生徒は先生をお世話したい

シオン

第1話

奏「おはようございます先生!」


村山「あ、あぁ……おはよう佐々木」


奏「?」


奏「どうしました先生?顔赤くして」


村山「い、いや何でもない。気にすることはないぞ佐々木!」


奏「……まあいいや。一緒に学校行きましょ」


村山「あぁ」


村山「………………」



村山「なぁ佐々木、私はこの前言ったと思うのだが」


奏「何を?プロポーズですか?」


村山「違うわ!私にあまり話しかけるなってことだ」


村山「最近ちょっと馴れ馴れしいというか……スキンシップが過ぎる」


奏「先生がそんなこと言って良いんですかぁ?差別ですよ差別」


村山「十分特別扱いを受けるようなことをしてると思うが?昨日だってお前が暴走して……」


奏「昨日?昨日って……何かありました?」


村山「っ!」



奏「私はあまり覚えていないので、先生から教えてほしいな?」


村山「私の口から言える訳が無いだろ!こんな通学路のド真ん中で……」


奏「ははっ、冗談ですよ冗談。私も先生を不幸にしたい訳ではないし」


村山「信用出来んな。先生のことを思うのなら……いやそれ以前に自分のことを思うのならもう少し分別のある行動をだな……」


奏「あら、お姉ちゃんに口ごたえ?」


村山「バッ、変なことを言うんじゃない!」


奏「ははっ、じゃあ先生……また昼休みに」


村山「……………………」


奏「返事は?」


村山「…………あぁ」



~職員室~

村山「………………はぁ」


山崎「村山先生、おはようございます」


村山「おはようございます、山崎先生」


村山「(この人は山崎勇将。この川柳高校の現国教師だ)」


村山「(ちなみに俺は日本史。同じ文系を教えているからか、山崎先生とは話すことが多い)」


山崎「朝からお疲れのようで。昨夜はあまり眠れませんでしたか?」


村山「いえ、睡眠は十分に取れているのですが、最近少し悩みがありまして」


山崎「ほう、悩みとは?」


村山「まあ……よくあるものですが、自分は生徒にナメられているような気がしてならないんです」


山崎「こう見えて私はしっかりしていると思うのですが、何故こうも低く見られるのでしょうか?」



山崎「生徒にナメられる……それは大変ですね。しかし裏を返せば生徒との間に溝が無い……そうは思えませんか?」


村山「それにしてさ度が過ぎているような気が……まるできょうだ…………こほん、友達みたいに接しているようで教師の立場がない」


山崎「何事も考えようです。むしろ僕のように畏まり過ぎて生徒と壁が出来るよりはマシですよ」


村山「そうですか?私はもっと威厳ある教師になりたいものですが」


山崎「(生徒にからかわれているようでは威厳ある教師には程遠いですよ、村山先生)」



山崎「しかし、なんだかんだ言っても先生は生徒から好かれていますからね。もっと自信を持ってください」


村山「(うーむ、本当にそれで良いんだろうか)」


山崎「それにほら、特に佐々木奏さんからは懐かれているじゃないですか。先程一緒に登校している所見えましたよ」


村山「……見られてしまいましたか。これは恥ずかしい」


山崎「恥ずかしがることはありませんよ。教師と生徒の関係として微笑ましいではないですか」


村山「そ、そうですかねっ」


山崎「……まあ、その関係も行き過ぎなければの話ですがね」


村山「っ!」


山崎「最近はそんな教師も増えていますから。村山先生もお気をつけて」


村山「そ、そうですね。はは、あはは……」


村山「(露骨に釘を刺してきたな。まあ当然と言えば当然だが)」




~廊下~

礼「あ、一志じゃん」


村山「…………なんだ君達か」


礼「む、何その反応。傷付くじゃない一志」


香住「そうよ一志。そんな反応じゃ面白くないじゃない」


リン「……ホント、股間爆発すれば良いのに」


村山「物騒にも程があるだろ!」



村山「色々言いたいことはあるが……青木 礼」


礼「何~?」


村山「先生を下の名前で呼ぶんじゃない!あと、その金髪を黒に戻しなさい」


