unfortunately
血液型占い、動物占い、手相占い、星占い、おみくじ……
物心ついた頃から、とにかくそういったものが好きではなかった。
子どもの頃に観て感動した映画の影響で、未来は他人に導かれて進むものではなく、自分で切り拓いていくものだと信じていたからだ。
一方で、自分の過去には関心があった。正確には、自身が生まれる以前を含む過去のどんな人達の人生が自分につながっていて、いまこの場所にいるのか、いわゆるルーツに対する強い興味があった。それは自分の未来へのヒントになるのでは、という期待があったのだ。
子どもの頃、父に対して何度か、父や祖父や曽祖父、そのまた先の先祖の人生について聞いたことがある。普段からあまり多くのことを語ろうとしない父の返答は、決まっていつも一緒だった。
「先祖代々みーんな、地味に根気よく働いてきたんだよ。宮城にいた頃も、伊達さんと一緒に北海道に移り住んでからもそうだよ。だからお前もそうしなさい。ずうっと代々そういう真面目な家系だったんだよ」
芸術系の分野に強く惹かれ始めた高校生の頃、果たしてこれからアートやデザインのスキルを身につけ、それを活かして働くことは「地味に根気よく」に当てはまるのか? について悩んだが、他に全くとりえがなかったこともあり、その分野に進むことを決めた。
地方公務員だった父とは将来のことで何度も言い合いになったが、美術大学に進学しても必ず中高の美術・工芸の教員免許をとるという約束をお互いの妥協点にして、何とか進学することができた。
成人して就職活動も無事に終え、ひとりの人間としてやっと独りだちできた頃、帰省の際に、僕の仕事の話からいつの間にか、また先祖の話になった。
いつも「地味に根気よく働いてきた」しか聞いてこなかったけど、そろそろもう少し具体的な話を教えてよ。父に対して、僕は以前より少しだけ強めに要求してみた。
父は長いこと沈黙している。母は犬達と静かにバラエティ番組を観ている。
今回も聞けずじまいかなと諦めかけた頃に、父が口を開きはじめた。
「お前が知ると変な影響があるんじゃないかと思って、本当のことは言わずにいた」
ルーツは今まで宮城県だと伝えていたが、実際は全然そんなことはない。
祖父も曽祖父も父と同じく多くを語らない性格だったが、父が彼らから聞いてきた断片的な情報をまとめると、もともとは四国の、香川県のあたりに代々住んでいたらしい。
香川とはまた、想像すらしたこともなかった。生まれた時から道産子の僕にとっては、とんでもなく新鮮かつ驚きの情報だ。
で、で、で、どんな仕事をしていたの? 何でいま僕らはここにいるの?
ご先祖様達は、占い師みたいなよく分からない仕事を代々していた。でもどこかの代で、民衆にインチキだと言われて袋叩きにされて、身ぐるみはがされて命からがら東北に逃げてきたらしい。そこからは心を入れ替えて、農民だとかの仕事を地味に根気よくやってきたという言い伝えだ。
これまでお前に話してきたことは、ご先祖様が東北に移ってきてからの話だよ。
自分がなぜ極端なまでに占いを好きになれないのか、ものすごく納得できたような気がした。遠い昔のご先祖様がひどい目にあった時に、彼か彼女のDNAに、子々孫々の世代まで傷跡が残るレベルの深手を負ってしまったのかもしれない。
ご先祖様が占い師だったとお前に伝えた時に、万が一お前もそういう不安定な仕事で楽に生きたいとか考え出したらいけないと思って、伝えずにいたんだ。
そんなわけねえだろ!
その時の父のなんともいえない苦々しい顔と、母の我関せずを決め込んだ態度に笑ったのはいい思い出だけれど、まあ、無理に聞き出さなくても良かったことだったのかも知れない。
結局のところ僕は、世間一般に安定しているとは認められがたい種類の職業について、なんだかんだあってもずうっとその仕事を続けている。
fragments foghorn @foghorn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。fragmentsの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
雪月花のメモワール/蒼衣みこ
★17 エッセイ・ノンフィクション 連載中 743話
大学紀行辞典/天久京間
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 6話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます