エピローグ

 俺は、見慣れた通学路にいた。

 コンクリートで舗装された道路。ブロック塀で区切られた家々。宙に浮かぶ映像もなければ、遠くに見える巨大な塔も存在しない。未だに記憶から色褪せることのない、元の世界の風景だ。

 いつもと違うのは。

 最後に見た時と同様に、空には俺の頭上を中心として蜘蛛の巣のような亀裂が走っていて。

 目の前には、最も長い時間を一緒に過ごしてきた二人がいた。

 父さんに、母さん。

 彼らは最後に声を交わした時と変わらない、人間の姿をしている。

 片や出勤中で、片や専業主婦。こんな所まで高校生になった息子を見送りに来るような親ではなく、仕事場から大きく逸れたこの通学路で遭遇するはずもない。

 これは、夢か。

 二人は俺の方を見て、微笑んでいる。

 表情は嬉しそうであると同時に、どこか寂し気で。

 ――どうしてそんな顔をしているんだ?

 尋ねようと思ったが、声が出なかった。歩み寄ろうとしたが、進み出ることは叶わなかった。俺と二人の間は、目に見えない決定的なもので隔てられていた。

 当然と言えば、当然なのかもしれない。

 父さんと母さんは、俺がこの手で殺したのだから。

 ……夢の中で近づくことすら許されないって訳か。

 そう俺が、俯きかけた時だった。

 

「――――」


 二人が、俺に向かって言葉を発した。

 充分に声が届くはずの距離なのに、何故か音が聞こえてこない。それでも何か言ったのだとわかったのは、彼らの口が揃って、全く同じ動きをしていたからだった。

 唇を読むなんて高度な芸当、俺には出来ない。

 それでも、何となく父さんたちの言わんとしていることは伝わって来たから。


「――――」


 俺も倣って、対となる返事をした。

 彼らにも俺の声は届いていないだろう。

 だけど二人の顔から少しだけ翳りが薄まったような気がしたから、きっと伝わっているはずだ。

 俺は二人に背を向けて、今度こそ歩き出す。

 あっちはもう、俺にとって〝前〟ではないのだから――


 ◇


「見知らぬ天井……ではないな」

 目が覚めると、景色は一変していた。

 意識と視界が回復していくにつれ、久しく見ていなかった白い天井がくっきりと見えて来る。宿舎の物より若干硬いベッドに、部屋全体に漂う薬品臭。

 ここは管理局本棟の五〇階。研究室のものとしてフューリーに割り当てられた部屋の一つなのだろう。

 今回は前回と違って、尾を引くような頭痛もないし前後の記憶も明瞭だ。

『黒』との決着がついた直後、時間停止が解除されると共に強烈な頭痛に見舞われ、俺は意識を失った。その後、ラッドか誰かがここまで俺を運んでくれたに違いない。

 ここは前回と同じ部屋なのだろうか。このフロアにある部屋を全て見た訳ではないので違いもよくわからないんだが、あの人の性格を考えるとそんな気がした。

 もしここがそうであるとしたら、すぐ近くに。

「やぁ」

「……わざわざシチュエーションまで被せなくてもよくね?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。私は一応君の主治医みたいなものだし、経過を見守るのは当然じゃないか。ちなみに、ここは前に君が寝ていたのと同じ部屋だ」

「やっぱりか」

 いつかのようにベッドの傍らにある椅子で脚を組んでいたフューリーが、実にわざとらしく笑いながら宣う。出撃前にも一度顔を合わせているのに、随分と久しぶりのように感じた。

「俺、どれくらい眠ってた?」

「ざっと四時間といったところかな。前回の一時間を大幅更新だ」

「ちっとも嬉しくない新記録だな……もうすっかり夜ってことか」

「それだけ時間停止を強制終了したフィードバックが激しかったのだろう。稼働中の機械から主電源を引っこ抜いたようなものなんじゃないか?」

 フューリーも気を失う前の俺と概ね同じ結論に至ったらしい。あんな力をほぼノーリスクで連発していた『黒』はやはり規格外の存在だった。よく俺なんかが勝てたものだ。

「みんなは無事なのか?」

「春近君が頑張ってくれたから、死人はゼロだ。ただ、秀一君は少々はしゃぎ過ぎたみたいだね。いい年をしてあんな馬鹿みたいな体の張り方をしたせいで、今は絶賛療養中さ。瑞葉君とミハイル君が様子を見ていてくれてるよ」

