第13話 フューチャー

地球 西暦 3015年


人間の愚かな行いで数百年の間、放射能の霧に包まれていた地球。1組のカップルの愛のおかげで再び地球の大地に陽の光が降り注ぐ。新しく生まれた地球は水と緑の溢れる美しい姿を15年も保っている。


「お父さん! お母さん!」

小さな双子の男の子と女の子が笑顔で楽しそうに走って駆けてくる。

「飛鳥! さくら! 転んじゃダメですよ!」

子供たちの母親、愛子20才が自分の双子の子供を心配して言う。

「キャア!?」

案の定、女の子がつまずいて転んだ。

「うえええ~ん! 痛いよ!」

そして泣き出し地面に座り込んでしまった。。

「さくら、大丈夫か?」

娘の元に父親がやって来て、泣いている娘に優しく笑いかけながら手を差し伸べる。子供たちの父親、氏家隊員35才である。

「や~い! さくらの泣き虫!」

男の子は女の子をからかう。

「さくら泣き虫じゃないもん! 飛鳥の意地悪!」

女の子の反撃が始まる。男の子を追いかけボコボコに殴ろうと拳を振り上げている。

「フフフッ。」

母親は2人の子供が楽しそうにはしゃいでいるのを見て喜ぶ。

「ハハハッ。」

父親も母親に寄り添い子供たちが追いかけっこをしているのを安らかな気持ちで見守っている。

(お父さん、お母さん、愛子は好きな人に囲まれ平和に暮らしています。)

かつての娘は隊員に育ててもらい共に生きてきた。そして2人の子供を授かり水と緑の溢れる美しい地球で幸せに包まれて暮らしている。

(地球を守ってくれて、ありがとう。)

娘は地球の一部になったであろう自分の父親と母親に青空を見上げながら感謝の気持ちを心の中で思う。今の自分の幸せと美しい地球があるのは自分の父親と母親のおかげなのだから。

「飛鳥もさくらさんも愛子が笑顔で暮らしていることを見守ってくれているよ。」

隊員は妻が青空を見上げる時は父親と母親を思い出している時だと知っていた。また自分の命の恩人でもあり、妻の父親と母親の名前を自分たちの双子の名前に付けた。

「そうね。氏家。」

愛子は結婚しても隊員の呼び方を氏家から変えることができなかった。名字の呼び捨てで子供の頃から接してきたので、氏家と呼ぶことが2人の間では普通であった。

「さくら、飛鳥、ご飯にするから手を洗ってらっしゃい。」

母親になった愛子が殴り合いをしている子供たちに言う。

「は~い!」

娘のさくらは笑顔で手を洗いに水辺に向かう。

「・・・はい。」

息子の飛鳥は手加減無しのさくらにボコボコに殴られて元気はなかった。



地球 西暦3015年


放射能の霧が取り除かれ、奇跡の谷を中心に水と緑の溢れる美しい地球を再生している。人類の生き残りは純粋な心を持った100人程度だった。生き残った人々は争いを起こさないために日本人という言葉を捨てて、地球人という呼び方を選ぶ。


「隊長! 氏家隊長!」

愛子の家族が暮らす家に1人の隊員が慌ててやって来る。隊員はいつの間にか隊長に格上げされていた。隊員は放射能の霧が取り除かれ、本来の姿を取り戻した地球を守り続けていた。生き残った人々に認められて隊員は隊長と呼ばれるようになっていた。

「どうした!? 神代隊員。」

元々、隊長は日本国警備の隊員だった。しかし人種や種族が違うというだけで争うのが人間だと知っていたので、争いを生み出さないためにも日本国という国の名前を捨てて、生き残った人類の名称を地球人と改めた。

