第15話 帰宅〈キタク〉
東雲は
俺は東雲の言葉に対して、納得を示す
「お、おぉ……そうなのか」
「じゃあ、駅まではみんな一緒だね」
ピンク色の花びら一枚がひらひらと舞い降り、金髪の上に乗っかる。金色とピンク色とでは完全にミスマッチであり、美しいものとして形容される桜の花びらがその頭上では異物に成り果てていた。
俺にはその花びらを取り去ってやることはできないだろう。親しい
「あ、東雲さん、桜の花びらがついてるよー」
* * *
リビングでは姉貴がショートパンツとキャミソール姿で雑誌を読み
ドアが開く音に反応したのだろうか、顔だけをこちらに向けて軽く右手を挙げている。
「よー、おかえりー」
「ただいま。あー、今日も全くエロさを感じないな」
姉貴は眉根をぴくりと動かした。ぼそっと呟いた俺の一言が聞こえてしまったようだ。
「ア゛ぁ? 全部ぬぎゃあいいのか?」
「それだけは勘弁して。目に劇物だから」
そう言って、俺はソファに鞄を置く。そのとき、横から姉貴の声が飛んできた。
「昨日も思ったんだけど……あんた、彼女できた?」
「は? あり得ねぇだろ」
俺と姉貴の視線が空中で衝突する。互いに探り合うような冷戦状態が数秒続き、姉貴が口を開いた。
「まぁ、どっちでもいいけどさ。あんた、自分が今、歩く
「歩く芳香剤?」
意味不明なワードを聞いて、俺は困惑した。けれど、すぐに理解できた。思い当たる
「あっ」
記憶から溢れてしまった分が言葉に変わって、口から漏れ出た。
「
姉貴はニヤニヤと笑みを浮かべ、からかうような表情をしていた。
ヘイズオブ、何? セマサリー? なんで匂いだけでブランドが分かるんだよ。
そのとき、頭の中に突然高音が響いた。
『お姉さん、すごい! わたしの香水、知ってるんだぁ』
おっと、
姉貴の嗅覚の鋭さって、病気なんじゃないかと疑ってしまうんだよなぁ、毎回。
姉貴の特技には料理が入っているけれど、これも嗅覚と味覚の異常な
「鼻の神経、手術した方がいいんじゃねぇの? 壊す方向に」
「馬鹿なこと言ってないでシャワー浴びてきたら? もちろん冷水で」
姉貴は俺の言葉を軽くあしらい、雑誌に視線を戻した。
こうやってバッサリと男を切っていくのは、どうやら弟だからというわけじゃないらしい。
以前、姉貴がリビングで電話をしているときの話だ。通話中に姉貴が何度も口にしていた名前から、相手は大学の男友達だとわかった。内容を聞いていると、というか否が応でも入ってきたのだけれど、『は? それはリュウヤが悪いじゃん』とか『ちゃんと電磁波工学の問10やってきてよ?』と言っていた。あぁ、家にいるときと同じように大学でも変わらず男
『うーん、パンツちょっと食い込んでるなぁ……直したいかも』
姉貴はソファに寝転がるような姿勢で雑誌を読んでいる。俺はその様子を横目に見ながらドアのほうへと歩き始めた。
「——地球上で約2%なんですよ。イギリス人女性はブロンドヘアーのイメージが強いですけど、根っからの金色を持っている人は限りなく少なくて、ほとんどの方が染めてらっしゃるんですよねぇ」
一瞬、脳内を
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