君の心は飛躍しやすい

真莉キョーコ

第1話

君の心は飛躍しやすい

「え?」

僕が聞き返しても、彼女はそれ以上何も言わなかった。

まだ夏が始まったばかりの、夕焼けが僕たちの影を落とす放課後の教室で、彼女は泣いていた。

理由は分からない。

ただ彼女の頬を伝う涙が、夕陽に光ってとても綺麗だと思った。

彼女が僕に気づいて、びっくりしたようにこちらを見た瞬間、僕はその彼女がクラスメイトの"新実はるか"だということに気がついた。

彼女はあまり笑わない。それ故にクラスメイトからは遠ざけられている存在だ。いつも何かを悟った目をしている。

僕は彼女と話したことがない。当然彼女も僕と話す気なんて微塵もないだろう。なんせ僕はクラスの中では嫌われている方だ。''ウザ絡み"とかいうやつをやっているのだろう。自覚症状はない。ただみんなと仲良くなりたいという気持ちで接しているのに、なぜかみんな僕を遠ざける。遠ざけるという点では、僕は新実はるかと同じなのかもしれない。

放課後の教室で僕たちは気まずい雰囲気になった。

僕は意を決して新実はるかに話しかけた。

「君っていつも1人だよね。寂しくないの?まあ僕も1人だけどさ。」

所詮僕はろくな話ができないのだ。

僕は続けた。

「君はなんでそんな物事を悟った目をしてるの?みんな君に近づき難いと思ってるよ?」

彼女は黙ったままだった。

僕は彼女が泣き出すのではないかと今更心配になった。

女の子を泣かすのは良くないと思っている。

何か言葉をかけようとしたその時、彼女はいきなりつかつかと僕の方へ歩いてきてこう言った。

-君の心は飛躍しやすい-

それだけ言って去っていった。

「え?」

彼女は振り向こうともせず早歩きで消えて行く。

なんだあの悟ったような目、なんなんだ彼女は。

「いけ好かない…!」

その言葉が夕陽が窓から差し込む放課後の教室に響き渡った。

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君の心は飛躍しやすい 真莉キョーコ @honami12345

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