「生まれます!? うちの妻が産気づいていて!? 赤ん坊が生まれるんですよ!? どうしましょう!? なんとかしてください国王さま!?」

神代という若い隊員は妻の初めての出産ということでパニックに陥っていたが、もうすぐお父さんになるのだった。

「誰が国王だ!?」

隊長は当初、地球を救った両親の娘さんと結婚するということで国王や王様と言われていた。しかし照れ臭いので元々の隊員からの出世した呼び方である隊長に落ち着いた。

「愛子、神代の奥さんの様子を見に行ってやってくれ。」

隊長は妻に隊員の産気づいている奥さんの様子を見てもらうことにした。

「分かったわ。氏家。」

世間からは一目を置かれている隊長であったが、いつまで経っても妻には昔通りの名字を呼び捨てにされて呼ばれていた。

「俺も地球のパトロールに行って来る。」

隊長は地球を守る活動をしていた。この美しい地球を、また人間の手で壊してしまわないためである。地球の一部になった男性と女性の意志に報いるためにも、水と緑の溢れる美しい地球を守らなければいけないというのが隊長の使命であった。

「お父さん、お母さん、行ってらっしゃい!」

2人の子供たちが出かけようとする父親と母親をお見送りする。

「あなたたち、大人しく勉強してるんですよ。」

母親は子供に言い聞かせる。

「は~い。」

子供たちは調子のよい返事だけだった。

「神代、いくぞ!」

隊長の妻は隊員に案内されて、隊員の自宅に向かっていく。基本、隊長の妻は誰を呼ぶ時も名字の呼び捨てであった。

「はい。こっちです女王様!」

隊長が国王と呼ばれるなら、その妻は女王様であった。隊員も隊長の妻と一緒に去って行った。

「じゃあ、お父さんも行ってくるからな。」

隊長も自宅に子供たちを残して、地球のパトロールに出かけようとする。

「は~い。行ってらっしゃい。」

子供たちは父親と母親を追い出しにかかる。

「いでよ、風の精霊。」

隊長の声に周囲にそよ風は吹き始め風の精霊が現れる。精霊は隊長の体を宙に浮かしていく。そしてそのまま隊長は空を飛んで地球のパトロールに出かけて行った。



地球 西暦3000年


人間は豊かさを求め過ぎて、権力とお金に支配される豚に成り下がっていた。自らの行いで文明は発達したが、地球の自然環境を破壊して、終いには地球すら放射能に覆われていた。


「今日も地球は平和だな。」

風の精霊の力により大空を羽ばたいている隊長。人間は自らの生活を豊かにするために地球の自然環境を破壊した。それは資源を手に入れて物を作りお金を儲けをするという邪な一部の人間の考えが間違っていたからである。

「風の精霊がいれば、自動車も飛行機もいらないのにな。」

隊長は純粋な心の持ち主なので精霊と会話することもできれば、精霊の力で風のように空を飛ぶこともできる。しかし権力やお金が大好きな邪な人間には精霊の姿は見えない。そういう人間が自動車や飛行機を作ったのかもしれない。地球が生まれ人間が生まれたばかりの頃は、人は精霊と友達になることができ空を飛んでいたのかもしれない。

「飛鳥とさくらさんが救ってくれた水と緑の溢れる美しい地球を俺ができる限り守っていくんだ。」

隊長は地球のパトロールをする度に誓うことがある。この美しい地球を守ってみせると。

「愛子と子供たちの生きる、この青い地球を。」

愛する人たちの生きる、この世界を守って見せると誓うのであった。

「氏家、愛子から連絡だ。」

風の精霊が隊長に声をかけてくる。今の時代に携帯電話など便利な物はない。だから携帯電話の製造を巡って貴重な資源の発掘獲得戦争や乱獲をする必要もない。近くに精霊がいて相手と自分の意志が通じ合えば相手の伝えたい声を聞くことができるのだった。

(氏家、生まれたよ! 男の子が生まれたよ! 神代が泣きながら喜んでいる!)

