第26話 失策〈シッサク〉
俺も
その音は次第に大きくなり、ちょうど扉の前で止まった。チクタクと動いていた時計の針が急に止まったかのように、物置の中が静まり返る。扉の向こう側に立っているのは持田か、それとも謎の男か。得体のしれない『そいつ』に対してただならぬ恐怖感が湧いてきたのは、このシチュエーションに問題があるのだろう。
止まっていた時計の針が再び動き出す。
ガラガラガラっとゆっくり扉が開けられ、物置の中に光が差し込んできた。首を
彼は不信感をこれでもかというぐらいに放ちながら、
「うおっ! びっくりした! ひ、ひと!?」
ちゃっちゃら~ん、ドッキリ大・成・功~、みたいな雰囲気が周囲に漂う。
扉のほうへ向いていた首をさらに二十度ほどうしろへ
上浮穴の顔をずっと見ているわけにもいかず、俺は開いた扉のほうに再び視線を戻した。軽やかな足音とともに男子高校生の背後から姿を現したのは勿論、持田だ。
「え、あれ? 松前くん? とー、
一瞬、持田は目を大きく見開いた。けれどすぐに目を細め、口角を不自然に吊り上がらせる。訝しむ視線と作り物の笑顔が相乗効果を成して、不気味な表情になっていた。
「いや、たまたま俺たちも話があってここまで来たんだけど、持田の姿が見えたから咄嗟に隠れてしまったわけで、そのー、なんていうの? 別れちゃった恋人をたまたま見かけたときに逃げたくなる的な? まぁそういう感じだ、俺は何も悪くない」
「あーはいはい、そういう感じね」
「ねえ、童貞が妄想でもしているかのような言い訳はその辺にして、さっさと出てくれないかしら? 私から先に動くと、自分で胸を押し付けているようになってしまいそうで嫌なのだけれど」
持田からは受け流しという名のボディーブローをもらい、
おおよそ五分ぶりに地面へ降り立つ。真正面には男子高校生が苦笑いを浮かべて立ち尽くしていた。のっぺりとした顔は物腰柔らかな雰囲気が感じられ、程よくワックスの塗られた長めの髪はなぜか清潔感で固められている。
「その……すみません、聞くつもりはなかったし聞こえてもこなかったんですけど」
「ああ、全く気にしなくていいよ。というかタメ口にしてくれよ、持田さんの友達なんだろ?」
「あ、いや、そんなんじゃ」
俺は口ごもった。
うーん。『友達なんだろ?』の言葉の裏に『彼氏じゃないよな?』が見え隠れしていて怖いんだが。
お得意の必殺技、ジ・イシキカジョウを発動させながら男子高校生の微笑みに対して睨み返していると、背後から冷たい声音が投げかけられる。
「私、用事があるから。先に失礼するわ」
返答の隙を与えない、と言わんばかりに
少しでもテレパシー現象の解決へ近づけると期待していたけれど、無駄だったな。今回も、何の情報も得られませんでしたぁ! と
解決までの道のりが果てしないことを再認識し、
「すまん、持田。本当に内容は聞こえなかったから……。俺も教室に戻るわ、じゃあ」
「あ、うん」
持田の声を背中で受け止め、俺は足早に立ち去った。しばらく歩いていると、後方から微かに持田と男子高校生の楽しそうな話し声が聞こえてくる。
それによって湧いてきた感情はたった一つ。二人とも楽しそうで微笑ましい、ただそれだけだった。
* * *
昼休みの
「お前、バイト、何個
『九十九里浜42』のメンバー写真集を求めて
「三つよ、悪いかしら?」
東雲が見たというウェイトレス姿、モスドナルド店員、そして書店員……理数科の人間とは思えないぐらい、バイト
『
『あれ、さっきの子猫、後ろからついてきちゃってる』
……猫と
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