番外編:能穂矢 透

「んー、なんもネタが思いつかねーなー」

ノートに向かい、頭を抱える透は充電していた携帯電話を取り出し、電話帳を開いた。

「んー、千聖...はダメかな...。サブは起きてるかな」

呼び出し音が鳴って数秒もたたずに繋がった。

『どうしたよ』

「助けてくれ。ネタがない。漫画の! ネタが!!」

『そ、そんな大声で言わなくても聞こえてるよ』

「明後日さ。漫画できてないと俺、廊下走らないといけないんだ」

『は?』

「そう、あれは3日前...、お前が生徒会室に呼ばれたあの日」

『あの...透さん...?』

「俺は千聖とある約束をしてしまった...」

『あの...。なんか回想みたいなの入りそうな雰囲気なんですけd...』



-時は遡り、3日前-

「ねえ、透くん。また漫画見せてよー」

「んー、今ネタがあまりないんだよなー」

「えー、見たいよー。ほらあの『サブライブ!』だっけ? あれ見たい!」

「あー、んー、それならいいかなー」

「本当!?じゃ、明日見せてよ!」

「え?あ、明日かー。あれどこやったけなー。ごめん。見つけたら貸すよ」

「えー、じゃ来週の火曜日までに見せてよ!そっから先私忙しいから!」

「が、頑張るよ」

「もし見せてくれなかったら廊下走って先生に注意されて皆からクスクス笑いの刑だから」

「!!?!?!!?」



「てわけ」

『なんか色々つっこみたいんだけど。まず何、『サブライブ!』て』

「女子高校生『サブ果』とその仲間たちがアイドルグループを作ってライブ活動を...」

『やめろ! それダメなやつだろ! お前著作権を知らねーのか!』

「いや、公表はしないからいいかなと」

『あとさ、お前の彼女さん性格変わってね?側から見るとただのS女みたいなんですけど』

「ひどいなー。俺の前じゃいつもあんな感じだけど」

『お、おう。そうなのか』

あ、サブの野郎、なんか変なこと考えてるな。

『あと、おまえ言い訳下手か。絶対その漫画描き終わってねーだろ』

「だからお前に連絡したんだろ」

こういうのは女子に聞くのがいいんだけど、いまほとんど寝てるだろうし。

『あとはこれだ。廊下走って先生に注意されて皆からクスクス笑いの刑って何?』

「読んで字の如くだよ。走って怒られて笑われるの。恥ずかしいだろ」

『恥ずかしいけど...』

「とりあえず手伝ってくれ! 頼む! 明日振替で休みだろ!?」

『いいけど...。今日番外編って聞いたから結構用意してたのに結局お前の手伝いかよ』

番外編? 何言ってんだろ。俺の漫画の話かな。

「まあとりあえず明日おれんち来てくれ」

『おう」

そこで電話を切り、透は再び机に向き合い、ペンを手に取った。



-翌日-

インターホンが鳴り、外に出迎えるとそこには鯖那智と楓がいた。

「楓ちゃん?どったの?」

「楓の小学校も振替で休みなんだよ。家で1人で居させるのもあれだし、子供の意見も参考になるかなと思って」

「おもってー!!」

「ふーん。ま、上がって上がって」

「お邪魔しまーす」

透の家はマンションだ。まだ改築工事からそこまで経っていない為、中は綺麗。それに透の母親の神経質なところもあって、ホコリすら落ちていない。

「途中だけど漫画見てて。お菓子取ってくるわ」

「おう、さんきゅ」

「さんきゅー!」

台所から数種類のお菓子とお茶(オレンジジュース)を取り出し、再び部屋に戻ると、

「お兄ちゃん!見て見て!パソコン!PCがある!」

「ふっ、ゲーム魂が騒ぎ出すぜ...」

相変わらず仲の良い兄妹だ。

「PCゲームでもする?」

「え、あ、透か。まだいいよ、漫画片付けてから...」

「やるーーー!!!!」

こういう元気の良い妹欲しいなー。

「やるっつっても何ができるんだ?」

「いろいろできるけどみんなでやるなら...Brawlhalla(ブロウハラ)でもやる?」

「何それー!?」

「PC版のスマブラみたいなもんだよ」

「やる!やる!」

「じゃあサブ、このテレビじゃ小さいからこのノートPCリビングに持ってきてよ。俺リモコン取って来るから」

「おう。じゃあ楓、お菓子とか持ってきて」

「あいー!」

鯖那智と楓はノートPC、コード、お菓子や飲み物がのったお盆を持って部屋から出ていった。

