桃に近い

 桃、に近いと思った。

 かすかにだが、桃に似た甘い匂いが漂ってくるのだ。私は香水やアロマの匂いが苦手で、すぐに気分が悪くなってしまうタチだから、つい身構えた。でもこのくらいの薄さなら、大丈夫かもしれない、と思い直す。ゆっくりと溜息をついた。

 果物は、食べるのは好きだけれど、匂いだけのものや、味だけのものは嫌いだった。甘ったるいのが、気持ち悪くて。

 この匂いは何処からきているのだろう。誰かがなにかを食べているのか、こういう匂いの香水や蝋燭があるのか。

 顎の骨を確かめるように、頰に手のひらを充てがう。押し付けて、首を曲げる。無意識のうちに息をとめていたので、また、溜息をつく。だんだんと苛々してきた。この匂いに。

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