繰り返す夏休みと花束

神にゃん

"繰り返し繰り返す"

 蝉も本格的に鳴き始め、下げられるならば音量を0にしたいほどうるさかった。近所の奥さんと飽きるほどおしゃべりする母によると周辺のみんなは夏休みを利用し長期宿泊をしていた。

 かくいう母も父と毎年記念日と称しでかけている。場所は0円。よくわからない。

 自分は自宅で怠惰を貪る毎日。宿題はとうに終わらせているため、本当にやることがない。

 さっきも言ったが周辺は国内外問わず旅行なので、空き巣にとっては歓迎もいいとこ。お察しの通り数少ない友達もでかけているので、遊ぼうに遊べず。


 とはいえ、家事はやらなければ自宅がゴミ屋敷の如く散らかるので掃除や毎日その日のご飯の買い出しに行くぐらいはしている。

 そしてその買い出しに行くために、衣服を着替えた。

 こんな暑い中外出はしたくない。されど買い出しは必要なために出かけることを余儀なくされる。


あ、お兄ちゃん!と声を張り上げるのは近所に住む妹分の女の子。母が仲が良いばかりに子守りなどもよく任されていた。唯一旅行ラッシュに流されず自宅で過ごす家族の一つ。今日もまた、買い物帰りに公園に寄るつもりでいつものように待ち構えていたのだろうか。

 一緒に行こ?

 そうだな。行くか。

 しかし、玄関を出た玄関先で妙な違和感を覚える。

 気の所為と流せるぐらい極わずかな変化。そんな違和感。ピリッと体にわずかな電気が走ったような………。熱中症かなと後で水を飲もうと思って、まずは自販機に向かうとしようか。

 と、長考しても仕方がないので、門を開けて敷地を飛び出そうとしたと同時に違和感は確信になった。


 無色透明な流れのない水の壁を、小石がトプンと水を弾くような、飛び込みをしたような空気から水への体感の変化に襲われ、気がつけば無音の世界にいた。


 ゆっくりと、耳には心地よく時間の流れを感じるように、水中の中のような胎児が子宮の中に居るような優しく母に抱かれるような感覚。しかし闇の帳に包まれたような嫌な悪寒もあったが、心地よく感じていた。


 スゥーと体の力が抜けリラックスできた。体の力がどんどん抜けていく。このまま軽くなり浮いてしまうのではないか。そんな心配すらしてしまうほどに。

 でも、深海に潜るように体が軽くなるほど沈んでいき光が失われていくような…それでいて視界はテレビのノイズのようにゆっくりと赤黒く染まっていく。 

 瞼を閉じているのか。瞼という血の通う皮膚を通してみるあの赤い景色。あれだろう。冷静に考えたらそうだ。

 街中の人々などを遠巻きに聞いたような雑音。心地よい感覚から掃除機に吸われたような感覚と同時に聞こゆる不快な音。それをうるさいと感じるまもなくスゥと意識が遠のいた。


 やはり疲れているのかな。


(あ、お兄ちゃん!!一緒に行こ?)

(そうだな。行くか。)


 ザーッ、ザーッ━━━━━━━━。

えー…ニュースをお伝えします。

最初のニュースです。一昨日の朝、〇〇〇〇(18)さんと、近所に住む8歳の少女〇〇〇〇ちゃんが、一方通行を逆走し、警察から逃げようとしていた強盗の車に跳ねられ、搬送された病院で死亡が確認されました。

 引いた強盗犯は未だ逮捕されておらず、警視庁では指名手配を行い注意と情報提供を呼びかけています。

続いて天気予報で……。


あれから幾年経っただろうか。

テレビを消した画面には、俯く父と母の裸足の下半身だけを写していた。


今なおその公園には、無人のブランコが揺れ、青年と少女の声が聞こえる噂が絶えないという…………。

そして、元いた家は売り払われ首なし夫婦がぶら下がっているといういわく付き物件になったのだとか。

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