鬱金香

 彼女は、枯れた花の前に屈んでいた。ドレスの裾が地面について、土で汚れてしまっているが、彼女が気にする様子はない。教えてあげた方がいいだろうか、と一瞬思ったけれど、面倒臭いからやめた。

「ねぇ」

 不意に、彼女が顔を上げてこちらを見た。呼びかけてくるから、「なんですか」と答える。彼女は花を指した。

「これって、なんの花だったの」

「知りません。鬱金香じゃないですか」

「どうして枯れてしまったの」

「知りませんよ」僕は眉をひそめた。「庭師に訊けばいいじゃないですか、そんなことは」

「あなたは、庭師じゃあないの?」

 彼女は首を傾げた。僕は「違いますよ」と言う。彼女は特に興味がなさそうに、枯れた花に指先で触れた。

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