「やっぱ、だいぶ無茶してたんですね」

 あの動きはどう考えても人間の動きを超越していた。限界を超えて肉体を酷使したツケはきっちりと払う羽目になってしまったようだ。

「≪ブリンカー≫も焼き切れる寸前だったし、直すこちらの身にもなって欲しいものだよ。しかも彼が倒れてくれたお陰で、私はこれから孤軍奮闘しなければならなくなった」

「何だそりゃ」

 相も変わらず訳のわからないことを言う。

 不満げな彼女の口ぶりにそんな感想を抱いていると、急にフューリーは表情を真剣なそれへと変えて。

「伝えるべきことが三つある。良い知らせと悪い知らせ、そしてより悪い知らせだ。どれから聞きたい?」

「……一番悪い方から順番で」

「いいだろう。まず一つ目だが、あの黒い変異体のDNA解析が一時間前に終わった」

「っ!」

「肉体の方は例に漏れず、既存の生物とは似ても似つかない滅茶苦茶な配列だったよ。だが眼球部分のDNAは人間のそれと極めて近い構造をしていた。そして……」

 ここでフューリーは、俺の意思を伺うような視線を投げかけてくる。彼女にしては珍しく気を使ってくれたらしい。

 覚悟は出来ている。一つ頷いて促すと、フューリーは、

「君の遺伝子と照合した結果、一部が一致した。あれは間違いなく、君の両親だったよ」

 生物学的に見ても、それが確定的であったことを告げた。

「そう、か」

 わかってはいた。

 わかった上で、手にかけた。

 自分の中で納得したことでも、面と向かって叩きつけられた事実は否応なしに俺の胸を打つ。

 彼女がもたらした情報によって、俺は真に疑いようもなく親殺しを達成した訳だ。

「後悔しているのかい?」

「してないと言えば、嘘になる」

 だけど、何よりも辛いのは。

 全てを理解した上で、やはり涙が一滴も零れてこないことだろう。

 ルナリアにはああ言ってみせたが、もしかしたら俺は僅かに期待していたのかもしれない。もし両親を手にかけたことによる悲しみから泣きでもすれば、自分に人間らしい心が残っている証明になったかもしれないのだ。

 でも、それすら俺はあの瞬間に捨て去った。捨てなければ、あの一歩を踏み出すことは出来なかったからだ。

 彼らは――ルナリアたちは、そんな俺でも受け入れてくれるのだろう。でも、そんな俺を俺自身が受け入れるにはまだ時間がかかりそうだった。

「……解析終了後、彼らの遺体は共同墓地へ丁重に葬るよう手配したよ。折を見て墓参りに行くといい」

「あぁ、ありがとう」

 フューリーは特に追及することなく、それだけを最後に伝えてくれた。普段なら頭を打ったんじゃないかと疑りかかる所だが、今はただその気遣いに感謝する。

 本来なら変異体の死骸は解析や実験へ回された後、まとめて焼却処分となる。そう考えれば、人として葬ってもらえるのは破格の処置と言ってよかった。

「それで、二つ目は?」

「どちらかと言えば私にとって悪い知らせになるが……単刀直入に言おう。私は、晴近君へ渡す情報を意図的に絞っていた」

「……変異体の正体についてか?」

「それもあるが、私は君が時間操作に目覚めていることも、世界移動に伴う存在情報の損傷により精神へ変調をきたすことも、初めて会ったときから知っていたのさ」

 この世界に来て、この部屋で目覚めた俺はフューリーから多くの知識を得た。彼女は俺からされた質問に全て解答し、彼女のポリシー通り情報に嘘は一つもなかった。

 ただし、フューリーは聞かれていないことには答えていなかった。

 聞かれていない、自分にとって都合の悪い情報の一部を敢えて秘匿したそうだ。

「能力の方は君がここでの生活に慣れ、より協力的になってから自然な流れで発覚することが望ましかった。後者に関しても、真実を伝えて混乱させるよりは戦う上での長所とする方が生存率も上がると考えた」

