2. コウナイ・アンナイ
第8話 春嵐〈ハルアラシ〉
新学期二日目にして職員室へ参上することになるとは思わなかった。
「おい、
「て、手伝いに来ました。二年生になったんで心を入れ替えようかなーどうしようかなーと」
「あれほど『人の根性はそうそう変わらない』とかなんとか言ってたやつが? 心を入れ替える? ほーぅ?」
「いや、過去のことは
「ああ、悪い。過去を引きずらない男は好きだよ」
「唐突に告白とか勘弁してください。そもそも先生は男なら誰でも
「ア゛ァ゛?」
俺の言葉を遮るように、どす黒い声が響いた。
「あ、いや、そもそも生徒に対して好きとかあんまり言わないほうがいいですよ。先生、お綺麗だからすぐに変な気をおこしちゃいますって」
「……え? 綺麗? そ、そうかな……」
目をぱちくりと
裏さやさや状態まで持っていくのは思いのほか簡単で、昨年はこの手を惜しみなく使ったが、まだまだ効力はありそうだ。
汚いやり方ではあるけれど、容姿については本心から綺麗だと思っているのでグレーゾーンということで勘弁してもらおう。実際、綺麗な顔立ちをしているし、男性を
一年間同じようなやり取りを繰り返すことで出来上がってしまった、お決まりの流れみたいなものもこの辺にしておいて、俺は右に顔を向けた。
職員室に入ってからここまで終始無言を貫いていたけれど、ようやく彼女は口を
「あのー、先生」
「おお、
「いえいえ、大丈夫です。
「そうか、それなら安心だ」
二人して……女性って怖いなあ。財布のひもを妻に握られている夫ってこんな感覚なのかなぁ。やだなぁ。怖いなぁ。
反論をする気にはなれないのでそのまま黙っていると、
「それで、転校生っていうのは……」
「ああ、トイレに行っているよ。もうじき帰ってくるだろう」
「お前たちは仲が良いのか?」
「いや、急にどうしたんですか」
俺の言葉を気にする様子もなく、
「ただのクラスメイトですよ? お手伝いで連れてきたのも、
いや、教卓の上で土下座とか、すげえ上から目線で
「お、おい。そんなことしてねえだろ」
「
え、まじで? あの茶色い台ってそんなに崇高なものだったの? 教科書を置く台にしか見えないんだが……。
謎の
いやいやいや
否定するのも面倒くさいなぁと思いながら、このままだと終身刑もとい雑用の刑が下りかねないので、
「いや、先生。本当に俺は——」
やってないんです、と真剣な顔で冤罪に立ち向かおうとしたちょうどそのとき、職員室内に異常な騒音が訪れた。
どんっ、と何かと何かが衝突したような重低音が体の芯に響いてくる。
条件反射で聞こえてきたほうに顔を向けると、職員室の入り口のドアが3分の2ほど開いていた。
ちゃぶ台返しでもしたかのような、あらゆるものが地面を打ち付ける音だった。無秩序に響き渡る騒音と一緒に、悲鳴のような高音も聞こえた気がする。
一瞬の
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