第7話 距離〈キョリ〉
……。
…………。50メートル走のときってこれぐらいの距離だったっけ。
………………。あ、
『んー。今日の
おいおい、なんかお洒落な名前が飛び出してんだけど。アクアパッツァ? なにそれ、ドミノ・ピッツァの仲間か?
『あ、現象、始まったね』
その声が響いてきたのと同時に、遠く離れている
『よっし。そっちに戻りまーす』
すごく
『結構、距離あるねぇ』
たしかに、
『あ、小さな女の子がこっち見てるー』
え? 小さな女の子?
幼女!? どこ!?
俺は周囲をくまなく見渡した。右側、異常なし。左側、川以外なし。前方、女子高生以外なし。
後ろを確認しようと振り向いた、そのときだった。
ぽかーんっとした表情で俺の顔をまじまじと見つめる少女の姿を視界にとらえた。
……っくぁ、かっっわEEEEEEEEEEEEE。
俺の腰あたりまでしかない身長、手に抱えているクマのぬいぐるみ……このミニチュア感こそが幼女の最強たる
運に見放され、世の中は地獄だと思っていたけれど、このひと時はまさに天国。幼女……
『
っと、落ち着け落ち着け。我ながら気が動転してしまった。
聞き
えっとー、ア、アクアピッツァだっけ? ウマソー。
『アクアパッツァね、覚える気もない感じだぁ。白身魚とか貝をオリーブオイルやトマトで煮込むイタリア料理なんだけど、お母さんの作るやつが結構美味しくてさー』
なるほど、イタリア料理ね。……ドミノ・ピッツァって若干かすってない? かすってないか。
『アクアパッツァ、食べたことないんだよね?
いや、行かねえよ。なに、そのさらっと誘う感じ。
『え? だって——』
……。
ん? あれ?
だって……ってその先は?
それまで淡々と続いていた
不自然に現象が
「あ、
下腹あたりに力を込めて、俺も叫んだ。
「す、すげえ、本当に途切れたなー」
辺り
ここから
俺は右手を軽く挙げ、
目の前まで帰ってきた
「他の人から見たら、わたしたちってめちゃくちゃ変だったよね」
「ああ、間違いないな」
他人の目には俺たちの姿なんてただの高校生としか映らないだろう。俺たちが異常な状況に陥っているということも、彼ら彼女らが知ることはない。『理不尽な怪奇現象』を俺たちは認識している。けれど俺たち以外の人間は認識していない。この違いが俺たちの行動の異色さをより引き立たせるだろう。
「はやく解決しないとな」
ボソッと呟いた俺の一言に対して、
「まぁ、そうだね……でもさ」
真っすぐに俺を見ていた持田の目が一瞬泳いだ。頭の中で言葉が
自分が停止させた時間を自分の手で再生するように、
「この現象が起きるのは、それはそれで面白いのかなって思っちゃった。松前くんの考えていることって、なんだか……飽きないんだよね」
「なんだそれ」
全く要領を得ない発言が飛んできて困惑した。俺が
溢れ出る自意識過剰っぷりを抑えつけて、俺は言った。
「それなら、さっきまでやってた実験は無駄だったんじゃないのか?」
「それは大丈夫だよ。この現象を止められるならそれに越したことはないから」
お、おう。結局、どっちでもいいみたいな感じか。
異常な状況だからこそ、
けれど、その適当さに甘えて、すがって、期待して、
俺の思考回路は共有されていいものではない。
そんなことをぼんやりと思い浮かべて空を見ると、いつの間にか太陽は完全に沈んでいた。
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