 フューリーにとって、転移者である俺という存在は貴重な観察対象だった。不用意な行動を取られないためにも、無駄に心を揺さぶるような情報の提供は避けなければならなかった。

「若者同士の交流で、精神面の安定は得られると思っていたんだが、まさか君のご両親が現れるなんてね……これぞ天罰ってやつかな」

「科学者のくせに、天罰なんて信じるのか?」

「それくらいに、計算するのも馬鹿らしい確率だってことさ。ともあれ、この世界に来てからの君の苦悩や絶望の大半は、私のせいだと思ってくれていい。その点に関しては、本当にすまないと思っている」

 そう言ってフューリーは佇まいを直し、驚くべきことに俺へ頭を下げて来た。

 何てこった。瑞葉さんではないが、マジでこれ雪降るんじゃないか?

「……おい君、何か失礼なことを考えていないか」

「気のせいだ気のせい」

「やれやれ、折角人が珍しく謝っているというのに」

「自覚はあるんだな。でもまあ、良いよ別に。もう気にしてないから」

「本当に? てっきり私は出会い頭に殴り飛ばされるのも覚悟していたんだが。秀一君に至っては本気でハラキリするつもりだったらしいし」

「全力で遠慮するわ! 確かに色々とショックは受けたけど、今はさっきほど落ち込んじゃいないさ。フューリー室長も不器用なりに励ましてくれたからな」

「不器用は余計だ……全く」

 ようやく頭を上げたフューリーは、幾分かいつもの調子を取り戻していた。まだ本調子という訳でもなさそうだが、どうせ明日には元通りだ。

 彼女が殊勝すぎるというのはどうも調子が狂う。フューリーは普段の付き合ってて軽くイラっと来るくらいが丁度いい。

 しかし、これで悪い話は粗方終わったということになるのだろうか。

「最後の良い報告っていうのは?」

「それについては、見てからのお楽しみだ。もう起きられるかね?」

「一応は。つーか何、結構歩くの?」

 起きれるには起きれるが、俺自身≪アクセラレーター≫も使ってるし身体的疲労も中々のもんだ。寝起きであることも手伝って、あまり遠出はしたくなかった。

「なぁに、少し先の部屋へ向かうだけだ。ゆっくり歩いたって一分もかからない」

 フューリーは何かを企んでいそうな笑みを浮かべながら、先導してさっさと部屋を出て行ってしまった。

 ……もう充分に本調子なのかも。

 彼女の豪胆さを改めて実感しながら、俺ものそのそとベッドから這い出てフューリーに続いた。


 結論から言えば、確かに一分も必要としなかった。

 何にせ、宣言通りゆっくりと歩くフューリーに導かれたそこは。

「五〇二七号室……おい、ここって――」


「だからオレを移動足場って紹介するのは止めろって!」

「えー、でもラッドさんって戦えないんでしょ?」

「然り。ラッド・マイヤーズは個人での戦闘力を有さない」

「せめて支援特化って言ってくれません!?」

「まあ、役に立ってると思うわよ。ラッドがいないと移動が面倒だし」

「……やっぱり移動足場なんだね」

「だ、誰か! 誰か俺の味方はいないのか!?」

「わたしは味方しませんからね。前回裏切られましたからね!」

「チクショー!!」


 フューリーに問いかけるよりも早く、ドアの前に辿り着いた途端中から複数の声が漏れて来た。

 何故か知らんがやたらと騒がしい。いつかのようにラッドが不名誉なあだ名で弄り倒されているようで、室内からは奴の悲鳴が聞こえてくる。

 気のせいだろうか。

 よく知る声の中に、聞き覚えのない声が混じっていたような。

 いや、聞き覚えがない訳じゃない。

 直接ではないが、俺はこの声を聞いたことがある。

 確か、そうだ。

