2章:はじめての打ち合わせ

第5話 真昼の試練

続きです。


編集部は手狭だったので、編集者の方とお話をするためにファミリーレストランに移動することになりました。


こちらで指定した時間は平日昼間の午後でしたが、近くにオフィスなどがあるせいか私達と同じように打ち合わせをするサラリーマン達の姿も目立ちます。


「とりあえず座りましょうか」と勧められて、はたと困りました。

そう、名刺交換です。作家の方は作家の名刺を持っておられるでしょうけれど、私は自分の仕事用の名刺しかありません。


とはいえ相手方のオフィスも知ったわけですし、こちらだけ個人情報を明かさないのもフェアではない、と思い定め思い切って仕事用の名刺を渡すと編集の方も驚いておられました。


後で聞いたところ、最初は警戒して名刺をいただけないことも多いそうです。

あるいはそもそも名刺を持つ習慣のない職業の方も多いとか。


「それでは・・・なんとお呼びしましょうか?」


そうです。次に困ったのは呼び名です。本名を名刺で明かしておいてなんですが、作家として打ち合わせをするわけですから、ペンネームでやり取りするのが良かろう、ということで「ダイスケ」で結構です、という話をしました。


私はつくづく比較的ノーマルなペンネームに設定しておいて良かった、と思いました。


もしこれがカワイイ系やエロ系、そこまで行かなくてもファンタジー系の名前であったなら、昼間の人目がある場所での打ち合わせには、さぞ往生したことでしょう。


なにしろ、ファミリーレストランの周囲のテーブルは図面を広げて真面目な営業の打ち合わせをしているようなサラリーマン達で埋まっていたわけですから。

私もどちからといえば、そちら側の人間です。

一方で編集の方は紙袋を下げてラフな格好をしてらっしゃいますので、非常にアンバランスな組み合わせ、と言えたかもしれません。


少し落ち着かない気分になっていたのも、ご理解いただけるかと思います。


ですが、昼間のファミリーレストランの試練はこれで終わりではありませんでした。


編集の方が嬉しそうに「これが弊社で今まで出している冊子でして」と下げていた紙袋から机の上に本を並べ始めます。

わかります。プレゼンですものね。

実際にどんな冊子を出している、というのは何よりも自分達の成果と姿勢を示す製品としての証明です。


ですが皆さんも御存知のように、なろう関係の書籍は絵に肌色成分が眩しいものも多いのです。

オッサン同士が混雑するファミリーレストランで女性の肌色の目立つ冊子を机の上に広げる様子が周囲にどのように映っているのか。


小心者の私は世間体が気になって仕方ありません。


ですが、それですらこれから待ち受ける本当の試練の序章でしかなかったのです・・・


※注:深刻な内容ではありません

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