな体つきからは想像できないようなよく通る声で、彼は自己紹介を始めた。
「
みんなポカンと聞いていたが、ハッとしたようにパラパラと拍手が起こる。こんなにきちんとした自己紹介は誰もしなかった。理路整然としていて、分かりやすく、活舌も良い。私立小だからなのかな、彼がそういう人だからなのかな。
だけどなんか……聞いたことがあるような気がするんだ、優斗っていう名前。ゆうと、ゆうと、うーん、そんな知り合いいたかなぁ?
その山科優斗とまた目が合った。気のせいか何度も目が合うような気がする。
それから彼が気になって気になって仕方なかった。山科優斗、ゆうと。どこで聞いたんだろう?
***
休み時間、意を決して山科優斗に話しかけてみた。
「ねえ、気のせいだったらごめん。どっかで会ったことあるかなぁ?」
ノートにややこしい電子回路図を書いていた山科優斗はすっと視線を上げてあたしを見た。あ、もしかして邪魔したの怒ってる? なんか目が怖いんだけど。
「美咲ちゃん、一年間だけ一緒のクラスだったね。年中さんの時だよ。すみれ組」
はい? すみれ組?
「え? あおぞら幼稚園?」
「うん。年長になって僕はたんぽぽ組、美咲ちゃんはさくら組になったから」
確かにあたしはさくら組だ。げっ、全然記憶にないよ。思わずあたし、顔の前で合掌して頭下げちゃった。
「ごめん。なんか『ゆうとくん』っていう名前には記憶があるんだけど、あんまり覚えてなくて。そっか、一緒の幼稚園だったんだ。やっとスッキリした。誰だったかな~って、ずっと気になってたんだ。邪魔してごめんね。あ、もう美咲ちゃんじゃなくて桑原でいいよ。あたしも山科って呼ぶから」
「別に僕は『美咲ちゃん』のままでもいいけど。でも美咲ちゃんが桑原って呼んで欲しいならそう呼ぶよ。僕のことは好きに呼んでいいよ。名前は個体識別のための記号でしかないから」
え? 個体識別のための記号? この人、そんな風に考えてるの?
「ああ、うん、わかった。ごめん、邪魔して」
あたしが山科の席を離れると、彼はもう電子回路図の続きを書いていた。
なんか、不思議な人だ。
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