妻からの精霊を使った通信連絡だった。地球警備隊の神代隊員の奥さんが子供を産んだのだった。

「そうか、よかった。愛子もお疲れ様。直ぐにそっちに向かうよ。」

隊長も部下の隊員に新しい家族が出来てとても嬉しそうだった。今の地球の人口は15年前の100人前後から130人から150人ぐらいまで新しい命が増えた。以前のように食料や生活面積を考えて人口の増減を機械的に調整する必要がなくなったのだ。

「良かったな。氏家。」

隊長は風の精霊にも名字の呼び捨てをされている。これは風の精霊が隊長の妻の影響を受けているからである。今の地球は数百年の間、放射能に覆われていたのが嘘と思えるぐらい地球全土の広い領土を誇り、海には魚が、空には鳥が、大地には動物や花や木が生えている。豊かな自然環境があるのだった。人口が増えることに何の不安も無いのだった。

「氏家って呼ぶな!」

隊長は名字の呼び捨ては妻だけでいいと本当は思っていた。

「ハハハッ!」

風の精霊は笑ってごまかす。そして隊長と風の精霊は赤ちゃんが生まれた隊員の家に大空を羽ばたきなが目指すのであった。



地球 西暦3015年


かつて地球は放射能に覆われて陽の光すら届かなかった。人、動物、花や水などの生命は死に絶える死の世界が広がっていた。しかし、水と緑の溢れる美しい地球を取り戻してから生まれた子供たちは青空があることが普通だった。


「いくぞ! 飛鳥!」

隊長の子供たちが楽しそうに走っている。

「待ってよ! さくら!」

2人の子供たちは好奇心が旺盛な年頃であった。

「偉そうなお父さんと口うるさいお母さんがいない間に、地球を冒険するんだ。」

娘のさくらの方が地球探検に積極的だった。娘は幼いながらも父親の隊長の立場を考え、また母親が小言ばかりうるさいので家出をしたいくらいの気持ちがあった。

「そうだね。地球が放射能の霧に覆われていたなんて、大人は嘘を言って僕たちが冒険に行くのをダメって言うんだもん。嫌になっちゃう。ダメって言われれば言われるほど冒険したくなるんだよね。」

息子の飛鳥も、まだ自分が見たこともない所へ、まだ自分が知らない所へ行ってみたいという好奇心が強かった。

「さくら、今日はどこに遊びに行くの?」

息子が娘に今日の行先を聞く。

「海よ! 海を見に行くわ!」

娘は今日は海を見に行くという。自分たちの住んでいる奇跡の谷には緩やかな川が流れ、谷の底に小さな湖があったが、子供たちは海を見たことはなかった。

「海!? どこまでも水が広がっているという海!? さくら、海を見に行くの!?」

息子は驚いた。娘が言い出したのは海を見に行こうという壮大なスケールの冒険スケジュールだった。

「そうよ。青空と同じく、青い水がどこまでも広がる海よ! 空は飛んで端っこが無いのが分かったから、今度は海の端っこを探しに行くのよ!」

以前、娘と息子は風の精霊に乗り空を飛んで、どこまでも広がっている大空の端っこを探す冒険に出た。しかし、大空の端っこを探して帰ってくる前に、地球を一周して奇跡の谷に戻って来てしまった。

「でも・・・空は風の精霊に乗せてもらって飛んでいればいいだけだけど、海の中は呼吸もできないんだよ!? いったいどうするのさ!?」

息子は破天荒で自由奔放な娘と違い、心配事を考えるようだった。双子なのだが娘が物事を考えないみたいなので、息子の方が最悪の場合を考えリスクをケアする性格に育った。

「それは大丈夫よ! 私には秘密兵器があるの! じゃん!」

娘が取り出したのは水の精霊たちだった。娘は母親同様に精霊たちになぜか言うことを聞かせるのが上手だった。

「水の精霊さんたち!?」

息子は風の精霊の次は水の精霊ですかっと、娘の素晴らしい行動力に驚きもするが、少し呆れもしていた。

「この子たちに乗してもらえば、海まで直ぐに着くわ。ワッハッハー!」

娘は勝ち誇ったように胸を張って笑った。

「やれやれ。」

息子は両手をあげて、娘にはお手上げですのポーズをした。



地球 西暦3015年


生き残った人類は文明に頼ることをやめていた。人間が豊かさを求めれば求めるほど地球の自然環境を破壊するからだ。地球から奪い取った資源で最終的に武器を作り戦争をしてしまうからだ。お金なる邪悪な存在は地球から無くなった。


