口淋しい

 さつきはパーカーを着ていた。黒っぽく見えるが、よく見ると濃い青色の布地である。さつきはフードを被っているので、その顔がよく見えない。

「ソフトクリームを買ってこようか?」

 さつきは言った。どういうつもりで言ったのか、顔が見えないのでよく判らない。はかりかねて僕が笑っていると、さつきは視線をこちらに向けた。その顔は皮肉なく微笑んでいた。

「お腹は空いていないけど、口淋しいと思わない?」さつきは首を傾ける。

「口淋しい、っていうのが判らない」僕も首を傾げた。

「退屈だからなにか食べたくない?」

「食べることで退屈が紛らわせるとは思わない」

「わたしは思う」

 さつきはまた向こうを向いてしまった。顔がフードに隠れる。さつきは弾みをつけて立ち上がり、置いてあった鞄から財布だけを取り出して行ってしまった。僕はぼんやりと座ったまま、さつきの背中を見送った。

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