第10話 呼称〈コショウ〉
そう言って、落ちていたファイル一式を拾い上げる。それを見た
うしろに
俺だけ手伝わないなんて
疲労感がずんっと押し寄せてきた。重力に引っ張られるように、足元の教科書に手を差し伸べる。
そのとき、手先に
「あっ」
「あっ、悪い」
条件反射で手を引っ込める。視線を上に向けるとそこには……
「なんだか今の、青春っぽかったね?」
ほんのわずかに口角をつり上げて言い放たれたその言葉には、一切の青春っぽさが感じられなかった。
片付けはものの一分ほどで終わり、
「
「どうも、
「
さらっと自己紹介を終えた
「
「いやぁ、二人とも美男美女だぁ」
「
「もっちろん! 冗談だよ! はるるんは美女だけど、さくやんが美男だなんて……ぷぷっ」
こいつ……殴りてぇ。
ここ最近のなかではトップレベルの勘違いを起こし、恥ずかしさが心を侵略していく。
横をちらっと見ると、
俺の動揺した様子を気にかけることもなく、持田は口を開く。
「は……はる……るん?」
「そう、
「全然、嫌じゃないよ。突然でびっくりしちゃって」
それを遮るように俺は喋りかけた。
「俺は嫌だから、
「えーなんでぇ? さくやんって響き、超よくない? めっちゃやんやんしてそうでかわいいじゃん」
「かわいさなんか求めてねえよ」
いや、そもそもヤンヤンって
「もーう、なんだよそれー。んーじゃあ、まさきんってどう?」
「お前、語尾に『ん』をつけないといけない宿命でも背負ってんの? 普通に名字でいいじゃねえか」
「えぇ?」
あれから一週間は周囲のひそひそ声が止まらなかったんだよなぁ。
過去のトラウマが頭の中をちょこまかと動き回る。もういっそのこと
この場では全く無関係な問題について自己完結したところで、
「お前ら、雑談なら外で好きなだけやってくれ。
まくし立てるように言葉だけ残して、
わざわざ職員室へ呼び出して転校生の案内を任せた、その相手がなぜ
俺は逡巡する。
半ば強引に連れてこられたという事実が、俺の背中を後押しした。
「じゃあな、
なるべく余韻を残さないように消えようとする。けれど、左の袖口あたりに感じた力が、俺の動きを止めた。
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