「行け! 水の精霊さん!」

隊長の娘のさくらと息子の飛鳥は水の精霊に乗りすごい勢いで川を下って海を目指している。

「早い! 早い! これなら海まですぐに着くぞ!」

子供たちは自分たちが大冒険をしているという優越感が好奇心を満たしていた。子供たちは純粋な心を持っているので精霊に乗ることができる。地球の自然環境を人間が壊していなければ、乗り物や機械、兵器を人間が作り出さなくても精霊がいれば人間は豊かに暮らせたのかもしれない。

「ああ!? 見えた!? あれが海ね!?」

娘が前方に空の青さと同じように、地面も青色一色の美しい海を視界に捉える。

「すごい!? どこまでも水が広がっている!?」

息子も娘と同じように海を見つけた。普段、陸地で暮らしている2人には水の世界がどこまでも広がっている光景は新鮮だった。

「うわ~あ! 海って、広い! どこまでも広がっているのかしら?」

娘は空と海の視界が全て青い世界に心を奪われるぐらい興奮していた。

「きっと空と一緒で一周して、元の位置に帰ってくるんだよ。」

子供たちは空の大冒険を終えている。息子は空と同じように海も地球を一周していると考えた。

「あれね! 地球は丸かったって言うやつね!」

子供たちの父親の隊長が奇跡の谷の地球人に言った。空を風の精霊に乗って冒険してきたら元の場所に戻って来た。その結論が地球が丸い球体であると結論が出た。

「そうだね。海を進んで行ったら新大陸とかあるのかな? 見つけたら飛鳥島って名前を付けるんだ。」

息子は冒険者らしく、自分で新大陸を見つけたい、自分の島を持ってみたいと夢を持っていた。

「ダメよ。そんなことしたら。先に住んでいる人がいるかもしれないし、自分勝手な私利私欲に1人が走ったら、みんなが好き勝手な行動をとるようになっちゃうじゃない。そんな強欲な人間ばかりになったら、地球から資源を奪い、武器を作り戦争を初めて、水と緑の溢れる美しい地球を破壊しちゃうのよ。」

娘は意外にも人間の愚かさを知っていた。これは父親が新しい地球を守る警備隊の隊長、母親が何度も何度も子供たちに地球の歴史を語ってきたからである。今の美しい地球を守っていくのが、今を生きる人間の使命だと。

「ごめん、自分勝手なことを言って。」

息子は私利私欲を反省した。

「さあ! 海の底に冒険に行くわよ!」

しかし娘は自分の探求心を抑えることができなかった。

「自分はいいのか!?」

息子は娘にツッコミを入れて呆れるのだった。



地球 西暦3015年


水と緑の溢れる美しい地球が再生していた。かつて放射能の霧に覆われて滅びかけた地球を救った純粋な心を持っている人々のことを知っている子供はいなかった。この平和が続くように忘れないで伝えていかなければいけない。


「オギャア! オギャア!」

神代隊員の家で奥さんが赤ちゃんを産んだ。新しい生命の誕生だ。現在の地球人の人口は多く見ても200人もいない。人類存続のためには子供が増えることは望ましいことだった。

