第6話 編集者からの意外な提案

都心のファミリーレストランで肌色の冊子の数々が卓上に広げられたために酷く動揺した、という状態からの続きです。


そうして多少ぎこちなく始まった打ち合わせでしたが、私の方は今日のために準備してきた質問事項が山ほどありました。


一方で、打ち合わせの時間は限られています。なので、雑談をして互いのことを知りながら段々と距離感を掴んでいく、という洗練されたアプローチの代わりに、率直に(あるいは不躾に)自分は素人で全く業界のことを知らないので基本的なことから尋ねてもいいだろうか、とメモを捲りながら聞いたところ、編集の方には快く了解していただけたのです。


私が何よりも聞きたかったのは「自分の書きなぐった小説が果たして書籍という商品になりうるのだろうか?」という払拭できない疑念でした。


確かにポイントはとれました。かなりの頻度で連載し、評価をいただき、多くの感想やレビューをいただきました。

しかし、私からするとそれらは全て「小説家になろうというサイト上の出来事」であり目の前に自分の作品を本にしようと交渉に来た編集者がいる、という現実とうまくリンクしなかったのです。


私が小説を書いていることは周囲の人には言っていませんでしたから、それまでに現実の読者という人に会ったことはありませんでした。


ですから、それは非常に不思議な感覚だったのです。


「今日の一冊を読みました。それでこの作品はいける、と思いました」と編集の方は説明してくれました。


念のために補足しますと「今日の一冊」というのは小説家になろうのトップページにある紹介バナーからいける特集のことですね。

データに特徴のある作品をピックアップしてプロの方があらすじと読者の傾向などを分析してくれる特集記事を集めたページです。


「どういったところが行けると思われたんでしょうか?」私は続けて尋ねました。

実際のところ自分の小説の何が良くて何が悪いのか、プロの目から見ての評価を知りたかったのです。


編集の方は少し考えてから「あの小説には、仕事をする人への共感と応援があります」と端的に感想を述べてくれました。


過分な言葉です。


感想を声という言葉でいただけるというのは、なるほど嬉しいものだと感じました。


調子に乗った私は「なるほど。ですが他の書籍化作品とは明らかに傾向が違いますし、果たして商売になるんでしょうか」などと言わずもがなのことを聞いてしまいました。

もちろん「そんなことはない」と否定して欲しくて聞いたのですが、半分は言葉通りの心配でもありました。


異世界コンサル株式会社を読んでいただいた方はご存知かと思われますが、拙作には、なろう小説のお約束である、俺tsuee、チート、ハーレム、などといった要素が一切ないのは事実だったからです。


「そうですね。そこは課題かもしれません」


編集の方はうなずくと、幾つか意外な提案をしてきました。

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