第48話 告白〈コクハク〉
「次、いこうぜ、次」
むーっと不機嫌そうに唸りながらも山札をきる東雲。それからも淡々とゲームは続いていった。
明らかに負けの数は俺のほうが多く、隠し事もかれこれ十個は披露しただろう。女子トイレに誤って侵入したことや幼女大好き人間であること、周囲が下の名前で呼んでいる女子のことを俺も同じように下の名前で呼んだときの空気が殺人的だったこと、ゲームを続ければ続けるほどテンションがあらぬ方向へと向かい、隠し事のネタが自分を追い込みかねないものになっていた。
とは言ってもやはりこの闇のゲームは運に頼る部分が大きいらしく、東雲の隠し事もそれなりに露呈していっている。胸のサイズはピー、今日のパンツの色はピー、授業中に校内一のイケメン国語ピーを頭の中でピーしていること
そんなくだらない遊びも佳境を向かえている。すでに瀬戸大橋を通り過ぎ、岡山到着まで三十分を切っていた。
「ふぅ、かなりハードな内容になってきたけど、次でラストにしよっか!」
ポイントはお互いにマイナス九ポイント。勝負を降りたとしてもマイナス十ポイントになる。まさに瀬戸際状態だ。
「よっしゃ、勝てる気しかしねぇぜ。絶対勝つ」
静かに闘志を燃やし、右手に力を込める。ドロー! と思い切り叫びたくなった衝動を抑えながら、二枚引いて一枚を伏せた。
左手に残ったもう一枚のカードを恐る恐る確認する。そこに表示されていた数字、いやアルファベットはKだった。
……っふ、っふ、っふ、っふっははははは。確信した。これは勝った。
心が叫びたがっているようだったのでそのまま叫ばしておいて、表情には出さないようにしながら東雲のほうをちらっと
「勿論、勝負だよな? 降りても負けだぜ?」
「よ、余裕だし! 勝ちは頂いたも同然だね!」
俺も東雲も山札の横に伏せてある自陣のカードに手を添える。すすっとカードの擦れる音が車内の騒音の中でもはっきりと耳に入った。
青柄の裏面から徐々に
伏せられていたカード、そこに書かれていた数字は三だ。最後の最後まで締まりのない微妙な感じになってしまい辟易しつつ、東雲の様子を窺う。視線がぴったりと合った瞬間、ニッと満面の笑みを浮かべて二枚のトランプの
そこに書かれていたのはハートの一とダイヤの一だ。
「んー? お!? おお、よっしゃ」
「くぁー負けたー! 最後についてなかったなぁー」
俺の歓声と同時に、東雲は両手を軽く上にあげて悔しそうに呟く。
あぁーと静かに唸っているけれど、その表情にはなんとなく潔さが感じられた。そそくさとトランプを片付け、よしっと小さく頷くと俺のほうに黒い瞳を向ける。
「ビッグな隠し事、言っちゃうけど心の準備は良い?」
「お、おう。てか心の準備は俺じゃなくて東雲がするもんじゃねぇのかよ」
いいからちゃんと準備しておいてよ、と東雲は呟く。ガタンとしきりに揺れる車両の中で東雲の金髪もゆさゆさと左右に動いていた。
澄んだ瞳は変わらず俺の眼球を捉えて離さない。
なぜか息を止めていた。それに気づき、スーッと鼻で大きく息を吸う。と同時に東雲のこじんまりとした口が微かに動いた。
連動するように音も続く。
「さくやんとはるるんの間で起こってるテレパシー。あれはわたしがやったんだよ」
東雲の声は言い終わってすぐに車内の空気へ溶け込んだ。
流れる沈黙。俺と東雲の間には電車が放つ騒音と周囲の喧噪だけが残っている。
声が出ない。
心の中では、はっ!? とか、え!? とかそういう驚嘆めいた叫び声が駆けずり回っているのにそれが声として出てくれない。
おまけに視線まで外すことができないでいた。東雲の瞳に吸い込まれるかのごとく視線が引っ張られる。
どれくらいの間沈黙が続いていたのか全く分からない。何か言葉を発さなければ、と頭の中を整理しようとしてもあちらこちらに飛び散る感情はもはや収集不可能だ。脳内が落ち着くこともなく口だけが先走った。
「お前、何なんだよ」
今、俺が抱くすべての疑問を一言に集約した。何故東雲の口からテレパシーなんて言葉が出てくるのか、何故テレパシーなんて引き起こしたのか、何故東雲がやったのか、何故俺と持田なのか。如何にしてこんなことをしでかしたのか。
お前の正体は何なのか。
「さくやん、わたしは神様だよ」
いつもだったらここで
今は笑えない。
まったく笑えないどころか、泥沼に生き埋めされるかのような感覚に陥り、悪寒が全身を襲った。
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