星じゃないよ

「星が見えるよ」

 雫が、窓から身を乗り出したまま、嬉しそうに振り向いた。危ないよ、と言ったけれど、雫には聞こえていないみたいだった。

「ねぇ、こっちに来なよ。綺麗だよ」

 雫がしつこく呼ぶので、僕は仕方なく座席を離れて、窓の方に寄った。冷たい風が顔に当たる。やっぱり寒い。腕をさすりながら、雫の横に並んだ。雫の髪の毛が風になぶられて、あっちこっちへと翻っている。雫は真っ暗な空を指差した。

「ほら、あれ。光っているの、判る?」

 僕は雫が指す方を見上げた。真っ暗な空に、確かに白い光がぽつんと見えた。でもあれは。

 あれは星じゃないよ。

 気付いたけれど、言わなかった。雫ががっかりするかも知れないから。

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