第22話
「「ここは......どこ?」」
フランがアスカを治療し現実世界へ戻ってきた頃、ユズハが目を覚ました。
「「私は......」」
「「私は、あの時戦って......」」
記憶の壺に少しづつ雫が注ぎ込まれる。
「フランくん!!」
思い出した瞬間叫んでしまった。フランは無事だろうか。あの二人はフランの誘拐が目的だったはず。なのに私はなんでここに。そう思っていると、今いる場所が馴染み深い場所だということがわかってきた。
「なんで私、ドームにいるの......それに体も治ってる......」
自分のこと、フランのこと、何もかもわからず途方に暮れていると部屋のドアがノックされた。
「よお、起きたか」
「団長、フラン君は!?」
「とにかく落ち着け」
そう言われ、ユズハはベッドに座り込む。私がやられてしまったのだとしたら、フラン君はもう。最悪の結果をユズハは想像していた。
「お前の想像しているようにはならなかった」
サンの出すコントラバスのような声は聴く人の落ち着きを取り戻す効果があるようだ。ユズハはやっとぐるぐると考えが回っている頭を止めることができた。
「結論から言う。お前を半殺しにした奴らは、フランが息の根を止めた。完全に。それに、お前の怪我を治したのもフランだ」
「......」
サンから知らされるあまりに突飛な事実に、ユズハは言葉が出なかった。フランがまだ声を失っていた頃のように、全く何を言えばいいかわからない。
「俺もこの目で見た訳ではないが、今言ったことは事実だ」
サンは、ユズハを治療してから今に至るまでに起きたことをかいつまんで話した。ユズハにはそれがとても信じられない。人は信じられない時どう反応していいかわからなくなるもの。ユズハもそうだった。ただただ呆然としている。そしてその間にサンは電話を受けていた。
「フランが戻ってくる。聞きたいことは本人に聞けばいい」
「......うん」
「彼女を助けてくれてありがとう。今後のことは君の仲間から近いうちに連絡があるはずだから」
「うん」
フランは出発した時と同じ、公園の隅まで送ってもらってきた。自分を捕らえようとした二人を殺し、ユズハを治し、アスカという女性も治し、体、心共に疲労で限界だった。少しでいいから休みたい。フランはとぼとぼと楽園のアジトへ向けて歩き出した。
団長に教えられた公園に着いた。団長に言われた場所へ向かう。しかし驚いたのは、自分の体が全く何もなかったかのように完全に治癒していたことだった。今こうして全力で走ってきても、いつも通りのポテンシャルで動くことができている。体をめぐるエネルギーの循環も健康そのもの。右手も完全に繋がれ、術も発動できた。
命の恩人探しは続いている。サンからは公園のどことは聞いていないため、必死にあたりに目を配る。すると一台の高級車が公園端の道路へ止まった。もしかしてあれかな?と思いユズハはその車を見ていると、男と少年が出てきた。フランと男は少し話をして別れ、車は出発した。
フランだ、間違いない。居ても立っても居られず、ユズハは走り出した。
歩き出そうとした時、声がした。
「フラン君!」
声のした方を見ると、ユズハが見えた。そしてフランのいる所まで駆け寄り、フランを思い切り抱きしめた。
「フラン君......」
「怪我治って よかった」
「うん......ありがとう」
「少し疲れた」
「そうだよね 私がおんぶしてあげるよ」
そういうとユズハはフランを背負い、ゆっくりと歩き出した。
「フラン君、あの時何があったの?」
「敵を倒したのは 僕 ユズハを治したのも僕」
「そうなんだ......」
「あの時 怖くなくなった だから 戦えた」
「怖くなくなった?」
「うん......」
「ウォン!!」
ユズハを呼び止める声があった。呼び止めるというよりは吠えたといった方が正しい。
「マックス!ここにいたんだ......え?」
ユズハがマックスの横にいた狼を見て硬直する。
「この子も、フラン君が構成したの?マックスよりも大きい......」
「マイケル」
「そっか、マイケル君か......」
色々と尋ねたいことはあったが、フランはマイケルの紹介をすると、疲れてユズハの背中で眠ってしまった。その様子を見てユズハはもっと強くならなければと感じた。肉体的にも精神的にも。
そんなフランとユズハにささやかなプレゼントがあった。綺麗な夕焼けだった。有名な画家がペイントしたような鮮やかな朱色の赤。こんな綺麗な夕焼けはどれくらい見てなかったかしら。ユズハは背中で眠るフランにも本当は見せてあげたかったが、フランにはまたきっと神様が見せてくれると思いそっとしておいた。
ユズハがドームへ戻ると、さんがちょうど電話を終えたところだった。どうも雰囲気が良くない。
「団長、どうしたの?」
「戻ったか。向こうで問題が発生した」
「すまない、少し話があるんだが......」
ノインが楽園組二人に相談を持ちかけた。
「おう、どうした?」
「それが、参加したくないって言ってるんだ......」
「参加したくないって、フランの家族の救助のことか?」
「ああ」
「どういうことだ?」
サルガルドとヨルの表情が険しくなる。
「目を覚ました彼女に事情を説明した。フランが彼女を無事に治すことができたら、家族の捜索に協力する契約を結んだと。確かに自分を治してくれたという点でアスカはとてもフランに感謝している。だがこの契約は私が知らない間に行われたもので、無効だというのが彼女の主張だ。それにクラスターの本部などという敵の総本山に行くなど命を捨てるものだと言って聞かない」
「まあ、起きていきなりそんなこと聞かされりゃ、文句を言いたくなるのもわからなくはない。それにまだ現実の世界に戻ってきたばかりだ」
サルガルドは私情を抑え中立的な意見を口にする。
「だがあのアスカという子を治したらこちらのことを手伝うと提案したのはそっちの方だ」
「それはもちろんだ。当初よりも長くなってしまうが、時間をもらえないだろうか......その間に説得してみせる」
「具体的にはどれくらい?」
ヨルが鋭い視線をノインに向ける。
「一週間。なんとか頼む」
「......ちょっと待ってくれ。確認する」
サルガルドはそういうとサンへ電話をした。
「どうした?」
サルガルドは親から叱られる子供のようにビクビクしながら、今回の事情を説明した。
「わかった。それでいい。だが今回のことによってはフランの人生が変わることを常に忘れるな」
そういい電話を切り、一気にサルガルドの顔に血の気が戻った。
「よし、一週間待つ。あまり考えたくはないが、それで説得できなかったというのは極力無しにしてくれ」
「ありがとう」
「じゃあ俺たちは戻る。帰りの車を頼む」
そう言うとサルガルドとヨルは荷物をまとめはじめた。
行き当たりばったりにも程がある。一歩目を踏み出した途端に崩れそうな橋の上にいる気がした。
「ちょっとそれどういうことよ!!図々しいにも程があるわよ!フラン君に助けてもらっておいて」
サンから事の次第を聞いたフランは烈火のごとく怒り出した。それをみたサンはお前はフランのお袋かと思わず言いそうになる。
「サルガルドは詰めが甘いからな。今後これを機に勉強してくれるといいんだが」
「信じらんない......」
ユズハはそう言いサンから離れ、フランの部屋に向かう。部屋に入ると、フランは相当疲れが溜まっていたのだろう、ベッドで小さくいびきをかいて丸まって寝ていた。
イズミはフランのベッドに座り、眠っているフランの頭をゆっくり撫でた。
「ほんと、ありがとね。もうこれからはフラン君だけに無理させはしないから」
そう言ってそっとフランの頬にキスをした。
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