 この世界に来て最初の日に、人生最大の頭痛に苛まれ、意識を手放す直前。

 流れ込んできた記憶の中で聞いた声と、それはよく似ていた。

 あの時は悲痛な感情に満ちた声だったが、今聞こえてくるのは如何にも楽しそうで、朗らかな声だった。

 きっとあれが元々の、彼女本来の声なのだろう。

「目が、覚めたのか?」

「丁度、君の戦いが終わったのとほぼ同時にね。これには科学者である私ですら運命を感じざるを得なかったよ」

 意図せずして漏れた言葉に、フューリーが悪戯っぽく笑い。

「まるで、春近君が全てを終わらせるのを待っていたようじゃないか」

「……そんな、馬鹿な」

 偶然にしては出来過ぎている。

 そうは思っても、これを偶然以外で説明することは果たして可能なのだろうか。

 少なくとも、俺には不可能だ。

「行かないのかい?」

「ま、まだちょっと心の準備が」

「そんなもの会ってからしたまえ」

「ちょ――どわぁ!?」

 俺の静止を待たずして、フューリーはドアを開けると俺の背中を思い切り引っ叩いた。力自体はそれほど強くないのに、体力が著しく低下していた俺の体幹では耐え切れず、よろけるように部屋の中へ放り込まれる。

 背後を振り向けば、にやけ面のフューリーがドアを閉じる所だった。

 あいつ……会ってからじゃ準備にならないだろ!?

 恨みがましい目をドアの向こう側に向けている間にも、室内の面々は俺の乱入に気づいていた。

「ハルさん! やっと目が覚めたんですね!」

「多少の疲労は見られるが、ハルチカが元気そうでなにより」

「良いとこに来てくれた! お前からさっきのオレの活躍をぶぅ!?」

「病み上がりなんだから飛び掛からないの!」

 俺に駆け寄ろうとしたラッドが、ルナリアの肘鉄によって沈む。鳩尾にクリーンヒットして小鹿のように震えながら倒れ伏す彼へ、憐れみとも呆れとも取れる視線が他の二人から浴びせられていた。

 彼らには、言わなければならないことがたくさんある。お礼であったり謝罪であったり、とにかく色々だ。

 だが、今俺が声をかけるべきなのは。


「あ……」

「えーっと、あの、その」

 こちらの方を見て大きな瞳を更にまん丸く見開いた少女に対し、俺はかけるべき言葉が中々見つからなかった。

 こんばんは? 具合はどう? 元気にしてる?

 いくつか候補は挙がるが、どれも当たり障りが無さ過ぎて、しっくりこない。かと言って他に何て言えばいいのかもわからず、言いよどんでいた。

 毎日見舞いに来て見ていた顔のはずなのに眠っていた時とは別人のよう感じ、心理的には初対面に近い。あまり人見知りをするような性格ではないのに、頭の中が真っ白になりそうだ。

 まだ心のどこかで恐れているのだろうか。

 彼女と言葉を交わし、危惧していたそれが現実のものになってしまうのを。

 ……これじゃ、また突き飛ばされちまうかもな。

 尻込みしていても仕方がない。俺には、シアの言葉を聞き届ける義務がある。

 自分で救った命には、最後まで責任を持つべきだ。

 意を決して、とにかく挨拶でもしようと口を開きかけ、


「シア、覚えてるよ」

「――!?」

 不意に、シアの方から俺に話しかけて来た。

 機先を制されて言葉を失っている俺を見つめたまま、シアは続けた。

「痛くて、寒くて、悲しくて。もう駄目なのかなって思ってた時に、あなたの声が聞こえて来たの。しっかりしろ、絶対に諦めるなって」

 確かに、そんなことを言った覚えがある。

 今にも消えかかっていた意識を保とうと、考え付く限りの励ましの言葉をかけた。僅かに反応が返ってきたから届いたとは思っていたが、ここまでハッキリと覚えているのは予想外だった。