「リモコンはっと...あった」

そろそろおやつごろの時間だが、漫画の作成は一歩も進行していなかった。



リモコンを持ってリビングに来ると鯖那智はまだ準備中だった。

「これはここと、これは...。」

「お兄ちゃん、頑張ってー!」

楓はゆっくりとジュースを飲んでいた。

「お待たせ」

「おう、もうそろそろ...。よし終わった」

「オーケーバッチリ。じゃ2人はコントローラーで僕はキーボードでするよ」

「え、キーボードでできるのか?」

「うん」

「ムムッ、このコントローラー、使いやすいのである!」

楓は見慣れないコントローラーをぽちぽちしていた。

「ま、最初は練習しようか」

透はソフトを立ち上げ、3人用に設定した。

「ここが攻撃で、ここがジャンプ...。回避はここで...。操作ボタンは少ない方だから覚えやすいと思うよ」

「おう、さんきゅ」

「早くやりたい!!」

「うん、やろっか」

楓と鯖那智は家で腐るほどゲームをしているので慣れるスピードは早かった。相当やり込んだ透もちょっと油断すると負けてしまう程に。

「あ! 楓! よくもやりやがったな!」

「むっふーーん」

「くっそぉ! 負けんな! 俺!」

ん?なんでサブ達俺の家に居るんだっけ...。なんか忘れてるような...。

透は自分のやる事を忘れるくらい、この状況を楽しんでいた。



「そろそろ夕方だね」

「やっべ、このゲーム面白い」

「面白いー!!」

「よかったよ」

「ところでさ透...」

「ん?」

「俺ら、時間忘れてやってたけど...。漫画どうしよ」

...あ。

「やば! 忘れてた!」

「うん、途中から俺も思い出したけどお前めっちゃ楽しそうだったから言えなかった」

「どうするのー?」

「うーん、明日から学校だよなー。千聖に『漫画あった!?』とか聞かれるのが想像つく」

「その度に『あー、えっとー、まだなんだよねー』としらばっくれるな、お前は」

「ごめん! サブ! 今日俺んち泊まってって! 姉さんも連れてさ! 今日も多分親帰ってこないし!」

「え...。えっとー、楓どうする?」

「PCやりたーい!!」

「...だそうだ」

「まじ神キタ」

ほっと透は安心の息を吐いた。

「風呂とか飯、どうする? 俺んちで済ませてもいいけど」

「姉ちゃんに聞いてみる」

鯖那智と楓は携帯を持つと廊下に出た。

「...姉さん来たらネタ聞いてみようかな。大人の意見て感じか」

数分経つと鯖那智達は部屋に帰ってきた。

「姉ちゃんももう少ししたら来るそうだ。今日が仕事だったから明日は休みらしい。俺たちも一旦制服とか取って来るわ」

「おけ」

「風呂とかはお世話になるらしい。よろしくな」

「よろしくお願いしまーす!!」

「うん、こちらこそ。ありがとなサブ、楓ちゃん」

サブと楓はニカッと笑った。流石兄弟、その様は瓜二つと言えるほどとてもよく似ていた。



日もすっかり暮れた頃、透家にインターホンが鳴った。玄関のドアを開けると予想通り、そこには日暮家がいた。

「やあ、いらっしゃい」

「ごめんね、透君。お世話になります」

「いえ、実は色々あってこっちから頼んだんです。了解してくれて本当にありがとうございございます」

「弟から聞いたわ。ご飯とかは私が作ってもいい?」

「はい、お願いします」

「ん」

「じゃ、透入るぞー」

「入るぞー!!」

「お邪魔します」

姉さんを家に入れたのはいつぶりだろう。なんか気品あって綺麗だよなー。

「...綺麗」

「へぁ!?」

「あ、いや、掃除が行き届いてるなーと思ったの」

「あ、母さんが綺麗好きで」

「何変な声出してんだ」

「うっせ、ネタ考えてたんだ」

なに、動揺してんだ俺...。



「なにかリクエストとかある?」

「基本なんでも食べれますよ」

「肉」

「お肉ーーー!!!」

「じゃあ...。肉じゃがなんてどうかしら」

「お、よかったじゃん透。姉ちゃんの肉じゃが超美味えぞ」

「へぇ。じゃ肉じゃがで!」

「了解」

大人数で飯食べるなんて久しぶりだ。

透はふとそんなことを考えた。彼の母は大手企業の代表取締役を担っているため、家に帰ってこない日が大半である。父も単身赴任で県外へ行っているため、ほぼ毎日夕食は孤食になる。

