隠し部屋の暗号解いたら異世界に強制転移させられた件について

@kinoko3

第1話 神社

 時刻は0時5分


 深夜零時を過ぎた住宅街は驚くほど静かで、人の気配をまったく感じさせない。それをいいことに、鈴虫やコオロギの合唱団は自慢の翼をはためかせ、りーんりーんと演奏会をしている。


 沿道に並ぶカエデは、月明かりに照らされて、色鮮やかなに世界を彩る。見慣れた道のはずなのに、まるで別の世界に迷い込んでしまったみたいだ。そう感じてしまうぐらい、幻想的な風景だった。


 紅葉がヒラヒラを舞い落ちる。一枚、また一枚と少しずつ葉を減らす木々を見ていると、お父さんの頭を彷彿させる。


 家抜け出したことがバレたら、ストレスでまた髪の毛抜けてしまうのだろうか。そんな他愛もないことを考えてると、いつの間にか目的地に到着していた。


「夜の神社ってなんか神秘的だな」


 木枯らしが吹くなか、俺――カイトと幼馴染みであるユウキは神社に来ていた。


 ――神隠し伝説

 この神社には神隠しの伝説がある。

 今から1000年ほど前、子供が遊びに行ったきり帰ってこなくなるという事件が多発した。村人総出で探すも結局見つかることはなかったという。


 宗教信仰が深かった当時の人々は、神様に攫(さら)われたと考え、毎年この神社に生贄を差し出し、怒りを沈めようとしたらしい。


 馬鹿馬鹿しい話ではあるが、それによって神隠しが起きなくなったのだから不思議だ。


 まあこれは当時の人によって書かれた日記に書かれてたことだから、本当にあったことなのか分からないのだが。


 俺自身はこの話を作り話だと考えている。しかし、火のないところに煙はたたない。神隠し伝説が誕生したのにも、なにか理由があるはず。そこで俺は神社の調査を始めた。九割型は遊びのつもりだった


 ………………|だったのだが(……)


 隠し通路を見つけた……見つけてしまったのだ!


「やっぱり止めよう。こんな時間に神社に来るのは絶対危険だって」


「昼は学校があるから、夜に行こうって言ったとのはユウキだろ? もしかして怖いのか?」


「べ、べつにオバケが怖いわけじゃないし!」

 ユウキは左手で自分の毛先をくるくると回しながら言った。

 その反応に俺はニヤッとする。

「なるほど、オバケが怖いのか」


「だがら違うってば!」

 ユウキは嘘をつく時、自分の綺麗な黒髪を左手でいじる癖がある。

 俺の性格はS(サド)ではない。しかし、これだけわかりやすく嘘をついている奴を見ると、どうしてもからかいたくる。相手がユウキとなれば尚更だ。


「後ろになんかいるぞ?」


「キャッ! ……って何もいないじゃない!」

 ユウキは可愛い声をあげる。しかし、後ろに何もいないと分かると俺を恨めしそうに睨んできた。残念なことに迫力をまったく感じない。それどころか可愛く見えてしまう。


「ははは、相変わらず弄(いじ)りがいがあるな」


「むーっ! そんなんだから彼女が出来ないだよ!」

 ユウキは口をプクッと膨らませて、睨んでくる。やはり迫力をまったく感じない。


 こんな他愛もない会話を出来るのは俺達が幼馴染みだから。一緒にいた時間が長いから、すべて、とまでいかないけど、ある程度お互いのことを理解している。ゆえにありのままの、嘘偽りのない自分で話すことが出来る。だからユウキと一緒にいる時間が、どうしょうもなく楽しくて、愛おしい。きっと他の人とでは、こんな気持ちになることはないだろう。


 だから…………


「……お前が居れば彼女なんて要らないよ……」

 俺はぼそっと呟く。あ、口に出てた。


「え? なんて言ったの?」

 幸いなことに、 言葉はタイミングよく吹いた木枯らしに攫われて、ユウキの元には届かなかったらしい。

 まるで小説(ライトノベル)の鈍感系主人公とヒロインのワンシーンみたいだ。


「なんかあったら必ず守ってやるって言ったんだよ」


「!? ……うん、分かった」


「よし、それじゃあ行くぞ! 冒険の始まりだ」


「あ、ちょっと待ってよ。守ってくれるなら置いて行かないでよ!」


 そう言いながら、ユウキは自慢のポニーテイルを左右に揺らしながら、ひょこひょことついてきた。


「それで隠し通路なんてどこにあるの?」

 コテンと首をかしげたユウキが、疑問を投げかける。当然の疑問だ。隠し通路なのだから、何もせずに見えるはずがない。


「聞いて驚け。この神社にある狛犬は動かせるんだ! それでこの狛犬を回転させて向かい合わせると……」


 俺は口で説明しながら、狛犬を回転させようとする。 創られてだいぶ経つからか、なかなか動かない。


「そんなことしていいの? 罰が当たりそう」


「大丈夫だ、問題ない。昨日100円賽銭した」


「……それ死亡フラグだよ。しょうがないなぁー、私も手伝ってあげる」

 そう言うと、ユウキは賽銭箱にコインを投げ入れ、狛犬の側まで来る。


「罰が当たるんじゃなかったのか?」


「二人で半分こすれば、少しはマシになるでしょ?」


「確かに……。それじゃあ行くぞ? せーッの!」

 掛け声と共に力をいれる。

 すると、ゴーっと音をたてながら、狛犬は回転した。

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