「やった! これで俺もお父さんだ!」

父親になった隊員が飛び跳ねて喜んでいた。

「良かったな。神代。」

隊長も駆け付け隊員の家族が増えたことを喜ぶ。

「ありがとうございます。隊長。」

男たちが待合室で喜んでいると扉を開けて隊員の奥さんが出産していた寝室から産婆をしていた隊長の妻が出てきた。

「神代、中に入って。奥さんと赤ちゃんがお待ちかねよ。」

隊長の妻は優しく隊員に声をかける。

「はい!」

隊員は奥さんと赤ちゃんの待つ寝室に入っていく。これから初めての自分の赤ちゃんを見て奥さんと共に新しい命の誕生を喜ぶのだろう。

「氏家、水の精霊から伝言だ。」

その時、隊長の連れている風の精霊が息子と娘が連れている水の精霊から連絡が届く。精霊同士がテレパシーのような意志で連絡を取り合うことができる。

「ん!? なんだろう?」

隊長は心の準備もなしに、水の精霊から連絡を風の精霊を通して聞く。

「飛鳥とさくらが海の底を見たいと潜ろうとしています。私では2人を止めることができないので、氏家、早く止めに来てね。」

水の精霊からのSOSだった。わんぱくな子供たちの冒険に水の精霊が巻き込まれていて、父親である隊長に求めてきた。

「あいつら殺す!?」

キレたのは母親の方だった。新しい命の誕生の感動の余韻はどこかに飛んで行ってしまった。

「まったく困ったやつらだ。俺が行ってくるから、愛子は待っててくれ。」

父親の隊長は妻に子供を迎えに行ってくるから、初産の隊員夫婦についていてあげてというつもりで言った。

「嫌よ! あいつらを見つけ次第、火の精霊を集めて火炙りにするんだから!」

母親の目は燃えていた。問題ばかり起こす子供たちに教育的指導をしてやるんだという目をしていた。

「・・・そんなことをしたら子供たちが死んじゃいます。」

隊長の方が年上なのだが、どうしても奥さんには頭が上がらなかった。

「愛子の名の下に命じる! 風の精霊さん! 大集合!」

奇跡の谷の小さな世界では精霊を100人集めるのが精一杯だったが、水と緑の溢れる美しい地球では精霊を1万人以上集めることは造作もなかった。風の精霊は大好きな愛子の呼びかけにすぐに集まり、海まで続く風の高速エスカレーターを作り出す。

「行くわよ! 氏家!」

隊長の妻が海に向けて出発する準備ができ号令をかける。

「・・・はい。愛子ちゃんについて行きます。」

隊長は何才になっても妻には敵わなかった。



地球 西暦4000年


地球は残っているのだろう? 水と緑の溢れる美しい地球のままで。もしも滅んでいたら太陽が地球にぶつかってしまうとかなのだろうか? それとも愚かな人間が地球を破壊してしまったのだろうか?


「わ~い! 海の中だ!」

隊長の子供たちは水の精霊に包まれて、海の底を探すという大冒険を始めた。

「すごい! お魚さんがいっぱい!」

子供たちは初めて見る海の中の魚や水の中の光を見て興奮していた。自分たちが知らない世界いが、この美しい地球には、まだまだたくさんあるのだと子供たちは実感していた。

「さあ! 水の精霊さん! 海の底まで突き進むのよ!」

娘は水の精霊に海の底まで潜るように指示を出す。

「はい!」

水の妖精は良い返事はするが、海の底という未知の領域で何か危険なことが起こるかもしれないので子供たちの父親の隊長に子供たちが海の底に冒険に行っていることを伝えておいた。