時折、友達と外食に行ったりはするがなにか満ち足りない気分を味わっている。


こんな風に、家族揃って食べれるって幸せだな。


「おぉお、いい匂いしてきたぞ!透!」

「へ?あ、うん、お腹空いてきたよ」

「お腹空きましたー!!」

なんかサブ達といると俺も日暮家みたいに思えてきちゃうんだよなー。ま、それもいいけどね。

「できたよー」

「楓! 箸だ! こらご飯おかわりもんだぞ!」

「あいよー!!」

「ドタバタ騒がしいなー。サブ、茶碗はそこだよ。楓ちゃん、お箸はあそこ」

「お、さんきゅ!」

「了解しましたー!!」

「ごめんね、家じゃこんな感じなの」

「いえ、むしろこうしてくれると嬉しいです」

透の口角が少し上がる。それを見て明日香も笑った。

「今日はいっぱい話しましょ」

「喜んで」

「おーい、手伝ってくれよー」

「はいはい」

楓と鯖那智の驚異的な配膳のスピードに驚きつつも嬉しそうに笑う透だった。



「「「「ごちそうさまでした」」」」

「ふぃーー、食ったわーー」

「そりゃ、あんだけ食えばねぇ」

「そんなこと言いつつもおかわり2回したよね?透君」

「うっ!?気付かれてたのか...」

「姉ちゃんの肉じゃがだからな」

「なんかそれ、恥ずかしいからやめてくれる?透君、皿洗いの洗剤はどこにあるの?」

「あ、そこの戸棚の所です。すいません、買い弁するんで皿洗いはあまりしないんです」

「別に謝らなくていいわよ」

「手伝うー!!!」

「ありがと、楓」

台所に楓と明日香は消えていき、残った2人は床に横たわっていた。

「さて、飯食べたら漫画のネタを考えようと思ってたが...」

「うん、サブ。俺もそう思ってたが...」


「「...なんか、もうよくね?」」


「俺食い過ぎたわ、流石におかわり4回はヤバかったな」

「クスクス笑いの刑もどうでもよくなってきた」

サブ達といると本当に時間が経つのが早く感じる。久しぶりに満ち足りた気分だ。

「なあ、サブ」

「んー?」

「ありがとな」

「え?なんだよ急に」

「んーん、別に気にしなくていいよ」

「...?変なやつ」

言いたかったことを言うとドッと睡魔が押し寄せてきた。欠伸を1つし、静かに目を閉じるとすぐに透の意識は遠くなった。



「あれ、透君寝ちゃってる。鯖那智も」

「本当だー」

「楓も。目がウトウトしてるよ」

「眠いむい」

「ちょっと待ってて、ベッドは...私と楓がお母さん達のとこ使っていいて言ってたな。どこだろ」

楓と明日香が寝室を探しに行った時、透は目を覚ました。

「...あ、やべ。眠ってた」

向かいを見ると、静かな寝息で寝ている鯖那智の姿があった。

「おい、こんなとこで寝ると風邪引くぞ」

「......ほぇ!?は、透か...」

「部屋で寝るぞ」

「...んー」

虚ろな目のまま鯖那智は起き上がり、寝室に向かって行った。

「...戸締りしたかな」

独り言を呟くと廊下から明日香が顔を出した。

「あ、やっぱ起きてる」

「今起きました」

「さっき鯖那智とすれ違ったから。ベッドまで大丈夫?」

「はい、ありがとうございます」

「んーん、じゃ私は戸締り確認してから寝るね」

「あ、はい、おやすみなさい」

「おやすみー」

明日香は手をヒラヒラと振ると玄関の方に向かって行った。透も寝室に向かおうとすると

