第40話 打てば響く

一通り目を通した後で、今度はこちらから「実はビジネス書という形式で本を出したいのですが・・・」と持ちかけました。


すると「例えばどんな?」と尋ねられたので「三枝三部作、V字回復の経営や戦略プロフェッショナルのような、ストーリー性の高いビジネス書です」と答えると「なるほど」と頷かれました。


文字にするとごく短いやり取りですが「この人はわかってるな」と私は好感を持ちました。


最初に会った編集者の方は、どちらかというと開けっぴろげで相談できるタイプ、という感じでしたが、2人めの編集の方は、キレ者、という感じです。

仕事などでよく会うタイプですから、私にとっては話しやすい相手に感じられたのです。


「すると本の構成も変わりますね」と編集の方が言うので、

「そうです。変えるつもりはあります」と答えます。


「章ごとにまとめを入れますか。あるいは全く組み替えてしまうという方法もあります。例えば学びが先にあって、そこにストーリーを嵌め込んでいく短編形式にするとか」というアイディアには

「たしかに。学びベースで組み替えるのはありですね」と唸らされました。


打てば響く議論というのは、やっていて楽しいものですね。

話をしている内に、単なる書きなぐった冗長なテキストの塊に過ぎなかったものが、本として作品になっていくイメージが自分の中で固まっていくのを感じました。


と、そこで私は肝心なことを言うのを忘れていたことを思い出しました。


「すみません。一応、お知らせしておかないとフェアでないと思いますので。実は、他の出版社さんからもオファーを受けています」


一応のことわりをいれると「でしょうね」と、あまり気にした様子はありませんでした。

打ち合わせの日程調整のメールのやり取りで、そのあたりは何となく感じていたのでしょう。

そうした察しの良さも、仕事で良く接する人達にいるタイプだと思えました。


大きな企業でバリバリと働く人間というのは、業界は違えども何となく似通った行動や雰囲気を持つようになるのかもしれません。

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