第20話 入場〈ニュウジョウ〉
ビ・ロ・リー、ピ・ロ・リー、ピ・ロ・リー、と中毒性のあるポテト
ファストフード店ならではのジャンクな香りが充満し、オレンジ色の照明が四方八方を
平日の夕方ということもあって制服姿の学生が大半を占め、店内は賑わいを見せていた。
……そんなお店の風景なんて、この際どうだっていい。
今、この状況の深刻さから目を
堂々と言ってしまおう。校舎を出てからここにたどり着くまでの間、俺は常に両手に花状態だった。
あまりパッとしないけれどよく見ると、あれ? 可愛くね? と評価されるであろう持田と、異常なほどに目立ち、おい? 可愛くね? と評価されるであろう東雲。この二人が俺と並んで歩いているさまを、両手に花という表現以外でどのように言い表せばいいのだろうか。恥ずかしながら、俺にはこれ以上に適切な言葉が思い浮かばない。
俺の立ち位置は、
こんなものは
たまプラーザ駅内ですれ違った二人組の女子高生のひそひそ声が、
『うわっ、あの二人、めちゃくちゃ可愛くなーい? 真ん中のと釣り合ってなさすぎでしょ』という甲高い声と、『レベルたっかー。けど、なんであんなのと歩いてるんだろう……ふっ』という少し低めの声が俺の耳に侵入してきたときには『だよな? この二人と並んでたら釣り合わないぐらいに俺ってイケメンだもんな?』などというサクヤンジョークを心の中で
尊大な自意識によって自分の
「お次でお待ちのお客様、こちらへどうぞー」
20代ぐらいの女性に誘導され、流れに沿って淡々と注文が進んでいく。俺はチキンフィーレオのセットを頼み、持田は期間限定のモッスシェイク・チェリー味を単品で注文した。
俺と持田が手短に言い終えたのを見て、東雲はおどおどしている。うぅ、と唸りながらメニューを真剣な表情で凝視するさまは、まるで売り出されたキャベツの玉を一つ一つ吟味している主婦のようだ。
あーでもない、こーでもない、と
……どこからツッコんだらいいのだろう。とりあえず、あの量は食べきれない、に五千ペ〇カ
ちらっと持田のほうを
「お会計が、1860円でございます」
手に持っていた財布の中を確認すると、680円分の小銭は明らかに無かった。俺は千円札を一枚取り出し、それに続けて持田が百円玉を二枚置く。東雲は一瞬硬直したけれど、すぐに500円玉一枚と百円玉二枚を差し出した。
おつりを受け取り、商品が出来上がるのを待つ。ちらっと出入り口のほうに視線を向けると、絶え間なく人の出入りが続いていた。
「さくやん! はい!」
ぼーっと出入口のほうを見ていた俺は、はきはきとした高音を聞いて振り向く。
東雲は綺麗な白い歯が見えるほどの笑みを浮かべながら、右手を俺のほうへ突き出していた。オレンジ色の照明のせいで、瞳の輝きが
親指と人差し指に
「いや、いらねぇよ」
「いいから、はい!」
「いや、ほんとに構わねぇから」
「もー、めんどくさいなぁ。後ろめたさが残っちゃうじゃん!」
東雲はそう言って、俺の制服の胸ポケットに右手を突っ込んだ。
左胸の
百円玉がポケットにコトンっと落ちたのを感じ、東雲の手がすっと取り除かれる。
「東雲。男子に対して今みたいなことは一生するなよ? むやみに期待させるのはそれだけで罪なんだからな?」
「はぁ? なんで詰むの?」
……いや、罪と詰みじゃイントネーションが違いすぎるぞ。とはいっても、期待して告白して最後に詰むという流れを誘発させること自体が罪だし、詰みと罪は切っても切り離せない関係にあるのかもしれない。
「あ、出来たみたいだよ、二人とも」
俺と東雲の、コードが複雑に絡み合ったような
飲み物が三つとバーガーが二つ、ポテトが二つ
それにしてもこの『ビッグなバーガー・フランポワーズを添えて』……ビッグすぎるだろ。これは五千ペ〇カ
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