すべてを食べきる頃には

 懐炉は、パンを小さくちぎっていた。眠たいような目をして、パンをちぎって、口に運び、ものすごくゆっくりとしたスピードで噛んでいる。「眠いのか?」と訊ねると懐炉は、無言で、ゆるやかに、かぶりを振った。

 懐炉はパンを小さくちぎる。

 とっくに食事を終えていた私は、その様子をただ眺めていた。窓の外を見、雨が降っているのを確かめて、また懐炉の手元に視線を戻す。懐炉の手のなかのパンは、一向に小さくならない。すべてを食べきる頃には日が暮れているんじゃないのか、と思って、つい噴き出してしまう。懐炉が、私が笑ったのに気がついて、つと目を寄越した。

「ぜんぶ食べなくてもいいんだよ」

 私は頬杖をついて、なるべく穏やかな声でいった。懐炉はどういうつもりだか、唇のはしを持ち上げて作り物っぽく微笑み、首をかしげた。

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