関係ない
僕が住んでいるマンションの、エントランスに彼女はいた。高校生くらいの女の人がいるな、としか考えなかった。通り過ぎようとした僕に、ちょっといいですか、と彼女は話しかけてきた。
「この辺りで落としたんです。見ませんでしたか」
「何をですか」僕は訊ねる。不得要領な喋り方をする人だな、と思いながら。「何を落としたんですか」
「そうですか」
彼女はがっかりと肩を落とした。僕は眉をひそめる。質問に答えていない。何が「そうですか」なのかも判らない。どうしてがっかりする?
「あの、何を落としたんですか」
もう一度、僕は訊ねた。ゆっくりと、はっきりと言葉を発音して。彼女はきょとん、として僕を見て、ややあって「べつに」とやや不機嫌に吐き捨てた。
「あなたには関係ないじゃないですか」
言って、彼女はそそくさと立ち去った。靴音が小さくなっていく。
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