第21話 協議〈キョウギ〉

 タイミングよく一つだけいていたボックス席を見つけ、てくてくと歩いて向かった。


 たどり着くと、持田は右側の席に座り、続けて東雲が左の席へ腰かける。


 俺はテーブルの上に商品を置き、右側の椅子に着席した。


 真正面に座っている東雲はニヤリと笑みを浮かべ、人を小馬鹿こばかにするような表情をしている。


「やっぱり二人並んでるのを見ると、お似合いだと思うんだよねー」


「冗談は髪だけにしてくれ」


「怒るよ? 東雲さん」


 俺と持田の声が綺麗に重なった。ちらっと横を見遣みやると、持田の頬が心なしかぷくっとしている……いや、気のせいか? んー、でも若干ふくれているような気がしなくもない。くそっ、変化が小さすぎて判断に困るなぁ。


 口から爆弾を吐き出した東雲は、えへへっと柔らかな笑顔を浮かべていた。


「ごめんごめん、はるるん! 冗談だよ!」


「もぅ、東雲さん、きらーい」


 普段となんら変わらない持田の声音が周辺に溶け込む。表情は一切変化がなく、なんとなく冷たさを感じ取れた。


「え!? ご、ごめん……」


 持田の声がずっしりと響いたのだろうか、東雲の表情が徐々に曇っていく。


 そんな東雲の様子を気にすることもなく、持田はさらっと口を開いた。


「えへへっ、冗談だよー。一倍返し!」


 そう言って、持田はほんのかすかに笑みを浮かべている。自然な表情からは特に悪びれる様子も感じられない。


「び、びっくりしたぁ。はるるん、意外とやり手だ!」


 瞳を潤ませながら東雲は言った。


 ……俺は一体何を見せつけられているんだろうか。俺と持田よりも東雲と持田のほうがよっぽどバカップルに見えるぞ。さぞ幸せそうですね、微笑ほほえましい限りです。


 二人の様子を見守りながらチキンフィーレオの包み紙を開き、ほんのりと温かいバーガーを口に頬張ほおばった。


 ふわふわなバンズとほくほくのチキンが完璧にマッチし、スパイスの利いたソースとシャリシャリのレタスが最高のアクセントをしている。それらすべての具材が口の中で融合し、噛むたびに満足感が押し寄せてきた。


 くぅ~、美味い!


 庶民的なフードということもあって、謎の安心感がある。モスドナルドには久しく来ていなかったけれど、やはり最高だな。


 さらなる幸福を求めてオラ・オーラに手を伸ばす。ストローを差し、きゅっと吸い上げてオーラを口に含むと、しゅわしゅわな感覚が口内こうないに広がった。


 線香花火を彷彿ほうふつとさせるはじけ具合によって頬粘膜きょうねんまくが刺激され、それがさらなる着火剤となったのだろうか、ちょっとした疑問が頭をよぎる。


「っん、東雲、ここに来たのってただ単にハンバーガーを食べたかったからなのか?」


「え? まぁ、それもあるけど、部活の話を進めようと思って!」


 バカでかいバーガーを手に持ったまま、東雲はニッコリ笑顔で答えた。あぁ、そういえばそんな話もしてたっけ。久しぶりのモスドナルドにテンションが上がったということもあって、部活の話が記憶の奥に押し込められていた。


「あと一人、どうするかだよねー」


 持田はモッスシェイクを片手に持ちながら、冷静な声音で呟く。


「その前にまず、何をする部活なのか決めないとまずくないか?」


「さくやんがまともなこと言ってる……怖い」


 あなたがまともな考えなしに部活を作るとか言い始めたからなんですよ、東雲さん。俺にまともな発言をさせているあなたのほうが数倍恐怖感を放ってるからね、東雲さん。


「この時間帯にそんな高カロリーなものを食べてるお前はよっぽど怖いもの知らずなんだな」


 なんだよー、いいじゃん、と呟き、東雲はビッグなバーガーを口に頬張ほうばる。東雲の顔は普通にしていても小顔だと感じられるけれど、手に持っているビッグなバーガーのせいでさらに顔が小さく見えた。


「やるなら当然、文化部か。本気で生徒会に承認させるなら、活動の中で何かしらの技術が身に付くような内容がいいかもな」


 言い終わった瞬間にどっと疲労感がのしかかってきた。自分で言っておいて申し訳ないけれど、面倒くさくなってきたなぁ。


「そうだよね。生徒会の人が納得するような活動かー」


 持田はモッスシェイクのストローをくわえながら右上のほうに視線を向けている。どうすればいいか、いろいろと思索しさくを深めている様子だ。


 ちらっと東雲の顔を見ると、もぐもぐと口を動かしていた。数回咀嚼そしゃくして口の中のものをごくりと飲み込み、東雲は口を開く。


「部活を作りたいのは、さくやんとはるるんとお菓子とか食べて楽しく過ごしたいと思ったからなんだよねぇ、活動自体は何でもいいやって感じ」


「それって、部活を作らなくてもいいんじゃね?」


「だめだよー、専用の教室が欲しいじゃん! バカ騒ぎしたいじゃん!」


「お前、学校でお祭りでもおっぱじめる気なの?」


 俺の言葉がしゃくに障ったのか、東雲は眉間にしわを寄せて、むっとした表情を浮かべている。


 そんな東雲の様子を気にかけることもなく、持田は何か思い出したかのように声を発した。


「あ、そういえばさ。昨年まで広報部ってあったけど、今年で廃部になっちゃったんだよね。それを復活させるのってどう?」


 持田の淡々とした声音がまわりを包み込む。


「広報部か。専用の教室はあったような気がするし、遊ぶ時間もほどほどに確保できそうだし……いいかもな」


 とはいっても、広報部が一体どんな活動をしていたのか、全くと言っていいほど知らない。校内で起きた出来事を記事にしたり、何かの宣伝をしたり、そういう内容であると想像すると、まぁやってもいいか、ぐらいの軽い気持が湧いてきた。

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