第19話 鮮烈〈センレツ〉
持田は斎院先生に対して軽く頭を下げ、俺も同調するように
先ほど視界に入った黒髪女子高生は、男子教師と話しているようだ。その場所へ徐々に近づいていた。
記憶が正しかどうかわからないけれど、あの先生はたしかJクラスの担任、通称ゴリ先生だ。筋肉質な体格と色黒な肌からそう呼ばれているらしく、周囲でよく話題に上がっているのを耳にする。ゴリ先生という言葉を初めて聞いたときに、もう少し良い感じのあだ名はなかったのかよ、と思ってしまったのはここだけの秘密だ。
理数科の
ちらっと東雲の顔を確認すると
そんなことを考えながら黒髪女子高生の横を通り過ぎようとする。そのとき、二人の会話が耳に入ってきた。
「
「別に笑っていただかなくて結構ですが?」
う、うわー、ゴリ先生と真っ向勝負してるよ。すげぇ、強烈だな。ゴングが鳴って数秒でボディーブローをお見舞いされたかのような衝撃が走った。
ゴリ先生は斎院先生と同じように右手をこめかみの辺りに押し当てて、困ったような表情をしている。
教師って大変だなぁ、と適当に憐れみながら二人の横を通り過ぎ、出口のほうへ
出口のドアを開けて廊下へ足を踏み入れた瞬間、ちょっとした過去の記憶が頭を
そういえば昨年のクラス内で一時期、
特に興味は湧かなかったし理数科とは接点なんて皆無なので、上浮穴の容姿を見たことは無かった。
なるほど、電車と衝突する間際に目に入った黒髪美少女があの
「ねぇねぇ、さくやんとはるるんはこの後、用事あるの?」
東雲が不意に質問を投げかけてきた。
「わたしは何もないよー」
「俺もないけど。
俺と持田の返答を聞いた東雲は、口角をつり上げてにっこりと笑みを浮かべた。
「じゃあさ、じゃあさ! モスドナルドに行こうよ!」
おっと、これは面倒だな。訂正するか。
「あ、用事を思い出した。悪いけど、俺は帰るわ」
「はぁ!? 嘘でしょ?」
先ほどまでの笑顔は見る影もなく、東雲は眉間に
「ま、まぁそういうことだから。じゃあな」
俺は
右足を一歩踏み出す。その瞬間、右の
お、おい。このくだりはたしか昨日もあった気がするぞ。
恐る恐る
ロボットのようなぎこちない動きでうしろを振り返る。
そこにいたのは……持田だ。あーはいはい、知ってた知ってた。
身長の差によって持田は微か《かすか》に上目使いとなり、澄んだ瞳からは無言の圧力を感じた。心なしか口角が下がっていて、真剣な表情をしている。
持田は全く口を開こうとしないけれど、言いたいことはひしひしと伝わってきた。
廊下の窓は開いていて、春風がぴゅーっと吹き抜ける。その風によって俺の心は揺らされて、その振動がため息に変わった。
「はぁ……モスドナルドな。あー用事はもういいやー、ちょうどモッス食べたかったんだよなー、やべぇー、食べた過ぎて頭がおかしくなりそー、今すぐ食べないと死んでしまうかもしれないなー。さっさと行こうぜー」
「う、うわぁ、さくやんが急に変になっちゃった。
その切り返しはひどくないですかねぇ。ハンバーガーのやけ食いで血糖値が上がるまであるぞ。
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