第32話 打ち合わせの終わりと別れ

「・・・と、私なら商売がら資料を用意しようと思うのですけど」


私は率直に尋ねました。いろいろと話せて良かったという気持ちはありましたが、一方で編集さんに負担がかかる仕組みではないか、とも思っていました。

今のなろう書籍のように1人の編集で大勢の作家の面倒をみるスタイルだと、1人あたりの作業負担を軽くしなければ仕事が回らないはずなのです。


「まあ、作家さんには本当の色んな方がいらっしゃいますから。ダイスケさんみたいな人は、少数派です」


編集さんが苦笑いされたように、これは私の方が性急だったかもしれません。

私が当然だと思う習慣も、業界が違えば不思議だと思われるでしょうし、その業界がそうなっているのは、それなりに合理的な理由がある場合が少なくありません。


作家には会社仕事の経験のない方々、例えば学生や主婦の方などもいるでしょうし、そうした方達は書面を前面に出した堅いやり取りというものを好まず、今のようなカジュアルな話し合いを好むのかもしれません。


実際、最近はエッセイを書いているせいか他の作家さんから打ち合わせの様子などを伺う機会もあるのですが、どうも私の進め方は少数派のようです。


少しだけ(約束を書面にするのが嫌なのかな)などと疑っていたことは秘密です。


最後に「もし仮にこちらでお世話になるとしたら」ということで、初版部数や印税について教えてもらいました。新人作家ということで印税についてはそれなりでしたが、初版部数は、ビジネス書や専門書の世界で聞いたことのある部数よりもかなり多めの提示で驚いた覚えがあります。


そのあたりは、細く長く売るのでなく、大量に刷って売り切る、というビジネスモデルの違いもあるのかもしれません。

とは言え、当時は「なろう書籍界隈はずいぶんとビジネスとして熱くなっているのだな」と思ったのは事実です。


こうして、私の初めての出版社との打ち合わせは、終わりを告げることとなり、おっさん2人はそそくさと昼間のファミリーレストランから周囲の視線を受けながらーーー少なくとも私は小さくなってーーー出て行く次第となりました。


近日中に他社さんとの結果も踏まえて返事をすることを約束しましたが、本当にいろいろと学ぶことの多い打ち合わせでした。

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