エピローグ「結果」

 ところで、この話にはちょっとしたオマケがある。実は俺の特異な体験は、あの日の夜だけでは終わらなかったのだ。

 俺はてっきり、排油を済ませればリリィは元通りになると思っていた。しかしどうやら、排油に関する行動パターンは俺が思っていた以上に繊細だったらしい。

「使用済みオイルの容量が50%以下になりました。排油を開始します」

 夕飯の材料を買った帰り道、リリィは唐突にこんなことを言って立ち止まった。そして買い物袋を地面に置いたかと思うと、スカートをたくし上げて下着を外す。

 もちろん、周囲には通行人が行き交っているし、俺たちに奇異の視線を向ける者も少なくない。リリィの外見はほとんど人間と変わらないのだ。

 俺はもう慣れているので、小さくため息をついて携帯用の小型タンクを取り出した。そしてしゃがみ込んだリリィの股間にあてがったまま両手でタンクを支える。タンクの中にオイルが注がれていく小さな手応えが両手に返ってくる。

 リリィに公園で排油させたあの日以来、彼女は場所を選ばずに排油を実行するようになってしまった。そのため、俺はこうしてタンクを持ち歩き、どんな時でもリリィの排油に対応する羽目になった。初めはとても困惑したが、今ではもう慣れたものだ。

 排油を済ませたリリィは、しれっとした顔で立ち上がって下着を身に着けた。周囲で驚いている人々の姿なんてどこ吹く風だ。

 これではまるで、彼女が露出趣味の変態のように思われてしまいそうだ。いつ通報されてもおかしくない。

 しかし、俺はどうしてもリリィを咎めることができなかった。リリィがこうなってしまったのが俺のせいである手前、俺から彼女にどうこう言うのは理不尽なような気がしたのだ。そのせいもあって、あれから数ヶ月が経った今でも彼女の悪癖は直る気配が無い。

 俺は再び小さくため息をついた。これは、リリィをいじめた俺への天罰だろうか? だけど俺は、今の境遇を単なる苦痛ではなくある種のご褒美のようにも感じていた。

 あの日までのリリィは、開発者の思惑通りに確実に仕事をこなすだけの良くできたロボットだった。だけど俺はあの日の夜、彼女の思考回路に消えない傷を残すことができたのだ。それがまるで、リリィが俺のパートナーである証のような気がして嬉しかった。

 だから俺は、リリィが排油をしている姿を見ると、心の底からささやかな充実感が湧き上がってくるのを感じるのだ。

「マスター、どうしましたか? 行き先を変更しますか?」

 買い物袋を両手に持ったリリィが、俺のほうを見ていた。立ち止まったままの俺をリリィはいつもの無表情で見つめている。

「いいや、なんでもないよ。家に帰ろう」

 そう答えて、俺は歩き出した。リリィもそそくさと隣に並んで歩く。

 俺の右手に持った小型タンクの中では、たっぷり注がれたオイルがちゃぷちゃぷと揺れていた。

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ロボ娘と遊ぼう 鬼童丸 @kidomaru

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