礼「だって一志って呼ばれた時の先生の顔ウケるんだもん。何?生徒相手にドキッとしちゃった?」


村山「むしろ身の危険を感じてドキッとしたわ。社会的に冗談で済まされないので本当にやめてください。あと金髪も戻しなさい」


礼「キャハハ、でも金髪はやめない。黒とはめっちゃ地味だしね」


村山「黒髪も良いものだぞ?それに金髪は日本人には似合いません」


礼「…………やれやれ」


村山「(イラっ)」



村山「次は…………魚住 香住!」


香住「何よ一志、偉そうにしちゃって。似合ってないわよ」


村山「やかましいわ。お前も下の名前で呼ぶんじゃない。あと先生に面白い反応を求めるな」


香住「人に面白さを求めずに何を求めるの?貴方はエンターテイナーであることを放棄するのかしら?」


村山「エンターテイナーであること以前に私は教師なのだが」


香住「なら尚更よ。先生はユーモアのある授業、ない授業、どちらを受けたい?」


村山「うっ、それならユーモアのある授業かな?」


香住「でしょ?分かったならもっと語彙を増やしなさい。貴方の授業は少々硬いわ」


村山「む……確かにそうだな。まだまだ勉強が足りないな私も」


香住「でも、自分の未熟な部分を認めるのは良いことだわ」


村山「(……なぜ俺が宥められているのだ?)」



村山「こほん……ラスト高橋 林!」


村山「(分かりづらい為補足すると、林は林と書いてリンと読む。こいつの親は相当ネーミングのセンスが無かったらしい)」


リン「……何?クズ」


村山「いくら冗談だとわかっていても物言いが酷すぎる。何だクズって、シンプルに傷付くわ!」


リン「相手は選んでいるわ」


村山「私なら良いと思ったのか!」


キーン コーン カーン コーン


香住「授業の予令だわ。皆行きましょ」


村山「あっ、待て……」


村山「って、もういないし!」


村山「……まったく、都合よく逃げられた気分だ」


村山「(とまあ、このように俺は生徒にナメられている)」


村山「(そんなに俺って威厳無いのかねぇ……ガクッ)」




~職員室~

村山「……昼休みか」


山崎「お疲れ様です村山先生。お昼はどうなされますか?」


村山「お疲れ様です……今日は外で食べてこようと思っています」


山崎「今日もでしょう?ついこの間まで弁当だったのにどうしましたか?臨時収入でも入りましたか?」


村山「えぇ、臨時収入ではありませんが今はお金に余裕があるので」


山崎「羨ましい限りです。僕も外でざる蕎麦が食べたいです」


村山「はは、では私はこれで」




村山「……………………」


村山「(まあ当然、外食というのは嘘な訳だが)」


村山「(これから俺が向かうのは外の蕎麦屋ではなく、校内3階の空き教室だ)」


村山「(空き教室だから当然何も無い。鍵も閉まっているため生徒がたむろすることもないから人も来ない)」


村山「(そこで昼食を取る訳だが、別に俺が校内でハブられているから1人でひっそりここに来ている訳ではない)」


村山「(なら何故ここに来るか……それは)」


奏「あ、先生遅いよ~」


村山「……はぁ」


村山「(佐々木奏。この厄介な女生徒が俺を昼食に誘うからである)」



奏「ちゃんと来てくれたね。偉い偉い」


村山「や、やめなさい!先生を子供扱いするんじゃありません!」


奏「あら、誰かに見られると嫌だ?」


村山「当然だ!」


奏「ふふ、なら早く中に入ろ?鍵開けて?」


村山「……………………」


ガチャ


奏「良い子ね。時間も無いし早くお昼食べちゃいましょ?」


村山「あぁ……昼食を食べるだけな」


奏「…………ふふっ」




奏「はい弁当、今日は肉野菜炒めよ」


村山「ありがとう……しかしいつも弁当を作って貰わなくとも良いのだが」


奏「私が好きでやっていることだからいいの。先生は気にしないで」


村山「しかし女生徒に弁当を作ってもらう教師というのはまるで……」


奏「……一志」


村山「っっ!」


奏「お姉ちゃんの作った弁当が食べれないの?」


