第2話

食堂

村山「……………………」パクパク


村山「……………………」パクパク


奏「………………えい」


村山「うおっ、何者だ!?」


奏「ふふっ、誰でしょう先生?」


村山「誰でしょうではない佐々木!食事中の先生の目を手で覆ってはいけないと学校で習わなかったか?」


奏「習ったことないよ」


村山「なら今教えてやる。今すぐ手を退けろ」



奏「だってせっかく弁当作ってきたのに先生ったら食堂のご飯なんか食べてるんだもの……」


村山「悪いか?弁当を作ってほしいとは一言も頼んではいないが?」


奏「今までその頼んでもいない弁当をおいしそうに食べていたのはどこの誰かしら?」


村山「うっ……仕方ない、今日は食べるが明日からはもう作らなくてもいいからな?」


奏「それでいいの。さっ、早く教室へ行きましょ?」


村山「あぁ」


礼「…………」



翌日、食堂

奏「……………………」


村山「…………」パクパク


奏「………………ふん!」


村山「痛っ!何者だ!?」


奏「ふがいない弟を持ったお姉ちゃんです」


村山「弟ではないといつも言っているだろう!?あと先生の背中をチョップで叩くのはやめなさい!」


奏「何よ、今日もお姉ちゃんの弁当より食堂なんかのご飯を食べているの?」


村山「食堂なんかじゃありません!食堂も結構イケるぞ?」


奏「お姉ちゃんの弁当より?」


村山「おうよ」


奏「イラッ」



奏「…………」


村山「おい何故隣に座る?」


奏「私もここで食べるの。文句ある?」


村山「……特に無いが」


村山「(弁当まで広げて……どうやら聞く耳は持っていないようだ)」


村山「なら私は向こうへ行っているから」


奏「何言っているのよ?一志もここで食べるのよ」


村山「何を言って……いっ!」


村山「(こいつ、何の遠慮も無しに鼻を摘まんで来やがった!)」



村山「はぁはぁ……なにをする!」


奏「はい、あーん」


村山「むぐっ、うぐっ」


村山「(こいつ、鼻を摘ままれて呼吸出来ないことを良いことに開いた口に飯を詰めて来やがった!)」


奏「どう?おいしい?」


村山「…………ゴクン、はぁはぁ、美味いからもうやめ……」


奏「そう!ならどんどん食べて!」


村山「むぐっ」


村山「(まずい、俺の口の中もまずいが)」


ヒソヒソ、ざわざわ


村山「(ここは人目がありすぎる。教師が生徒に食わせてもらっているところなんて見られたらどう邪推されてもおかしくない)」


村山「……ゴクン、おい見られてるぞ佐々木!」


奏「えへへ……あっ」


村山「あっじゃない、どうするんだよ……」


山崎「……ちょっと村山先生、こちらへ」


村山「あっ、山崎先生……」


山崎「教頭が少し話があるようです。お借りしますね佐々木さん」


奏「は、はい」


村山「(……ガクッ)」


礼「…………」



職員室前


ガララっ


村山「……はぁ」


山崎「本当にしっかりしてください先生。さっきは佐々木さんのイタズラということでなんとか誤魔化せましたが、次あんなことをしたら流石に庇いきれません」


村山「すみません、本当に助かりました」


山崎「……で、実際のところどうなんですか?本当にイタズラだった……という訳ではないでしょう?」


村山「そ、それは……」


山崎「ここまで世話を焼かせておいて僕には秘密ですか?」


村山「…………」


村山「(流石に手助けしてもらって、それで何も説明しないのは失礼に値する)」


村山「(相手はあの理解のある山崎先生……もう何もかも言ってしまおうか?)」


─────────


村山「実はある夜を境に私と佐々木は姉弟となり、毎日弁当を作ってもらって、家でも掃除をしてもらって、たまに甘えさせてもらって、もう何から何までお世話されてます!」


山崎「もしもし警察ですか?」


──────────


村山「(ダメだ、社会的に死ぬ。いくらなんでも常人の理解を越えている)」


山崎「大丈夫です。たとえ生徒と恋愛関係になったとしても僕は誰にも言いませんから!」


村山「(まだ恋愛関係の方がマシでした。本当にすみません!)」



礼「本当に何もないよ」


村山「青木!?どうしてここに?」


礼「面白そうなことしてるなって思って付いてきちゃった」


山崎「……何故そう言えるんですか青木さん?」


礼「だってあのイタズラ考えたの私だもん。奏には悪いことしちゃったね」


山崎「あれは本当にイタズラだったと?それにしては度の過ぎたイタズラだとは思いますが」


礼「これくらい普通っしょ普通。それに悪いのはそんなイタズラに使われる先生だし」


村山「私の扱い酷いな!」


山崎「……まあ、今回はそういうことにしておきましょう。しかし先生?」


村山「はい」


山崎「今後はあのような事がないように。どんな事情があったにせよ、それは周囲には通じませんから」


村山「…………はい、気をつけます」



礼「私山崎って嫌い。利口ぶって、人の良さそうに心配してるフリをしてるけど、絶対腹の中黒いよ。真っ黒よ!」


村山「……さっきはありがとう青木。庇ってくれて」


礼「いいよいいよ、先生には先生の事情があったんでしょ?」


村山「青木……」


村山「(なんて良い子なんだ。髪も染めてなんだかギャルっぽいなぁって思っていたけど……これからは認識を改めねば)」


礼「だから先生の事情を教えてくれたら黙っておいてもいいよ?」


村山「(前言撤回、やはり見た目通りの俗物だった)」



礼「はぁ~、姉弟ねぇ~」


村山「あぁ、あまり話したくはなかったが」


村山「(あのあと、思い付く限りの策をろうして誤魔化そうとしたが、抵抗虚しく最終的に俺と佐々木が恋愛関係であると校内にばらすと脅され、結局事の顛末を話してしまった)」