「わ~い! すごいスピード! いけいけ!」

娘は海の底がどうなっているのか興味津々だった。

「あ、どんどん暗くなってきた。」

息子たちは海の底に近づいていた。海面に近い浅瀬から太陽の光が届かない深海にやって来たのだ。

「さくらちゃん、もうそろそろ陸地に戻らない? なんだか怖いんだけど?」

水の精霊も深海にやって来て深海のように、水の精霊であっても、あまり知らない水の領域に不安を感じている。

「そうだよ。さくら、ここを海の底としよう。家に帰ってお父さんとお母さんに自慢しようよ。なんだか僕、怖くなってきちゃった。」

息子も暗く視界の悪い深海を進むのが怖くなっていた。もうお家に帰りたいという気持ちが強くなっていた。

「情けないわね! それでも男なの!?」

娘の方が息子よりも男らしい性格だった。

「そんな!? 僕が男じゃ悪いのか!?」

息子と娘が深海で言い争っている。

「はあ・・・。」

水の妖精は深海で兄弟ゲンカを見て呆れていた。

「ガー!」

その時だった。深海に化け物のような鳴き声が響き渡る。

「な、なに!?」

娘は周囲を見渡し警戒する。

「こ、怖いよ!?」

息子は何も見えない深海で恐怖に襲われる。

「ガー!」

静かだった海流がかき回されるように急激に動き始める。

「うわあ!?」

息子と娘と水の精霊は激しい海流に流されて深い深海に呑み込まれていく。



地球 西暦3015年


もしも死んだ人間の魂が地球になるというのなら、死んだ人間の意志と生きている人間の意志が会話をすることができるかもしれない。それは地球が水と緑の溢れる美しい地球であれば可能かもしれない・・・。


(ああ・・・私はこのまま・・・死んでしまうんだわ。)

激しい海流に流された娘は陽の光の届かない暗い深海を漂いながら死を覚悟した。生き過ぎた好奇心は自らを危険に追いやってしまったのだった。

(さくら、何を言っているんだ!? 生きるんだ! しっかりしろ!)

娘はすぐ隣にいる息子に気づいていない。そして絶体絶命なピンチの時に普段は強気な娘が弱気で、普段娘に怯えている息子の方が頼もしかった。

(飛鳥、さくら、きっと我々は大丈夫だよ。)

その時、水の精霊が子供たちを安心させようとしたのか声をかける。

(水ちゃん!? これのどこが大丈夫なのよ!? 私たち海流に流されて、もうどこにいるかも分からないんですけど!? ああ!? このまま死んでしまうんだわ!? 私の冷たく冷え切った遺体は深海魚に食べられるんだわ!? ああ!? なんて可哀そうな私!?)

娘は悲劇のヒロインの気持ちが分かった。きっと自分の運命を呪いながら死んでいったんだと思った。

(んん!? なんだか明るくなってきた!? 溶岩!? 地球が燃えているみたいだ!?)

息子たちは暗い深海を抜けて海の底、地球の中心にまで海流に乗って流されてきたのだった。海の底であり地球の底は、地球の核であり静かな深海とは逆に、マグマが燃えたぎるような高温の熱量を有していた。

(お久しぶりです。懐かしいな。またあなた方に会えるなんて思っていませんでした。嬉しいな。)

水の精霊が独り言を話し始めた。誰も居ないのに誰かに会っている様だった。その人たちは水の精霊の昔の知り合いの様だった。

(ついに水ちゃんが狂った!? ああ!? このまま海流に流されてマグマに突入して溶けて死んでいくのね!? お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。)

娘はそっと瞳を閉じて死を受け入れようとした。その時、地球の中心が、海底が黄金に光り輝く。その光は人間の姿を形成し、1人は男性に、もう1人は女性の姿になった。

(ま、まぶしい!? 光が近づいてくる!?)

2つの光は深海で溺れ地球の中心のマグマで存在が消えてしまいそうな子供たちを抱きかかえる。

(大丈夫だ。俺がおまえたちを守るから。)

光の男性は子供たちに力強く約束する。

(それにしても海の底を見たいだなんて、わんぱくね。)

光の女性は子供たちに優しく微笑みかける。子供たちは2人の光の人間を不思議そうに見つめている。初めて会った光人間なのに、どこか懐かしく、どこかで会ったことがあるような。

(飛鳥、さくらさん、また会えて、とっても嬉しいです。)

水の精霊が光人間たちのことを飛鳥とさくらだと言う。

(水の精霊さん、私も会えて嬉しいわ。)

光の女性は水の精霊に笑顔で答える。

(何を言っているの!? さくらと飛鳥は私たちだよ!?)