「あ、透君」

「はい」

「これからも鯖那智よろしくね。あいつ、ああ見えて寂しがり屋だから」

「...こちらこそ」

「それと、今度話聞かせてよ。ご飯の時しかあまり話せなかったから」

「はい」

そう言うと明日香はニコッと笑い、再び玄関に向かって行った。

寝室に入ると、先程敷いた布団に鯖那智が寝ていた。

「...いい家族だな」

透はベッドに入り、目を閉じた。



「...ん! ...おる君! 透君!」

「...んあ?」

「朝だよー!!」

「...う、うん。ありがとう」

「...楓ぇ、朝から元気すぎだぞぉ」

横を見ると半目の鯖那智がいた。寝癖つきなので今起きたのだろう。

リビングに行くと既に朝飯が用意されていた。台所の方で音がするので明日香がいるのだろう。

「いつもこんな感じ?」

「あぁ、うちの家族は朝が強い」

「おはよう透君、鯖那智」

「おう、もう食っていいか?」

「いいけど早食いはダメだからね」

「わかってるよ」

「楓も準備できたー!!」

「うん、楓も食べるよ」

「あい!!」

楓と明日香が席につき、食卓を囲んだ。

「じゃ、手を合わせて。せーの!」

「「「「いただきます!」」」」

いつもは感じ取れない満足感のある朝飯を久しぶりに味わうことができた透は、いつもよりも嬉しそうに笑っていた。



「戸締りできたかな」

「はい、大丈夫だと思いますよ」

戸締りを確認し、4人はマンションを出て、駐車場に来ていた。

「じゃ、私は楓送ってくから。透君、本当にありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」

「ふふっ、行ってきます」

「行ってきまーす!!!」

「いってらー」

「いってらっしゃい」

手を繋ぎ、鼻歌を歌いながら2人は車に入っていった。

「行くぞ」

「おう」

朝の登校の道を鯖那智と歩く。途中で明日香の車が通ったので手を振る。

とても楽しかった。透は純粋に幸せを感じていた。

「あ、透くーん! 日暮くーん!」

声がする方をみると神崎 真矢と、錦 千聖がいる。よく見るとその横には風 花音もいた。

「お、朝から人気じゃん。よかったな」

「サブも呼ばれてたよ」

「そうだな...」

やっぱりサブはあの3人に苦手意識あるんだな。

「お前はもうちょっとオープンになったらいいんだけどなぁ」

「は?」

「...こっちの話。行くよ」

「お、おう」

吹き抜ける風と共に人の温もりを感じながら透は笑みをこぼした。

「透くーん、漫画見つかった?」

「あー、えっとー、まだなんだよねー」

「えー」

「なになに、漫画って?」

「あ、真矢には言ってなかったね。実はねー...」

「ちょ!? 千聖さん!?」

「鯖那智君、服よれてるよ」

「いや風さん、自分でやりますよ。なんでそんなに近いの」


今日も透の周りには騒がしさが絶えない。



-完
















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ぼっち風でもそこそこ幸せにはなれるのです。 霧巻クイナ @KaKuToYoU

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