礼「ん~」


村山「……まっ、大の大人が年下の女生徒に世話になるとか恥ずかしい話だがな」


礼「確かに恥ずかしい話だね。そしてキモい」


村山「グサッ、分かってはいたが実際に言われると来るものがあるな」


礼「……でも、奏の気持ちはちょっと分かるかな」


村山「え?」



礼「一志ってさ、自分はしっかりしてるって思ってるけど、実際自分のことはなんにも出来てなくて、まあそこが面白くて私や香住とかは一志をからかうんだけど、奏としてはそれを見て世話を焼きたくなると思うんだ」


村山「……私はそんなにダメか」


礼「ダメじゃないよ。山崎に比べたらそんな隙だらけの一志が私は好きだし」


村山「んー、何だかあまり誉められていないような……」


礼「要は一志は母性をくすぐるんだよ。あぁ、この人は私がいないとダメなんだって。ただ……奏のあれはやり過ぎだけどね」


村山「そうだよなぁ。本人は弟が欲しかったと言うが、絶対にそれだけではないだろう」


礼「一夜を明かして姉弟になったんだっけ。もしかしたら一線越えた?」


村山「越えてない……と思う。何分その時は酒に酔っていて覚えていないから断言は出来ないが」


礼「まあ一線越えてたなら姉弟というより恋人って感じだもんね。流石にその線は無いか」


村山「………………」



礼「ん、どうしたのジッと見て。顔にゴミでも付いてる?」


村山「いや、意外と真摯に聞いてくれるんだなって思って」


礼「首を突っ込んだのは私だもんね。人の秘密だけ聞いてはい終わりじゃなんか嫌でしょ?」


村山「青木……」


礼「まあ最初はそれで済まそうと思ってたけど、話聞いてたらなんだか放っておけなくて……バレたら二人とも人生踏み外すしね」


礼「それに奏ては友達だし、一志には学校辞めてほしくないし……ははっ、なんかクサイね」


村山「……いや、むしろ見直したよ」


礼「今までどんな風に見てたのよ」


村山「小生意気な生徒だなって」


礼「ひどい!こう見えて友情には熱い女よ」



村山「今日は色々ありがとな。最終的に話聞いてもらった形になったが」


礼「気にしなくていいって」


村山「こんなこと誰にも話せなかったから……情けない話聞いてもらえてちょっと楽になれた」


礼「(ドキッ)」


礼「そ、そう。それは良かった。何だったらまた相談してくれてもいいよ?」


村山「……いや、私はもう大丈夫だ。いつまでも生徒の力は借りれない」


礼「えっ……」


村山「こっちはこっちで何とかするから、そっちは佐々木の力になってくれ。前に佐々木は寂しいって言ってたから、出来ればアイツが寂しくならんよう一緒にいてくれ」


礼「……そう、わかった」


礼「(……本当は不安な癖に強がっちゃって。そういうところをつけこまれるのよ)」



翌日、通学路

奏「先生、おはよう」


村山「……おはよう、佐々木」


奏「昨日はごめんね。私また暴走して……」


村山「いや、気にしていない。だけど昨日のようなことはもうやめろ」


奏「うん……でも先生も悪いのよ?」


村山「え?」


奏「私が毎日弁当を作って持ってきているのに、それなのに先生は別の人が作ったご飯を食べて……私の弁当があるのに……食べてくれないし……」


村山「だから……もう作らなくていいって何度言えば」


奏「私の弁当があるのに……最近一志は甘えてくれないし、頼ってくれないし、私一志に嫌われたのかしら……」


村山「(まずい、これは暴走する予兆!)」


村山「(こんな生徒だらけの通学路で暴走されたら……本当に二人の人生が終わる!)」


奏「ねぇ、一志?」


村山「な、なんだ?」


奏「一志は……お姉ちゃんのこと──」



礼「おっはよう!」バシッ


村山「痛っ!」


奏「れ、礼ちゃん?」


礼「あら、二人とも仲良く登校?面白そうじゃん。私も混ぜてよ」


奏「う、うん。いいよ」


村山「……こら青木!先生の背中を叩いて挨拶をするんじゃない!」


礼「あら、そんなこと言っていいの?」


村山「何?」


礼「危なそうな空気を変えたのにお礼も無し?」ぼそっ


村山「空気を変えたって……あっ」


村山「(さっきまで情緒が不安定だった佐々木が普段の佐々木に戻っている?)」



礼「流石に他人が近くにいる中でイチャイチャなんか出来ないでしょ?」


村山「イチャイチャって……そんな風に見えたか?」


礼「見えた。バッチリね」


村山「くっ……」


礼「だから時々こうやって二人の仲を妨害してあげる。そうすれば昨日みたいにはならないでしょう?」


村山「し、しかし、それでは青木に悪い」


礼「私が好きでやってるからいい。先生は気にしないで」


村山「あ、あぁ……あれ」


村山「(似たようなことをどこかで聞いたような)」



香住「礼、いきなり走ってどうしたのよ~?」


林「恋人の浮気現場でも目撃した?」


礼「ほら、アイツらも来たから先生は早く行って。奏とは四人で行くから」


村山「あぁ、何から何まで世話になった!」


礼「感謝しなさい……ふふっ」


奏「何話してたの礼ちゃん?」


礼「なんでもないよ」


礼「……まったく、世話のかかる教師だね」




おわり


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