「そしたら体が急に暖かくなって、痛みが和らいで……眠くなってきたら、お父さんとお母さんの言葉を思い出したの」

 俺が行った時間遡行の副作用として起きた、記憶の逆流。あれは俺にだけではなく、シアにも起きていたようだ。

 やはり、あれはシアが怪我を負う直前に見た最後の記憶だったのか。

「二人とも、シアに『生きて』って言ってたよ。どんなに辛くても振り返らずに、前を向いて生きてって、言ってたの」

 絶対に振り返るな。

 自分たちの分も生きて。

 いずれも、彼らが娘に託した最後の言葉。

「生きなくちゃ駄目だって。死にたくないって、いっぱい思ったよ……だから」

 だから――


「シアを見つけてくれて……助けてくれて、ありがとうございました」


 それは。

 きっと俺が、心の底から望んでいた。

 他でもない、シア自身から。

 少女の声が浸透していく。

 胸の奥に空いていた隙間を埋めるように。

 欠損した回路が、再び繋がったかのように。

 気付けば、俺は。

「あ、れ?」

 唐突に、シアの輪郭が大きくぼやけた。

 おかしいな、まだ寝ぼけているのだろうか。

 目を何度かこすると視界はクリアになるが、すぐにまた滲んでしまう。顔を拭った手には濡れた感触。頬を伝っていく雫が、顎の先から零れ落ちていく。

 熱かった。

 その熱さは、久しく感じていない熱だった。

 欠け落ちて、失ったはずの熱量だった。

「あれ……どうして俺、こんなっ」

 感情が決壊する。

 溢れだしたものが止まらなかった。

 せき止めようとする指の隙間から滝のような涙が流れ出る。まるでこれまでため込んでいた分を全て吐き出すかのように、涙腺が灼熱する。

 火傷しそうなくらいに熱い感覚が、どうしようもなく嬉しかった。

「どうしたの? どこか、痛いの?」

 すぐ側にいるシアが、心配そうな声を俺にかけてきてくれた。

 そりゃそうだ。

 目の前で突然、自分よりいくつも年上の男がみっともなく、それこそ子供のように号泣し始めたんだから。

 彼女は知らない。

 あの言葉が、どれだけ俺にとって救いになっていたのかを。

 恐かったんだ。

 ずっとこの世界に来た意味を俺は探していた。そんな中俺は、俺にしか殺せないという理由で両親を手にかけた。

 こんなことが俺がここにいた意味なんだと、どこかでそう思っていた。

 だけど、そうじゃなかった。

 俺は奪っただけじゃなかった。この世界で救えた命もあったんだ。


 ただ一言、「ありがとう」と言ってくれただけで。

 シアは、俺が捨てたものを拾い上げてくれたんだ……!


「いや、違うんだ。ただ、嬉しかったから」

「何が?」

「君とこうして、話を出来るようになったことがだよ」

 涙の最後の一滴を拭い去り、俺は精一杯笑って見せた。

 たぶん今の俺は酷い顔をしている。泣きはらした目は真っ赤だろうし、顔中涙でぐしゃぐしゃだ。しばらくはこのことで、ルナリアたちにからかわれるかもしれない。

 悪くない。悪くないこれからだ。

 シアの未来もきっと明るく、輝かしいものになる。

 その始まりとして、まずは沢山話をしよう。

 俺一人では到底語り尽くせないけど、ここにいるみんなに手伝ってもらって。

 だけど、その前に。

 俺からシアに送る、最初の言葉は。


「生きていてくれて、本当にありがとう」



 これが俺――友柄晴近が歩みだす、この世界での最初の一歩。

 全てを失い、それでもかけがえのないものを得て。

 最後にほんの一部を取り戻した、そんな話。

 これからも俺は、この世界で生きていく。

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次元都市アクシス 七夜 @shitiya_pika

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