第16話 「メディアミックスですよ」

「出版社はメディアミックスで儲けるんです」


と編集の方は言い切ります。

それを聞いた私の感想はと言えば「メディアミックス。何だか古い言葉を使うなあ」というものでした。


メディアミックスもしくはマルチメディア、という考え方や言葉自体はかなり昔から言われていたことです。

1つの作品を、漫画にする、CDドラマにする、アニメにする、映画にする。

最近はそこにTVゲーム、カードゲーム、フィギュアなども加わります。

複数のメディアや商品に展開することで利益を上げよう、という考え方ですね。


コンテンツという打率が低い商売で、さらに出版という在庫リスクのある商売をしているわけですから、作品が当たった時は最大限に利益を確保しなければ商売が成り立ちません。


出版社と言いつつも、その実は複数のメディアをプロデュースする立ち位置を目指す、というのは理解できる戦略ですし、その話もわりと昔から言われてきたことなので、その言葉が会話に出てくるのは不自然ではありません。


少し意外だったのは、それを出来るのは本当に大手の一部企業だけ、という認識が私にあったからです。

メディア展開には莫大な先行投資が必要です。

収益の確保に苦しむ普通の規模の出版社に、それができる体力があるとは思えなかったのです。


とはいえ、まさか「御社の体力でそんなことが可能なんですか」などと正面から聞くわけにはいきません。

代わりに、あくまで仮定の話として、と別の質問をしました。


「もし私の小説がヒットしたとして、さらに漫画にしようという話が出たとします。それって例えばどんな風に進むんですか?」


こういう話の持ちかけ方をすれば、自意識過剰なのは新人作家未満の私、ということになりますから先方のプライドを刺激せずに話が進めやすいと思ったのです。


案の定、編集の方は仮定の話に頷きながら、漫画家の展開について教えてくれました。

それに対し、私が質問する形で話がすすみます。


「まず原作ありきで、漫画家を手配します」

「手配ですか。ですが漫画家の方を探したり、それを編集したりするのは難しいのではないですか」


「そこは漫画家を抱えている出版社なり編集なりに営業することになりますね」

「営業ですか」


「そうです。そうやってチームを組むんです」


なんとなく、全体の構図が見えてきた気がしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る