娘は水の精霊に食って掛かる。

(違うよ。この人たちは飛鳥とさくらのおじいちゃんとおばあちゃんだよ。)

水の精霊は子供たちに光人間の正体を紹介する。

(おじいちゃんとおばあちゃん!?)

娘は驚く。

(僕たち地球人の先祖は光人間だったのか!?)

息子も驚く。

(ハッハッハ、もう命も尽き、今は地球の一部として意志だけで浮遊しているのに、まさか自分の孫に会えるとは思わなかった。)

光の男性は苦笑する。それでも自分の孫に会えたことは嬉しいのだった。

(そうね。小さな飛鳥とさくら。会いに来てくれてありがとう。)

光の女性は子供たちをを優しく抱きしめる。

(お・・・おばあちゃん!? おばあちゃん! うえええ~ん!)

子供たちも唐突過ぎて全ては理解できていないのだが、海の底で心細かったのか大声をあげて泣き出し、光の女性に抱きついた。

(よしよし、もう大丈夫よ。)

光の女性は意志だけの存在だが、子供たちは確かに温もりを感じていた。その温もりに子供たちは泣き止み落ち着きを取り戻す。

(さあ、地上でお父さんとお母さんが心配しているから送ってやろう。)

光の男性が子供たちを地上に送り届けてくれるという。

(残念だけど、もうお別れね。)

光の女性は子供たちとの一時の幸せな時間を過ごした。子供たちと別れるのが少し寂しく感じる。

(おばあちゃん、また会える?)

娘が光の女性に問いかける。子供たちも優しいおじいちゃんとおばあちゃんと別れるのが寂しいのだった。

(会えるわよ。目を閉じて地球を感じるの。水と緑の溢れる美しい地球を。そうすれば、いつでも会えるわよ。)

光の女性は子供たちに、また会いたかったので、地球の一部となった自分たちを感じてほしかったのだ。水と緑の溢れる美しい地球を感じてほしかった。

(はい。)

子供たちは素直に返事をした。

(飛鳥、子供たちを地上に送り届けてきて。子供たちを危険な目に合わした、氏家を殴り飛ばしてきてね!)

光の女性は子供たちの父親の隊長をお仕置きする気だった。

(OK! 任せとけ! いくぞ! 水桜!)

光の男性も子供たちの父親の隊長を殴る気満々で子供たちと水の精霊と共に地上に向かって行った。



地球 西暦3000年


悪い夢。水と緑の溢れる美しい地球は人間の手によって破壊し続けられた。しかし壊れた地球を本来の姿に戻したのも人間の愛だった。まさに愛は地球を救い悪い夢から目覚めたのが、地球 西暦3000年であった。


「ぐう・・・ぐう・・・。」

子供たちは自宅に帰り海の底の大冒険に疲れたのか、ぐっすりとベットで眠っている。

「よっぽど疲れたのね。可愛い寝顔。」

隊長と妻が子供たちの寝顔を見て安らいでいる。

「でもなんで俺は水に殴られたんだろう?」

子供たちが海面に打ち上げられてきた時に、隊長はなぜか水に殴られた。

「フフフッ。」

隊長の妻は殴った水に亡き父親の姿が見えた。思わず笑ってしまった妻だが、隊長は不思議な顔をして、なぜ妻が笑ったのか分かっていない。

「この子たちが安心して眠れる世界を作ろう。無くしてから後悔しないように。」

隊長は地球を人間が破壊していく愚かさを続けないために、子供たちが幸せに暮らせる水と緑の溢れる美しい世界を守っていくことを決心する。

「そうね。きっと、この子たちも守ってくれるわ。美しい地球を。」

隊長と妻は寄り添い、この平和で幸せな地球が続いて行くことを願っている。


おしまい。

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水と緑の星に愛を込めて 渋谷かな @yahoogle

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