村山「いや、そういう訳では……」


奏「なら食べて?私一志の事を想ってこの弁当を作ったの。だから食べて?」


村山「……分かったから、その一志というのは……」


奏「一志は私の弟だから一志なの。分かった?」


村山「……分かったよ、姉さん」


村山「(彼女は……どこまで本気なのだろう?)」



村山「……………………」パクパク


奏「ふふ……おいしいね一志」


村山「あぁ、姉さん」


村山「(無論、佐々木が俺の実の姉という落ちではない。そもそも年齢自体俺の方が上だ)」


村山「(佐々木が俺のことを弟と呼ぶのは今まで弟というものを持ったことがないからだと佐々木は言う)」


村山「(しかし、たとえ弟を持ったことがないとしてもここまで狂った行動に出れるものだろうか?)」


村山「(始まりのあの時の夜、俺は覚えていないのだがあの時佐々木に何かをして、それが佐々木の何かを刺激したらしい)」


村山「(それ以来、佐々木は何かと俺の世話を焼くようになり、今では弟扱いするようになった)」


村山「(佐々木の恐ろしいところはその行為がフリなのか、もしくは本気で俺のことを弟だと思っているのか分からないところだ)」


村山「(もちろんフリだと思いたい。しかし弟であることを反論すると佐々木は妙にイライラする。さっきまで教師と生徒の関係だった筈が急に兄弟みたくなる)」


奏「あっ一志、口元にごはん粒が付いてる」


村山「むっ」


奏「取ってあげる……一志はお子ちゃまね」


村山「(フリだったら……良いんだけどな)」



村山「ふぅ、ごちそうさま」


奏「ふふっ、ごちそうさまでした。綺麗に食べてくれて嬉しいわ、一志」


村山「……さて、そろそろ戻るか。私も仕事があるし……?、どうした?」


奏「ねぇ一志、もう少しのんびりしない?」


村山「いや、私には仕事が……」


奏「お願い、一志が消えてしまいそうな気がして……怖いの」


村山「……分かったよ、10分だけだぞ?」



奏「ふふっ……よしよし」


村山「(女生徒に膝枕される教師……見つかれば一発でクビ、もしくは逮捕だな)」


奏「一志……私最近怖い夢を見るの」


村山「……どんな夢なんだ?」


奏「一志が私を置いていく夢。ここのところ毎日よ。もう参っちゃうわ」


村山「それは弟離れしろという啓示では?」


村山「(そもそも俺は佐々木の弟では無いのだが)」


奏「何言ってるの?一志は私がいないと何も出来ないんだから、離れたら困るのは一志よ?」


村山「私はその方が助かるのだがね」


奏「私は嫌よ……ねぇ一志、兄弟はいつだって一緒にいなくちゃダメなの。姉がいなくなれば一志は一志じゃいられなくなるように、一志がいなくなれば私は私じゃいられなくなる」


村山「……それは共依存というものではないか?」


奏「お互いがお互いを必要としているだけよ」


村山「(佐々木の場合、ただの依存のようにも見えるが)」


村山「もしも、私が姉さんの元からいなくなったらどうする?」


奏「……静かに、ご飯を作って帰ってくるのを待つわ」


村山「(愛が重すぎる)」




ガララ、ガチャ


村山「さて、私は職員室に戻ります。佐々木も予習復習等でお昼休みを過ごすように」


奏「もう、相変わらず硬いんだから先生は」


村山「教師として遊んでろとは言えないからな。別に守る必要は無いぞ?成績が下がって困るのはお前だしな」


奏「先生の意地悪ー!」


村山「ははは……」


村山「(2人の時間以外では教師と生徒の関係に戻るから少し安心する。正直姉としての佐々木はちょっと苦手だ)」


奏「先生ー?」


村山「何だ佐々木、忘れ物か?」


奏「今日は先生の家に行くからご飯作って待ってるねー!」


村山「……あぁ」


村山「(俺と佐々木の関係は家の家事を任せるくらいには発展している。悪化しているとも言うが)」


村山「(その内誰かに見つかって逮捕されるんだろうなぁ俺……トホホ)」




おわり

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